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★ルート分岐(ルドルフエンド編)★

もう一つの ①

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目の前でルドルフの目が閉じようとしている。
間も無く消えてしまう魂に僕の心は激しく掻き乱された。

どうして?
憎いんじゃないのか?
どんな理由があったとしてもルルテラを手にかけた相手なんだぞ。

でも……





このまま死なせるわけにはいかない。






「八雲先生!」

僕はルドルフを抱きしめ叫んだ。

「ルドルフ様を助けて!」
「……やってみる。ノエル!魔術師を集めて!」
「はい!」

「ルドルフ様!目を開けて!眠っちゃダメです!」

僕は意識を失いかけているルドルフに必死で呼びかけた。貴方は死んでいい人じゃない。
最初こそ誤解があったが、彼は僕のために全てを犠牲にして何度も生き続けた。
そしてやっと僕は生き返る事が出来たのに貴方が死んでどうするんだ!

胸の中にいつもあった小さな棘。

ノエルに淡い恋をしながらもいつも貴方が気になっていた。僕を揶揄ったり、甘い言葉を紡いだり。その度に無性に心が細波を立て、落ち着かなくなった。それは憎しみや同情などではなく……僕は……

「アリス様!国中の魔術師が間も無く到着します!」
「すぐこの部屋に通して!」




目を覚ましてルドルフ!
僕の為に死ぬなんて許さない。





……魔術師達が到着してはや一時間。八雲を筆頭にこれだけの魔力を浴びながらもルドルフが目を覚ますことは無かった。

「魂にかなりの傷がついてます」

高位魔術師の男が痛ましそうにそう言った。

「なんとかして下さい!この国の王です」
「分かってます。分かってますが魔力を上手く吸収して貰えない。もっと親和性の高い魔力が必要です」

親和性。またそれか。

僕の魔力ならどうだろう。ほんの僅かしか残っていないし既に少しずつ消えかけているけれど。
親和性の問題なら少ししか無くても効果はあるんじゃないだろうか。



「ルドルフ様」

僕は暖かい光を手のひらに溜めて直接彼の唇に当てた。

「このまま飲み込んで」

通常なら危険な魔力の渡し方だがほんの少量しか無いから大丈夫だろう。
後は上手く体の中に入ってくれればいいけれど。

ノエルやアーロン、それに魔術師達が見守る中、僕は懸命に彼に命のかけらを注いだ。

「どうして目を覚さないんだよ」

涙が溢れてルドルフの顔に落ちる。それは次々と彼の頬を濡らし、唇や顎に流れた。

「あっ」


その時、微かに感じたルドルフの吐息。それは何かを伝えようとしている。

「ルドルフ様!」

何も考えられなかった。ただそうしなければならないような気がして、微かに動く唇に僕の唇を重ねた。

「……アリス?」
「ルドルフ様……」

しばらくするとまつ毛が震えうっすらと目が開いた。



ああ、神様!!ありがとうございます!!



彼を抱きしめ泣く僕にルドルフはいつもの憎たらしい微笑みを見せた。

「何してるんだお前は。こんな事されたら勘違いするだろうが」
「勘違い?」
「お前が俺を好きだって思ってもいいのか。早く離れろ」

「勘違いじゃないよ」

そう、多分もっと前から貴方を許していた。

「……これは夢か?いや、もう死んだはずだ。じゃあ天国か」

そんな事を言うルドルフに僕は笑ってしまう。

「天国なら好きな事していいよな」
「え?」

そう言うなり死にかけた人間とは思えない力で僕を引き寄せ頬を掴んで口付けをした。

「……んっ!」

それはあまりに激しく長く、今まで経験した事のないもので、それまで蓋をしていた彼への気持ちが溢れて止まらなくなる。

「ルドルフ様!本当にバカなんだから!」
「今俺に馬鹿と言ったのか?」
「言ったよ!バカ!なんで僕の為に死んだりするんだ!もっと国王としての自覚を持って!」

泣きながら怒る僕を見て笑うルドルフ。

「俺にとっては国より民より自分自身よりもお前が大事だったんだ」
「……もう罪悪感なんて感じなくていいんだよ」
「罪悪感?俺がそんな物の為に動いてると思ったのか?」
「違うの?」
「お前を愛してるからだ」


……愛というのはこんなに激しい物だったのか。
ルドルフはそれを僕に教えてくれた。

「あ?なんだ俺は生きてるのか?」
「今更だよ」
「なんだ夢じゃなかったのか。それにしてはお前が俺の為に泣くなんて信じられないんだが」

「愛してるからだよ」
「なに?」



「僕もルドルフ様を愛してる。多分」
「多分てなんだ」


そう言いながらもルドルフの目にはうっすらと涙の膜が見える。
そしてそれを隠すように顔を背けて肩を震わせた。

「ルルテラの父親になって下さい」

「……お前よりは愛せない」
「分かってる。その分僕がルルテラを愛するからいいんだ」

「お前には敵わないな」

そう言って笑うルドルフの顔は今まで見たどんな表情より自然だった。








そんな憎まれ口を叩くルドルフだが、ルルテラが成長するにつれて僕さえ呆れるほどの親バカぶりを発揮するのはまた別の話だ。










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