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★本編★

しばしの別れ

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 婚約式が終わった後、無惨な姿の前国王と皇后が寝室で発見され、その遺体は秘密裏に事故として処理された。

「まあ良かったんじゃないの?」

 その後何故か城に居着いたリカルドが僕の部屋のソファに寝転がってそう言う。

「よくはないよね」
「いや、だってお前の暗殺を企んだのは国王夫妻だし直接指示を出したのはあの宰相だぜ?ほんとびっくりしたよ。良くない友達と飲んでる時にお前を殺す依頼があるなんて噂聞いたんだからさ」
「良くない友達……」
「そこはいいだろ。そのツテで暗殺ギルドに潜り込んで助けられたんだから」
「兄さんには感謝してるけどさ」
「まあ陛下もあんまりモタモタしてたらお前が殺されると焦ったんじゃねーの?」
「……」
「それに前の無能な上に贅沢三昧で国民から税金を搾り取ってた王に比べたら今どんだけ暮らしやすいか」
「それは確かなんだけどね」

 国葬もそこそこにルドルフは早速各部署のテコ入れを始め賄賂で私腹を肥やしていた貴族達を粛清し始めた。その後、近隣諸国との国交をまとめ上げ従属国も増やし恐ろしいほどの手腕で国を発展させている。

「当然です。今までも殿下、いや陛下が国政を担っておられたんですから。それを邪魔していたのは前国王陛下です」

 側にいたアーロンが自分の事のように得意気な顔をする。新宰相のアーロンにしてみればルドルフが自分の力を遺憾無く発揮出来る今の状態が嬉しいのだろう。不謹慎ではあるけども。
 でもそんな彼等とも今日で一旦お別れだ。僕は約束通り明日からしばらく教会で暮らすことになる。ルドルフの言う通りまだ結婚には早いしそうなるとここにいる理由はない。何より早く八雲に会って魔力をもっと磨きたかったのだ。

「陛下は今とても忙しくて食事もろくに取られません。皇后陛下が居なくなられたら体を壊してしまうかもしれませんね」
「そんな脅しには乗りません。陛下がそんな繊細なわけないのは知ってるし」
「そんな事ないんですけどね」

 アーロンは苦笑まじりだが僕はルドルフほど王という名が相応しい人物を知らない。側に誰も居なくても彼は立派にその責任を果たすだろう。

「ノエル様がお迎えに来られるんですよね」
「うん。明日の朝って聞いてるけど……あれ?」

 ふと窓から見下ろした中庭に見慣れた銀色の髪が見えた。

「ノエル?え?陛下も???」

 目線の先で木陰に隠れるように二人が何か話している。知り合いだったんだろうか。
 まあオブシュワ家は名門貴族だから次男とは言え皇太子時代に面識があってもおかしくない。
 じっと見ているとノエルが気付いて頭を下げたので僕は笑顔で手を振った。
 それに気付いて振り向いたルドルフの目がとても怖かったのは見ないふりをしておこう。


「アリス様!お会いしたかったです!」

 急ぎ階段を駆け上がって僕の元に来たノエルは跪いて恭しく手を掲げた。

「公爵に酷い目に遭わされたって聞いたよ。本当にごめんなさい」
「アリス様のせいではないです!気にされてアリス様が落ち込まれるとその方がつらいです」

 僕を見つめる蒼の瞳がいつもより濃くなり、愁を帯びる。

「でも……」
「悪いのは公爵家の二人だしノエルも煽るような事言ったからなあ」
「何を言ったの?」

 気まずそうに視線を逸らすノエルに代わりリカルドが当時の状況を説明し始めた。

「親父達が変な薬を持ち出してさ。それを皇室にいるアリスに飲ませろってノエルに命令したんだよ」
「え?何の薬?」
「死ぬわけじゃないけど体の具合が悪くなるやつ。それで家に帰って療養させるってアリスを家に戻そうとしたみたいだぜ。けどノエルはそれを叩き割って親父に物申したんだよ。今までのアリスへの態度とか今後の事とか。親父は大激怒だ」
「あー」
「それで兵士に命令してノエルを地下牢に監禁したって訳だ。ご丁寧に外から傭兵を連れて来て拷問紛いの事をして言うこと聞かせようとしたんだけど頑として屈しなかったってワケ。笑えるのが傭兵がもう無理だって根を上げたことかな」
「笑い事じゃないよ!兄さん!」
「笑い事だわ。ノエルならいくらでも逃げられたのに公爵家を離れたらアリスに会う手段が無くなるって耐え抜いたんだぜ」
「ノエル……」
「……ご心配をお掛けして申し訳ございません」
「まあ全部アリスに会いたい一心だから怒んないでやって」
「リカルド様!」

 珍しく耳の先を朱に染めてリカルドが大声で遮る。ああ元気そうで何よりだ。

「ところでさっき陛下と一緒じゃなかった?知り合いだったの?」
「あ……まあそうですね。久しぶりだったので世間話とやらを……」
「ふうん?」

 多分嘘だ。でもこれ以上聞いても答えてくれそうにない。僕は中断していた荷物の片付けに戻った。

「違うんですアリス様、隠し事をしているわけではなく」

 ノエルが僕の表情に気付き、慌ててこちらに向かって走ってくる。

「うん、陛下に脅されて無いならいいんだ」
「……はい」
「陛下はアリス様をとても大切にされてますからね」

 アーロンがまたもや得意気にそう語るが僕の心境は複雑だった。

 ルドルフのした事を許す事は出来ない。けれどルドルフはまだ何も知らないし何もしていないのだ。むしろ信じられない程良くしてもらってる。それなのにキツく当たるのは罪悪感が湧く。

 それでもルルテラの可愛い寝顔を思い出すたびに胸がぎりりと軋むのはどうしようもない。


 今は一刻も早くこの城から離れよう。
 たまたま会ったオメガの僕が珍しいだけだ。犬猫と同じ様に。
 きっと次に会った時には前生のような人間になっているだろう。

 そうであればいいと思いながら僕は再び荷造りを始めた。















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