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★本編★
目覚め
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目を開けるとうっすら白いものが見えた
自分がどこにいるかも分からない
全てのものがぼやけて見える
体も動かないし声も出せない
目だけを薄く開いて視線を動かすと僕を覗き込むノエルと八雲の顔が見えた
「アリス……!」
ノエルの悲痛な声が遠く響いて聞こえる
こんなに近くにいるのに……
なんだか凄く眠い
このまま眠ってしまえば
楽になれるかな
ルルテラのことも
ルドルフのことも全部忘れて
もう一度
深い深い救いの中へと堕ちていこうか……
「アリス!アリス!!」
「……ん」
執拗な呼びかけにうっすらと目を開けた。せっかく眠ろうとしてたのに。
気付くと見慣れたベッドの天蓋。
僕と目が合った八雲とノエルは大きなため息を吐いた。
「良かった」
僕の手を握り何度も同じ言葉を呟くノエル。
立ち尽くしたまま天に向かって祈りを捧げる八雲。
どうしたんだ?二人とも。
僕は起きあがろうと腕に力を込める。
けれどその行為は虚しくシーツを掻いただけに終わった。
「無理しないで下さい。アリス様は半月も眠ったままでした」
「え?嘘」
あ、声が掠れてる。
「本当だよアリス。君は毒を飲んでずっと意識不明だったんだ」
そう言われてはたと思い出す。
舞踏会で痛みと吐き気で意識が無くなった事を。
もしかしてあの時飲んだジュースに?
「なんで毒なんて」
「犯人はまだ捜査中です。絶対捕まえますから」
ノエルの瞳がギラリと冷気を纏う。こんな顔見たの初めてだ。
「ずっと治癒魔法を掛け続けていたので一週間もあれば起き上がれると思うけど」
「うん?」
「実は公爵が無茶を言って困ってる」
「父さんが?」
「意識が戻ったらパウロ男爵の元へ遊びに行かせると」
「パウロ男爵……」
その名前には聞き覚えがあった。確か舞踏会で会った脂ぎった中年太りの男がそんな名前だった。遊びに行かせるってどんな遊びをさせるつもりだ。
「約束から随分待たせているので目さえ覚めれば体力は回復してなくてもいいと言うんだが私は行かせたくないんだ」
「勿論私も反対です。アリス様」
「僕だって嫌だけど多分引き摺ってでも連れて行かれる」
「そこで相談です」
八雲が声を顰めて僕に話しかける。
「アリスにはこのまま目覚めてないふりをして貰います。私が手に負えないから教会に連れて行きたいと公爵に訴えるのでそこでしばらく匿ってもらいましょう」
「上手くいくかな」
「私は今教会でお世話になってるんです。そこの司教がとてもいい人で助けてくれると言っている」
それなら安心だ。僕はこくりと頷く。
「アリスはとにかく何があっても目を開けないように。声もダメですよ」
「はい」
丁度その時廊下をどすどすと歩く足音が聞こえた。
「公爵だ。ノエルさんいきますよ。アリスもいいね?」
「はい」
「承知しました先生」
僕はドキドキしながら急いで目を閉じた。
自分がどこにいるかも分からない
全てのものがぼやけて見える
体も動かないし声も出せない
目だけを薄く開いて視線を動かすと僕を覗き込むノエルと八雲の顔が見えた
「アリス……!」
ノエルの悲痛な声が遠く響いて聞こえる
こんなに近くにいるのに……
なんだか凄く眠い
このまま眠ってしまえば
楽になれるかな
ルルテラのことも
ルドルフのことも全部忘れて
もう一度
深い深い救いの中へと堕ちていこうか……
「アリス!アリス!!」
「……ん」
執拗な呼びかけにうっすらと目を開けた。せっかく眠ろうとしてたのに。
気付くと見慣れたベッドの天蓋。
僕と目が合った八雲とノエルは大きなため息を吐いた。
「良かった」
僕の手を握り何度も同じ言葉を呟くノエル。
立ち尽くしたまま天に向かって祈りを捧げる八雲。
どうしたんだ?二人とも。
僕は起きあがろうと腕に力を込める。
けれどその行為は虚しくシーツを掻いただけに終わった。
「無理しないで下さい。アリス様は半月も眠ったままでした」
「え?嘘」
あ、声が掠れてる。
「本当だよアリス。君は毒を飲んでずっと意識不明だったんだ」
そう言われてはたと思い出す。
舞踏会で痛みと吐き気で意識が無くなった事を。
もしかしてあの時飲んだジュースに?
「なんで毒なんて」
「犯人はまだ捜査中です。絶対捕まえますから」
ノエルの瞳がギラリと冷気を纏う。こんな顔見たの初めてだ。
「ずっと治癒魔法を掛け続けていたので一週間もあれば起き上がれると思うけど」
「うん?」
「実は公爵が無茶を言って困ってる」
「父さんが?」
「意識が戻ったらパウロ男爵の元へ遊びに行かせると」
「パウロ男爵……」
その名前には聞き覚えがあった。確か舞踏会で会った脂ぎった中年太りの男がそんな名前だった。遊びに行かせるってどんな遊びをさせるつもりだ。
「約束から随分待たせているので目さえ覚めれば体力は回復してなくてもいいと言うんだが私は行かせたくないんだ」
「勿論私も反対です。アリス様」
「僕だって嫌だけど多分引き摺ってでも連れて行かれる」
「そこで相談です」
八雲が声を顰めて僕に話しかける。
「アリスにはこのまま目覚めてないふりをして貰います。私が手に負えないから教会に連れて行きたいと公爵に訴えるのでそこでしばらく匿ってもらいましょう」
「上手くいくかな」
「私は今教会でお世話になってるんです。そこの司教がとてもいい人で助けてくれると言っている」
それなら安心だ。僕はこくりと頷く。
「アリスはとにかく何があっても目を開けないように。声もダメですよ」
「はい」
丁度その時廊下をどすどすと歩く足音が聞こえた。
「公爵だ。ノエルさんいきますよ。アリスもいいね?」
「はい」
「承知しました先生」
僕はドキドキしながら急いで目を閉じた。
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