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★本編★

国王との謁見

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 アーロンが持って来てくれたのは薬草をすり潰したジュースだった。飲みやすく果物を混ぜてはいたがそれでも美味しい物ではない。複雑な顔をする僕にアーロンは食事を取れたら必要ないですよと笑った。

「そう言えばさっき殿下が公爵家に対価を払わせるって言ってたけど何らかの処分を下すって事だよね?」
「そうです。殿下はすぐに断罪すると剣を持ち出されました」
「えっ?!」
「なんとか落ち着いて頂き一家は釈放されましたがその後が……」
「何かあったの?」
「アリス様にはお伝えしないよう言われましたが……。陛下が殿下の行動に大変お怒りでお二人の仲が険悪になっております」

 それはそうだろう。魔力が無くなり落ちぶれたとは言え昔から皇族派としてずっと王政を支えて来た家門だ。
 それが息子に暴力を振るっただけで断罪するには流石に反発があるだろう。王家からも貴族からも。

「私がこの事をアリス様にお伝えしたのは理由があります。陛下はアリス様の事をよく思われていません。皇后陛下もお気に入りのロザリア嬢を殿下の妃にと準備されて来たので同様です」
「そうだろうね」
「身の回りにお気をつけ下さい。勿論私はずっとお側におりますし食事も全て毒味させます。けれどご自身に危機感があるか無いかで全く違います」

 思いもよらぬ話に僕はごくりと唾を飲んだ。

「分かった。気をつける」
「まずは婚約式までの一カ月全力でお守りします」

 未来は全く変わってしまった。ルルテラと再び会う為にもここで殺されるわけにはいかない。

「宜しくお願いします」

 僕はアーロンに向かって頭を下げた。












 婚約式が決まり慌ただしい雰囲気の中。
 今日は初めて国王陛下と皇后陛下に謁見する日だ。
 前生で嫁いで来た時には既に二人とも亡くなっていたのでこうして会うのは初めてになる。先日のアーロンの話を思い出し僕は気持ちを引き締めた。

「よく来たな」

 謁見の間に入った途端、玉座から国王に声をかけられた。まだ挨拶の体裁も整えてなかった僕は慌てて膝を折り首を垂れ挨拶を返す。

「堅苦しいことはいい。お前の話など聞くつもりは無いからな」

 ああ、やっぱりな。当日になって急に約束の時間を早めたのはルドルフが間に合わないようにする為なんだよね。

「顔を上げよ」
「はい」

 ゆっくりと目の前の二人を見る。国王は忌々しげな顔をしているし皇后も扇子で隠れて口元は見えないが汚い物でも見るような目をしていた。

「オメガですって?しかもまだ十歳やそこらの」
「十一歳です」
「そんなのどっちでもいいわ!どうやってルドルフに取り入ったか知らないけど皇太子妃なんて過分な夢は見ずに家に戻りなさい」
「そうだな。今ならお前の行動も不問にしてやる」

 その横柄な態度に昨日の公爵家の面々を思い出す。この国の貴族が腐っているのはこの国王のせいに違いない。どいつもこいつも家柄を気にして身分の低い人間をあからさまに貶める。恥ずかしいのはお前たちの方だろ。
心の中でそう毒吐きながら黙ってルドルフが来るまでの時間稼ぎをする。何を言われても平気だ。前生でも散々貴族達に馬鹿にされて来たんだから。



 けれど今世では同じ轍を踏むつもりは無い。


「随分おとなしいんだな」
「えっ?」

 すぐ近くで声が聞こえた。

「いつもの憎まれ口はどうした?」

 振り向くとルドルフがニヤリと笑いながら立っていた。

「殿下。早いですね」
「お前をいつまでも一人にするわけにはいかないからな」

 そう言うなり玉座に座る二人をジロリと睨んだ。

「失礼だろうルドルフ!礼儀を重んじろ。」
「そのままお返ししますよ。もう謁見は済んだでしょう。下がらせて貰います」
「なんだと?!このまま結婚するならお前を廃太子にするぞ!」
「そうですか。それで無能な第二王子を国王に?やってみたらどうです?あいつ昨日も俺の所に刺客を送ってきましたよ。ご存知だったでしょうけど。全員の首を切ってあいつの部屋に投げ込んでやりました」

 その言葉に二人が青褪め口を噤む。

「どうせお飾りの王なんだから大人しくしてて下さい。あんまり怒らせるとあなた達こそその地位を失いますよ」

 地を這うような声で両親を脅すルドルフに驚いて顔を見上げるとそれに気付いた彼がふっと微笑む。

「行こうかアリス。まだ体調も戻ってないからな」

 そう言うなりルドルフは僕の手を引き謁見の間を後にした。






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