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初デート

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久しぶりの映画館は平日の夜ということもありほとんど貸切状態だった。

映画も人気の作品だけあって面白くアクションシーンも派手で飽きさせない。
俺は久しぶりの娯楽に夢中でのめり込んでいた。

話は山場を越え主人公がヒロインを助け出して甘い雰囲気になった時、肘掛けに乗せた俺の手に賢士が自分の手を重ねてきた。
せっかく集中してるのにと思いながら振り払うのも躊躇われたのでそのままにしているとゆっくり指の間を撫で始める。

くすぐったいからやめてほしい。
それに触り方がいやらしくてなんだかそわっとするんだけど。

しばらく好きにさせていたが一向に止める気配がないので文句を言おうと賢士の方を向いた途端間近に影が落ちて唇が重ねられた。

触れているだけなのに随分と長いそのキスは何だか特別な感じがして身体中から力が抜けていく。

いつの間にかうっとりと目を閉じていた事に気付いたのは賢士の顔が離れてしまってからだった。

「何してんだよ!」
「口開けてキスシーン見てたからして欲しいのかと思って」

我に返って怒る俺に賢士が耳元で囁いた。

「ばっ!!!」
「しーっ」

ほぼ貸切と言ってもまばらだが人はいる。
俺は慌てて口を押さえた。

「悪戯されたくなかったらそんないい匂いさせんなよ」

俺の指を弄んでいた手はいつの間にか背中に回り俺の肩を抱いている。

「仕方ないだろ。ヒートなんだから。薬飲んだのに匂う?」

自分では分からないところが困るんだよなあ。
それでも人に比べるとフェロモンの量は少ないし症状は軽いんだけど。

「は?なんだそれ」

突然賢士の動きが止まる。

「抑制剤飲むなって言っただろ」
「まだ番にはならないって言ったじゃん」

俺がそう言うとため息をついて賢士が離れていく。

なんだよその態度。
好かれてもいない相手と簡単に番になんかなれるわけないだろ。

俺はイライラしながらスクリーンに意識を戻すけど話の続きは全然頭に入ってこない。

賢士の様子を伺うと黙って前を向いてはいるものの映画を楽しんでるようには見えず余計に居心地が悪くなる。

「もう出よう」

たまりかねてそう言うと賢士は黙って席を立った。

「本当に俺のこと嫌いなんだな」
しばらく無言で街を歩いていると賢士がぽつりと呟いた。

その乾いた声色に胸がギシリと音を立てる。

「契約結婚だもんな。考えてみれば本当に番になる必要はないんだ。悪かった。もうお前には触れない」

振り向きもせずそう言うと夜の繁華街を歩き続ける。

本当に俺のこと嫌いなんだな。

さっき賢士に言われた言葉を心の中でそのまま賢士に返す。

賢士にとってみればその方が都合がいいに決まってる。
組長の言うことを律儀に守ろうとしていただけなんだから。

停めていた車まで戻り助手席に乗り込むと賢士からフェロモンの匂いがした。
嗅ぎ慣れた爽やかで凛とした果物のような匂い。

それが今日は特に濃く甘く鼻をくすぐる。

俺のヒートに引っ張られてるのかな。
そうだとしたら申し訳ないな。
帰ったらもう一度薬を飲もう。

車内は無言で空気は重かったが賢士のフェロモンがとても居心地が良く早くついて欲しいようなずっとこのままでいたいような不思議な感覚にとらわれた。







しばらくして車は滑るようにマンションの駐車場に停まった。
降りようとした俺に賢士が今夜は帰らないからと声をかけてきた。

「どこいくの」
「田所がいるから何か有れば連絡しろ」

俺の質問には答えずそう言うと止めたばかりのエンジンをまたかける。

そんなフェロモン出したまま一体どこに行くんだよ。
百合さんのとこ?
それとも他の人?

その人はこのフェロモンに包まれて抱かれるの?
その綺麗な指で気持ちいいところ触れられて
薄い唇でキスされて
愛を囁かれるの?

「夏姫!」

気付いたら俺は運転席の賢士に抱きついていた。

「やめろ!離れろ・・」

俺のフェロモンをまともに喰らって苦しそうに呻いている賢士に構わず首に手を回し頬を擦り付ける。

「夏姫・・!」

どこにも行かないで!
好きじゃなくてもいいから俺だけを見て!

「賢士・・えっちしよ?」
「ふざけんなっ!!キスだけで初めてだってあんなに大騒ぎしたくせにっ!」

苦しそうに息を乱しながらそれでも俺を引き剥がそうと必死になっている。

「キスは初めてだったけどえっちは慣れてるよ」

わざと明るい声でそんな嘘を吐く。
すると俺の肩を掴んでいた手がぴたりと止まった。

「お金のために誰とでも寝たよ。だから平気・・」

どんっ!と助手席のシートに押しつけられる。
軽いやつだと蔑まれてもいい。
嫌われてもいいからどこにも行かないで。
俺以外の人に触れないで。

「言う通りにしてやるよ」

低く唸るような賢士の声。

恐々顔を見上げると
その目には想像していた情欲ではないもっと暗く深いものが浮かんでいた。















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