144 / 316
第14章―魂の在りか―
1
しおりを挟む曇った空からは冷たい雨が地上に激しく降り注いだ。そこは戦場。誰がの亡骸が地上には山ほど溢れていた。そこに動いているものは誰一人もいない。その上に冷たい雨が降り注ぐ。その日、一人の騎士が戦場から姿を消した。生き残ったのは彼だけだった。それ以外、戦いで全員命を落とした。誇り高いローディンの王宮騎士団は、大将である彼を残して敵に全滅させられた。そこには大きな陰謀があるとは知らずに、彼らは祖国の為に命を捧げて剣を振った。
全ては国と愛するもの達を守る為に、彼らは自分の命をかけて懸命に戦った。その勇姿は最後の人まで命をかけて戦い抜くといった強い信念があった。傷だらけの彼は、剣を右手に持ちながら屍の上をひたすら歩いた。彼にはどうしても、帰らなくてはならない思いがそこにはあったからだ。その強い思いだけが、彼を前へと突き動かした。冷たい雨が頭上に降り注ぐ。全身が雨で濡れながらも彼は休まずに前をひたすら歩いた。だが、彼はそこで力尽きると泥まみれの地面の上に倒れた。意識も朦朧としてきて、自分が生きているのかもわからなくなった。彼は仰向けのまま雨に打たれた。そこには立ち上がる気力さえも残っていなく、待つのは無常の「死」だけだった。彼は薄れゆく意識の中で大切な女性のことを儚く思い浮かべた。
あの時、帰ると約束をしていたのにそれを果たせないと思った途端、両目から涙が溢れた。それはどこか、淡い恋のような気持ちだった。彼はその大切な女性に最後まで自分の気持ちを伝えることは出来なかった。それが彼にとって無念でしょうがなかった。首から下げた銀のペンダントを握り締めると、最後に力尽きるように名前を呼んだ。
「ミリアリア様……私は貴女のもとには戻れそうにもありません……どうか……どうか……お許しを…――」
彼は最後にそう呟くと力尽きてしまった。もう瞳を開くこともない。ただ無常にも冷たい雨だけが地上に降り注いだ。
――遠く離れた国で、賑やかで華やかな音楽と、人々の歓喜する声が街中を埋め尽くした。風に吹かれた花びらが、宙を舞い、祝福のようなパレードが盛大に街の中心で行われた。人々は勇敢なる戦士達を人目見ようと、街の凱旋門へと集まった。そんな中、賑やかな雰囲気に誘われるように一人の少女が急ぎ足で凱旋門へと向かっていった。彼女は慌てた様子で走ると、付き人の老婆は後ろから息を切らせたまま声をかけた。
「これ、ミリアリア様、お待ち下さい……!」
「もう! 遅いわよ婆や! 王宮騎士団が帰ってきたのよ!? 早く行かないと間に合わなくなるわ!」
「ミリアリア様、婆やはもうこれ以上は走れません! どうぞお先に見に行って下さいませ! うっ、ゲホゲホッ…――!」
「もう、婆やったら駄目ね! ならそこで大人しく休んでなさい!」
小柄でピンク色の長い髪をした少女は、白いドレスを翻すと、慌ただしく凱旋門へと急いだ。青い瞳に透き通るような白い肌をした少女の名前はミリアリア。ローディンの国王「ルワン」の第一王女で、いずれはこの国の女王になる運命を背負った少女だった。だが、その運命を背負うには少女にはあまりにも現実とは欠け離れていた。いずれこの国を担う者であっても彼女はまだ12歳の幼い少女にしか過ぎない。彼女にとって未来はまだ、遠い夢物語にさえ思えた。瞳をキラキラさせながら急いで凱旋門に向かうと、そこで帰ってきた王宮騎士団の隊列を目にした。
人々は彼らが帰って来ると、一斉に歓声をあげながら暖かく出迎えた。
「英雄の凱旋だ! さあ、今日は街を上げて皆でお祝いするぞ!」
そこにいた誰もが嬉しそうに喜ぶと、それぞれが彼らの帰りを喜んでいる様子だった。ミリアリアはお城をこっそりと抜け出して、王宮騎士団達の帰りを民衆の中に紛れて一緒に見みると小さな胸を躍らせた。
「まあ、あれがローディンの王宮騎士団達なのね! こんなに近くで彼らを見られるなんて初めて! お城をこっそりと抜け出して見に来た甲斐があるわね!」
ミリアリアは近くで彼らを眺めると、急に胸の奥が熱くなった。帰って来た彼らの表情は誇らしげだった。そして、堂々としていて彼女はそんな彼らの姿に心を奮わせた。国旗をかがけて行進する姿は彼らの力強さを感じさせた。
「まあ、なんて立派なのかしら……!」
彼女は騎士達の隊列を眺めていると、そこで誰かに気がついた。騎士団の中に大きな黒い馬に乗っている金髪の長い髪の青年に気がついた。彼は兜を小脇に抱えると、もう片方の手で手綱をしっかりと握っていた。凛々しい顔立ちと堂々とした雰囲気に、彼女は一瞬で胸の中がときめいた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる