運命の番と別れる方法

ivy

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19話

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一人暮らしを再開させるには不安の残る健斗を自宅に引き取るつもりでいた桜宮は健斗本人の断固とした断りにあい病院の前で立ち尽くし困惑していた。

「一人暮らしの家にまたよからぬ奴が来たらどうするんだ」

薬を嗅がされ車で連れ去られたのが自宅を出てすぐの場所だと考えるとしばらく家には帰らない方がいい。そんなもっともな桜宮の言葉にも健斗は首を縦に振らない。

そして
「海のところで世話になる約束なんです!」
そう言ってあっさりと迎えに来た海と共にひらひら手を振って笑顔で行ってしまった。

「本当に大丈夫だろうか」

父親のような顔で健斗を見送る桜宮を三葉は微笑ましく思いながら大丈夫ですと伝える。

「海のお母さんは男性オメガです。本当にいい人で俺もよく遊びに行かせてもらってるので心配ないですよ」
「そうなのか・・」

「・・それに」
桜宮の耳元で三葉が囁く。

「海のお母さんオメガですけどめちゃくちゃ強くて。アルファのお父さんより大きいし筋肉もあるから安心ですよ。あ、お母さん気にしてるので内緒ですよ?」

ふふっと桜桃色の唇の前で人差し指を立てる三葉の様子に一瞬我を忘れそうになった桜宮は咳払いで意識を戻しそれならいい、と駐車場に向かって歩き出した。
もちろん車に着くまでの間に海の家の警護を部下に依頼するのも忘れない。

子供が産まれたら大変な親バカぶりを発揮しそうだなとくすりと笑った三葉はその直後にその相手は自分ではないのだと思い至り落胆する。
己を好いてくれる桜宮も流石に浩太をこの手にかけ犯罪者となってしまえば三葉の事を見捨てるだろう。彼は桜宮仁という一人の人間である前に桜宮財閥の正統な跡取りだ。その両肩には何万という従業員や家族の生活がかかっている。


それに・・
オメガのアルファ殺しは死刑が常なのだ。
酷い時は裁判にかけられるまでもなく早々に執行される。
逆の場合は時として罪にさえならない事もあるというのに。


それでも少しずつ世の中が変わりつつあるのは桜宮のように力のあるアルファが声を上げ少しずつオメガのための法を整備してくれているからだ。本当なら浩太の事も法律で罰して欲しいが、ただそれでは健斗の番解消は出来ないのだ。


早く見つけなければ・・。


そう思いながらも
桜宮の隣にいられる今が永遠に続けばいいとも思う。
そんな相反する願いを胸に三葉はハンドルを握る桜宮の横顔を見つめた。






「まずい」

三葉はカレンダーを見ながら独りごちる。
ヒートが来週に迫っている。その半月後に確か健斗もヒートになる予定だ。

捜査は遅々として進まない。浩太の居所も人身売買の影も僅かな手がかりさえ掴めない毎日に三葉は焦っていた。
絶対にこの二つは繋がっているのに!

オメガ園自体は警察が介入し今のところ不穏な動きはないようだが職員は一様に何も知らない何も変わりないの一点張りだ。
子供達に聞き込みをしようにもオメガ保護法で保護者となる園側が許可しなければ面談は成立せず、それを逆手に取られ一切の接触を禁じられていた。

三葉は以前園を訪問した時の副園長・・今は園長になっている服部の曖昧な態度がずっと心に引っかかっている。
もしかすると脅されているのかもしれない。一度きちんと話をしたい。
まだ三葉がオメガ園にいた頃、彼はとても自分たちを可愛がって大切に育ててくれたのだ。
もし卑怯な手で意に沿わぬ悪事の片棒を担がされているのなら手助けをしたい。自分に何が出来るかはわからないけど。


桜宮が仕事から帰宅したら相談してみよう。そう思いながら三葉は彼の好物であるシチューをぐるぐるとかき回していた。









「俺も行く」

オメガ園の事を伝えるなり桜宮はそう言い放った。

「勝手な行動は絶対許さない。間違っても自分だけで動くな」

初めて聞く桜宮の命令口調に三葉は面食らった。
けれど彼の視線からその言葉が心配から来ていることが分かり三葉の胸は熱くなる。

もっと早く出会いたかった。
詮無いことだが狂おしいほどそう思う。


「早い方がいいな。明日午前中の予定をずらすから一緒に行こう」
「そんな急に大丈夫ですか?」
「早く片付けたい」
「分かりました。よろしくお願いします」

ぺこと頭を下げて三葉は夕食の支度に戻った。


他に当てはない。
明日、何がなんでも
どんな僅かでもいい。
手がかりを掴まなければ・・・。


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