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第11章―少年が見たのは―
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しおりを挟む「我が竜の魂よ、この者の命を救いたまえ――!」
蒼炎の輝きに包まれた青い炎は、彼の肉体から出ていくと空中を浮いていた。それは不思議な光景だった。彼が手を翳すと青い炎は彼の手の中におさまった。周りは初めてみる光景に、唖然となって驚いた。
「隊長、あれが竜の魂ですか……!?」
「ああ、そう呼ばれているものだ。死者を蘇らすと言われる奇跡の力だ。そしてあれは人と竜の絆の印でもある。俺も初めて見るから正直、驚いている。逸話か単なる迷信だとおもっていたが、どうやらそうじゃないらしい。竜の魂は本当に実在していたんだ……! リーゼルバーグ、やっぱりアンタには昔から敵わないぜ――!」
ハルバートは苦笑いしながら負けたようにフと呟いた。リーゼルバーグは青い炎を手にするとそこで独り言を呟いた。
「この力は我が竜との絆の証し。本来なら、その力を他人に使う事は決してないだろう。そして、それを他人に分け与えることもない。何故ならそれが我が竜と私の誓いだからだ。だが、心優しいリューケリオンは、きっとこのことをわかってくれるはずだ。許せリューケリオン……! そして、この子の命を奇跡の力で救いたまえ――!」
彼は青い炎に語りかけた。すると次の瞬間、青い炎は強い光を放ちながら空中を舞ってそこで2つにわかれた。片方の青い炎は空中を漂うと、彼の身体の中にスッと入った。そして、もう片方の青い炎は、彼の手の中におさまった。周りは再び唖然となって言葉を失った。
「しっ、信じられん……! 宙で炎が2つにわかれたぞ……!?」
隊員の1人は目の前で起きた光景に驚きを隠せなかった様子だった。そして、そこにいた誰もが驚く中でただ一人、欲深い者が目を光らせていた。それに気づく者はまだいなかった――。リーゼルバーグは手の平にある青い炎を少年の方に向けて言い放った。
「さあ、行くがいい……! 暗闇の中をさ迷う少年の光となって魂をここに導きたまえ!」
青い炎は彼の手の平から離れると、宙を浮いて少年の体の中へと吸い込まれるように入って行った。そして、再び青い光が辺り一面に強い光を放った。周りはその光景に動揺しながらも、少年が死の淵から目覚めるのを祈るような気持ちで待った。リーゼルバーグは少年の亡骸を腕の中に抱くとそこで魂に呼び掛けた。
「死んではならん! ユングよ、目を覚ますのだ! 生と死の境界線を越えてはならん! 此処に戻って来い! 決して向こう側へは行ってはならんぞ――!」
リーゼルバーグは切実な表情でユングの傍で語りかけた。
「おい、聞こえているかユング。お前の帰りを待っている者達がここにはおる。それを忘れてはならん。お前の母親も、兄弟も、仲間も、みんなも私も、お前の帰りを待っている。どうか死の淵から目覚めてくれ…――!」
少年の亡骸に語りかけると、奇跡が起こるのを心から願うように手を握った。そして、リーゼルバーグは祈るような気持ちで少年に口づけると、口から生命の息吹きを吹き込んだのだった。その願いは生死の境目にいる少年のもとに一筋の光となって現れた――。
ユングは生と死の境界線を越えるとそこに恐怖はなかった。ただ、大好きな父の腕の中で幸福感だけを感じていた。周りの景色は風景を変えると光の世界へと包まれた。全てが光の中に包まれていくと少年の記憶も段々と薄れてきた。もう自分が誰だかさえも思い出せない。大切な人や、仲間や、自分の過去も、幸せに包まれた頃の記憶も何もかもが遠く離れていった。その感覚は自分が消えるような感覚でもあり、自分の存在が無くなるような冷たい感覚だった。徐々に死んでいくような感覚に少年は恐れながらも、父にギュッとしがみついた。
「ねえ、父さん…――。これが死んで行くって感覚なんだね。自分の存在が無くなるような感覚。ねえ、父さんも同じだった? 死ぬ時って怖かった? 僕は今、凄く怖い。だってそれって自分が消えて無くなるってことだよね…――? それに自分の記憶も過去も全部が無くなって行く。もう、大切なことも思い出せないよ。でも、もういいんだ。僕は父さんと一緒に天国に行くから――!」
そう言って父の腕の中で呟いた。目の前は徐々に光のベールに包まれた。
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