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第10章―決着の行く末―
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しおりを挟むだ、駄目だ……! 何も言い返せなかった……! それどころか怖くて怖じ気づいてしまった……! なんて僕は無力で弱いんだ! く、悔しいっ……!
ユングはそこで悔しさを込み上げると、自分の唇を噛み締めた。
『誰か助けてくれぇ! だれかぁああああああっ!!』
男は溺れながら必死な声で、仲間に向かって助けを求め続けた。だがしかし、彼を助ける者は、一向に現れなかった。そこにいる誰もが見てみぬフリをした。まるで誰もがその男の死を待つかのように――。
ごめんなさい……! 僕は弱いから、マードックさんを助けに行くことはできませんでした……! 僕にもっと勇気があったら、マードックさんを助けに行けたかも知れないのに……! で、でも仕方ない。だってあの人達に目をつけられたら僕は…――!
目の前で溺れている仲間を上から見下ろしながら、複雑な気持ちに襲われた。こうなっていくと最後の望みは2人の隊長だった。然り気無くハルバートとリーゼルバーグの方に目を向けると、言いたげな表情で彼らが気づいてくれることを強く願った。しかし、ハルバートは呆れた表情で両腕を組んでいて全くそこから動こうとはしなかった。そして、リーゼルバーグは未だに沈黙したまま、何かを考え込んでいる様子だった。そうこうしているうちに男の体力は徐々に失いかけていた。そして、今にも沈みそうな状態だった。ユングは心の中でごめんなさいと何度も謝ると、そこにいた大人達と共に自分も見てみぬフリをし始めた。隣にいたリーゼルバーグは、冷静な眼差しで何かを見ているとフと呟いた。
「――もし、囚人が本当に海で溺れて死んだなら遺体はきっとこの近くの海岸に流れている可能性がある。しかし、本当にそうだろうか? ユングよ、お前には何が見える?」
「えっ……?」
「私には、もっと別なものに見える――」
「リーゼルバーグ隊長……?」
「お前が今、何を考えているかは聞かなくても分かる。だが、それは私の勇気ではなく。お前自身の勇気が今試されているのだ。仲間を思う気持ちは時に自分の弱さも越えるだろう。どう有りたいかで、人はいくらだって強くなれる。お前は自分が正しいと思った事を信じてしなさい。私はそれを咎めることは決してないだろう。そうであろうユングよ――」
リーゼルバーグのその言葉に、ユングは突然気持ちが大きく突き動かされた。それは一つの衝動のように、彼の心を一気に奮い立たせたのだった。
そっ、そうだ……! 僕は一体、何を考えているんだ……!? 見てみぬフリをするなんて、それこそ本当の弱虫がすることじゃないか…――! きっと僕の父さんだったら困っている人がいたら絶対に見捨てたりなんてしないはずだ! せめて僕は、亡くなった父さんに恥じないように強く有りたい!
ユングは亡くなった父のことを不意に思い出すと、消えかけた心の炎に勇気の炎を燃やした。
マードックさんは僕が助ける――!
小さな勇気を振り絞ると、ユングは周りの事なんかお構い無しに彼を救出しに行った。駆け出した一歩から足下から勇気が溢れ出すように己の行動を信じた。男は体力が無くなって力尽きると、とうとう海の底へと深く引き寄せられるように沈みかけた。海面から男の姿が消えると周り一瞬息を呑んだ。
「なっ、なんてこった……! もうあれじゃ、助からないぞ……!」
そこにいた隊員達は、彼が海の中へと沈んで行くの目にすると、一斉に大声を出して騒ぎ始めた。ケイバーは上から見下ろしながら滑稽な表情で呟いた。
「命ってもんは、つくづく呆気ないぜ。這いつくばって生きようとしても結局は誰かに奪われるんだからよ。恨むならこの残酷な世界を恨みな――」
そう言って冷めた瞳で呟くと、呆気ない終わりにつまらなそうにした。
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