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第14章―魂の在りか―

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 曇った空からは冷たい雨が地上に激しく降り注いだ。そこは戦場。誰がの亡骸が地上には山ほど溢れていた。そこに動いているものは誰一人もいない。その上に冷たい雨が降り注ぐ。その日、一人の騎士が戦場から姿を消した。生き残ったのは彼だけだった。それ以外、戦いで全員命を落とした。誇り高いローディンの王宮騎士団は、大将である彼を残して敵に全滅させられた。そこには大きな陰謀があるとは知らずに、彼らは祖国の為に命を捧げて剣を振った。

 全ては国と愛するもの達を守る為に、彼らは自分の命をかけて懸命に戦った。その勇姿は最後の人まで命をかけて戦い抜くといった強い信念があった。傷だらけの彼は、剣を右手に持ちながら屍の上をひたすら歩いた。彼にはどうしても、帰らなくてはならない思いがそこにはあったからだ。その強い思いだけが、彼を前へと突き動かした。冷たい雨が頭上に降り注ぐ。全身が雨で濡れながらも彼は休まずに前をひたすら歩いた。だが、彼はそこで力尽きると泥まみれの地面の上に倒れた。意識も朦朧としてきて、自分が生きているのかもわからなくなった。彼は仰向けのまま雨に打たれた。そこには立ち上がる気力さえも残っていなく、待つのは無常の「死」だけだった。彼は薄れゆく意識の中で大切な女性のことを儚く思い浮かべた。

 あの時、帰ると約束をしていたのにそれを果たせないと思った途端、両目から涙が溢れた。それはどこか、淡い恋のような気持ちだった。彼はその大切な女性に最後まで自分の気持ちを伝えることは出来なかった。それが彼にとって無念でしょうがなかった。首から下げた銀のペンダントを握り締めると、最後に力尽きるように名前を呼んだ。

「ミリアリア様……私は貴女のもとには戻れそうにもありません……どうか……どうか……お許しを…――」

 彼は最後にそう呟くと力尽きてしまった。もう瞳を開くこともない。ただ無常にも冷たい雨だけが地上に降り注いだ。



――遠く離れた国で、賑やかで華やかな音楽と、人々の歓喜する声が街中を埋め尽くした。風に吹かれた花びらが、宙を舞い、祝福のようなパレードが盛大に街の中心で行われた。人々は勇敢なる戦士達を人目見ようと、街の凱旋門へと集まった。そんな中、賑やかな雰囲気に誘われるように一人の少女が急ぎ足で凱旋門へと向かっていった。彼女は慌てた様子で走ると、付き人の老婆は後ろから息を切らせたまま声をかけた。

「これ、ミリアリア様、お待ち下さい……!」

「もう! 遅いわよ婆や! 王宮騎士団が帰ってきたのよ!? 早く行かないと間に合わなくなるわ!」

「ミリアリア様、婆やはもうこれ以上は走れません! どうぞお先に見に行って下さいませ! うっ、ゲホゲホッ…――!」

「もう、婆やったら駄目ね! ならそこで大人しく休んでなさい!」

 小柄でピンク色の長い髪をした少女は、白いドレスを翻すと、慌ただしく凱旋門へと急いだ。青い瞳に透き通るような白い肌をした少女の名前はミリアリア。ローディンの国王「ルワン」の第一王女で、いずれはこの国の女王になる運命を背負った少女だった。だが、その運命を背負うには少女にはあまりにも現実とは欠け離れていた。いずれこの国を担う者であっても彼女はまだ12歳の幼い少女にしか過ぎない。彼女にとって未来はまだ、遠い夢物語にさえ思えた。瞳をキラキラさせながら急いで凱旋門に向かうと、そこで帰ってきた王宮騎士団の隊列を目にした。

 人々は彼らが帰って来ると、一斉に歓声をあげながら暖かく出迎えた。

「英雄の凱旋だ! さあ、今日は街を上げて皆でお祝いするぞ!」

 そこにいた誰もが嬉しそうに喜ぶと、それぞれが彼らの帰りを喜んでいる様子だった。ミリアリアはお城をこっそりと抜け出して、王宮騎士団達の帰りを民衆の中に紛れて一緒に見みると小さな胸を躍らせた。

「まあ、あれがローディンの王宮騎士団達なのね! こんなに近くで彼らを見られるなんて初めて! お城をこっそりと抜け出して見に来た甲斐があるわね!」

 ミリアリアは近くで彼らを眺めると、急に胸の奥が熱くなった。帰って来た彼らの表情は誇らしげだった。そして、堂々としていて彼女はそんな彼らの姿に心を奮わせた。国旗をかがけて行進する姿は彼らの力強さを感じさせた。

「まあ、なんて立派なのかしら……!」

 彼女は騎士達の隊列を眺めていると、そこで誰かに気がついた。騎士団の中に大きな黒い馬に乗っている金髪の長い髪の青年に気がついた。彼は兜を小脇に抱えると、もう片方の手で手綱をしっかりと握っていた。凛々しい顔立ちと堂々とした雰囲気に、彼女は一瞬で胸の中がときめいた。

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