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第10章―決着の行く末―
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しおりを挟む「あいつの事を悪く言うならただじゃおかねえぞ! あいつだって好きであんな風にな…――!」
ハルバートは怒りに奮えると言葉をつまらせた。ケイバーは胸ぐらを掴まれると、冷やかな表情で言い返した。
「アンタこそ何もわかってねぇんだよ。奴のイカれ具合を間近で見たことがないからな。あれは病気だぜ、それもかなり重傷のな。救いようもない可哀想な子羊ってところだ。どうしてあんな風になったのか、こっちが聞きたいくらいだぜ」
ケイバーはそう話すと、何かを思い出したように突然笑いだした。
「イカれ具合が酷いときは、あいつは死んだ人間の生首を抱いたまま寝てる時があるんだぜ。ある時は夢遊病のように真夜中の廊下を一人で徘徊しては、持ってる短剣で誰かまわずに刺し殺しては歩いているのを何度か見かけたこともある。本人はその事を覚えていない様子だったけどな。それで本気で正気って言えるのかよ。悪いが俺にはそうは見えねぇ。奴は壊れてるんだよ、頭と心が両方共な。アンタはあいつが壊れていく姿を何もせずにただ見てることしかできないマヌケなんだよ!」
ハルバートはその話しに衝撃を受けると呆然となった。胸元から手を離すと、ケイバーはすかさず体を逆転させて、彼の上に跨がった。そして、上からナイフを下に向けて顔の前で翳すとニヤリと笑いながら言い放った。
「当ててやろうか? アンタは罰が欲しいと思ってるだろ? 惚けても無駄だ。俺にはわかってるんだ。アンタはあいつに対して、罪悪感を感じてるんだろ? だから自分から遠ざかって、それをただ離れた所から何もせずに眺めてるんだ。一人の少年が壊れていく姿をそのまま黙ったまま見てる気なんだろ? そして、それが自分に与えられた罰だと勝手に思い込んでいる。でもな、それがアンタが思い込んでいる罰でも、罰はとっくに受けてるだろ。まだ気づかないのか?」
滑稽な表情を浮かべると、そこで皮肉混じりに言い放った。
「お前がまだこうして、生かされてるのがそもそもの罰なんだよ――!」
「なっ、何だと……!?」
「前にあいつが言ってだぜ。お前みたいなのは、マヌケがお似合いなんだとさ。だから愚か者は黙って大人しく見てろってことだろ。それがお前に与えられた罰なら、アンタはそれにでも従っていろ。俺は壊れたがっているあいつをアンタの代わりに支えてやるからよ」
ケイバーはそう話すと、ナイフを地面に向かって突き刺した。
「俺はあいつの望む世界を見せてやる。血の海だろうが、残酷な世界だろうが、何だってな。あいつが望むなら、抱いてやることさえもできる。俺はそれくらい度胸がある男だ。でも、アンタにはそんな度胸はねぇ。ましてや、まともに向き合うのも怖いんだろ。違うか? アンタはあいつを恐れてるんだ。あいつの中にある幻影が怖くてずっと逃げてるんだ。あいつの顔を見ると思い出すんだろ?」
そう言って核心を突くとそこで鼻で笑ってニヤついた。ハルバートはその言葉に僅かに反応すると急に顔色が青ざめた。
「クククッ。何だよ。今のは図星か? まさかとは思ってたけど、やっぱりそうなのか? だとしたらそれは面白い話だ。これで一つ、ここでの暮らしが楽しくなってきた。まあ、退屈凌ぎにはなるだろうけどな。俺は高みの見物でもさせてもらうぜ」
ケイバーは悪人のような顔つきでニヤリと笑うと、不意にそこから立ち上って側から離れた。そして、断崖絶壁の前に立ち止まるとポケットに両手を突っ込みながら話した。
「一つ言っといてやるよ。逃げた囚人を捕まえようが殺そうがあいつは正直どうでも言いと思っている。あいつにとって肝心なのは一つだ。囚人を逃がすなってことだ。つまりこのグラス・ガヴナンから囚人を逃がさなきゃ、あとはどうでもいいんだよ。あいつは人や、周りに関心がないから、興味すら持たない。まあ、壊れてるから当然だと思うけどよ。ただその中で唯一、秩序は守りたいとあいつは思っている。だから今のあいつにとって、目の上のタンコブは囚人の脱走だ。それさえ解決すれば結果オーライだ。壊れた人間の矛盾ってやつは、案外そんなもんで出来ている。逃げた囚人を生かすか殺すか、捕まえるかでウダウダ言っているのは俺達だけであって、奴なら躊躇わずに囚人をとっくに殺してるけどな。問題が解決すればそれで終わりだ。寧ろその問題に自分から首を突っ込みたがるのはアンタの方だけどな?」
そう言って話すと、後ろを振り返って鼻で笑った。
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