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★本編★

いよいよ

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 少し落ち着いてからルドルフに「教会に通いたい」と願い出たところ、少し待てとの答えが返って来た。
 だが待てど暮らせど一向に許可が出ない。僕は痺れを切らし再度直談判に挑んだ。

「ルドルフ様、言われた通り安静にしてました。もう元気なのでそろそろ教会に行ってもいいですか?」
「そうだな、そろそろ大丈夫だろう。確認するから少し待ってろ」

 確認?
 何のことだろうと思ったが素直に待っていると「問題ない」との返事が来たので早速出掛けることにする。

「あれ??」

 馬車に乗ってしばらくした所でふと気付いた。馬車の揺れが無いのだ。

「ノエル、今日は随分乗り心地がいいね?」
「はい、陛下に教会までの道の舗装を願い出ました」
「えええ??」

 慌てて窓から外を見るとデコボコだった道が美しく平され端には煉瓦が積まれて花まで植えられている。

「因みに私は馬車のメンテナンスを担いまして、車輪も寸分の狂いもない物に取り替えたので回転時の揺れもありません」

 珍しく少し得意そうなノエルの顔。どうりで最近姿が見えず、他の騎士が護衛につくことが多かった筈だ。

「あ……ありがとう」
「お礼は陛下にお願いします」
「うん、帰ったらルドルフ様にも言っておくけどノエルにもちゃんとお礼を言いたかったから」
「あ、ありがとうございます」

 ノエルの照れてる顔が可愛い。

「これならお腹にも響かずに済むね」
「そうですね」

 そっか、こんなに時間がかかったのはこれが原因か。ルドルフもあんなに子供の事なんてどうでも良いって言ってたのに。

「良かったね、ルルテラ」

 僕は大きくなって来たお腹を優しく撫でた。



「いらっしゃい、まずは少し休んで下さい」

 僕の体を慮ってだろうが、会うなりそう言うナツこそ葬儀の時よりかなり痩せていて、少し休んだ方がいいように見える。

「大丈夫だよーゆっくり動くから。今日は治癒が必要な人はいない?」
「治癒なら隣の街の魔術師にお願いしてます。魔力は極力使わない方が良いです」

 まあ確かに。最終覚醒はしたものの、ルルテラがどんどん吸っちゃうから魔力が上がったと言う実感が全然ないんだよな。

「じゃあ掃除しようかな」
『『やめてください』』

 ノエルとナツに同時に言う。何をしたらいいんだよ。

 そんな僕の目の前にナツが「これをお願いします」と置いたのは布や糸、それにリボンだ。

「造花作りを頼みたいんです。花冠やブーケを作って少しでいいので加護の祈りをお願いしますね」
「何に使うの?」
「結婚式や子供の誕生の時ですね。生花もいいですが造花ならいつでも使えますから」
「分かった」

 それからは毎日不器用なりに懸命に造花作りに励んだ。

 ルルテラを産んだら僕は死んでしまうけど、その後もこの花たちは誰かを幸せに出来るんだ。
 そう思うと寝る間も惜しくなり食事も疎かになってノエルとナツに凄く怒られた。

 僕にはもう時間がない。前生と同じならそろそろルルテラ産まれる。ただ、あの時はルドルフの愛妾に階段から突き飛ばされた事による随分と早い出産だった。
 もしかして僕はそのせいで難産になり死んだのでは?それなら今回は大丈夫そうだけど。

 ……けれどルドルフは何度やり直しても僕は死ぬと言った。それは運命としての決定事項で覆す事は出来ないんだろうか……

 黙々と考えながらそれでも手を動かす。そんな僕にノエルとナツは諦めたようで各々の仕事を始めた。


 それから数日が経ち、大きな箱一杯に造花が出来た頃、ルドルフが僕を迎えに来た。

「どうしました?」
「お前が全然帰って来ないからだろ」
「ああ、ごめんなさい」
「そろそろ産まれるんじゃないかと気が気じゃない」

 ……やっぱり何回目でも早めに産まれちゃうみたいだな。

「じゃあそろそろ城に戻ります」
「そうしてくれ」

 手を取られ馬車に乗り込む。見送ってくれるナツに心の中で最後の別れを告げながら。
 八雲は結局戻ってこなかった。結婚式前夜に話をしたのが最後だ。

 もう一度会いたかった。でもそれは恐らく叶わないだろう。


 馬車は少しの揺れもなく城を目指す。僕は二度と見る事ができない街並みをこの目に焼き付けた。













「不自由はございませんか?」
「大丈夫だよ」

 心配顔のアーロンに笑顔で返す。

「陛下はそろそろお子様が産まれると仰るのですが産月にはまだ早いので医師達も戸惑っております」
「うーん。多分陛下の言うように近々生まれるんだと思う。準備をしておいて」
「左様ですか。皇后様までそう仰るのなら本当なんでしょう。皆に伝えておきます」
「うん、お願いします」

 今の所生まれる気配はまるで無いけれど。

 1日でも長く保たそう。そう思い慎重に歩く。間違っても転んだりしないように。
 とは言えずっと寝ているのも疲れるので、食事くらいは皆と食べようと、部屋から出る為にベッドから降りた。

 その時、僅かに腹に感じた違和感。
 そして脚の間を伝う生暖かい感触。

「あ……」

 まずい。


 床にじわじわと広がる、ルルテラの命を守る液体を目の当たりにして僕はパニックを起こした。

「誰か!!誰か来て!!」




 床に座り込んだ僕はありったけの声を張り上げ助けを求めた。


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