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第11章―少年が見たのは―

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少年の意識は未だに戻らず、生死の境目をさ迷い続けた――。

 草原の真ん中に佇むと、その間を挟んで父と会話をした。

「僕ね。父さんが教えてくれた弓矢が上手く使えるようになったんだよ? 前は全然ダメだったけど、今は一人で狩りだってできるようになったんだ。それに身長だって伸びたんだよ? お父さんやお兄ちゃんには敵わないけど、でもいつか僕だって大きくなってやるんだ。それでね。父さんみたいに強くなって母さんやお姉ちゃんを守るんだ!」

 ユングは向こう側にいる父に向かって、思いきってその事を話した。父は何も言わずに黙って聞いているようにも見えた。何も言わない父に向かって、そこで思いついた事を楽しそうに話した。その空間はまるで別世界のようでそこだけが楽園のようだった。長くそこにいればいるほどに、その場から離れられなくなるような懐かしさが漂った。

「――僕ね。タルタロスで今、竜騎兵の仕事をやっているんだ。新米だから皆に良くコキ使われてるけど、でもいつか見返してやるんだ! そっ、それにね? 竜にだって乗れるんだよ? この事はまだ街の皆には話してないけど、話したらきっと驚くよ! 僕の乗ってる竜はワイバーンなんだ! 大人しくて臆病な性格だけどあいつはとっても良い奴なんだ。きっとあいつとは上手くいくよ。だって僕の竜だもん。それに可愛いしね!」

 ユングは向こう側にいる父にその事を報告すると、笑顔で笑った。

「……でも、僕が竜騎兵になれたのはあの人のおかげなんだ。あの人は優しくて少し厳しい所もあるけど、でも父さんみたいに暖かいんだ! あの人が僕をね――」

 あれ……? あの人って誰だろ? おかしいな、名前と顔が思い出せないや。それに自分の名前と竜の名前も――。僕は何でここに居るんだろ? ここは一体どこなんだろ? ダメだ。思い出すとなんだか頭が……。

「ねえ。父さんがいるここは、もしかして天国なの? 教えてよ父さん、ここはどこなの……?」

 その事を尋ねると、父は無言のまま佇んだ。ユングはそこで頭を傾げると自分の記憶を思い出した。

――そうだ。僕はマードックさんを助けて、そのまま海で溺れたんだ。父さんがここに居るから天国って事かな? じゃあ、僕は死んじゃったのかな? でも、ここが天国じゃなくてもいい。だって目の前には父さんがいるから――。きっと父さんが僕の事を天国から迎にきてくれたんだ。父さんがいるところに僕も行きたいな。また一緒に色々な事を話して、手を繋いで歩きたいな。父さんと狩りに行きたい。父さんと話したい。頭撫でて欲しい。ユングは今までの寂しさが段々と募ってくると、瞳から涙が溢れた。父への想いが募ってくると、ユングは自分から一歩前に歩き出した。


「父さん僕も一緒に連れてってよ! 父さんがいる所に僕も行きたい! ねえ、父さん!」


 ハルバートは人工呼吸をすると、再び心臓マッサージをした。しかし、どんなにやっても少年が目覚める様子はなかった。

「目を覚ませ! 起きろ! 息をしろ!」

 手に力を込めながら彼は、力強く声をかけ続けた。周りは少年が目を覚ますのを真剣な表情で見守った。深刻な空気が漂う中、少年は今だに目を覚ますこともなく事態はさらに悪化した。少年の命の炎は今にも消えかけていた。

「父さん、僕も一緒に連れてって! 父さんがいる所に僕も行きたい! ねぇ、聞こえてるんでしょ!?」

 ユングは一歩一歩前に歩み寄ると、境界線の真ん中で歩みを止めた。

「父さん黙ってないで何か言ってよ……? 僕のことが見えないの? それとも聞こえないの……? ねぇ、答えて…――!」

 ユングは悲痛な声で父に問いかけた。すると、逆光に佇んでいる父の顔が僅かに見えた。その表情はどこか悲しげだった。

「え……? 父さん……?」

 父の悲しげな表情にユングはそこでハッとなった。

「父さん泣いてるの……? どうして……? 寂しいの……? 父さんが寂しいなら僕も一緒に行ってあげる。だから…――」

 踏みとどまった境界線から一歩足を前に踏み出すと、その瞬間、そこで少年の命は途絶えた――。

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