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★本編★

父の悪巧み

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「なんであんたがここに来るのよ!」

 あー平和が終わった……

 食堂は養母の金切り声が響きもう食事どころではない。
 この間僕に魔力を抑えるチョーカーを渡した事で父の怒りを買い北部の別荘に追いやられていたのにどうやって戻って来たんだろう。

「相変わらず陰気な子ね!聞こえてるなら返事くらいしなさい!」
「ご無沙汰しておりました」
「馬鹿にしてるの?!」
 テーブルに置かれていた皿が僕に向かって飛んで来る。だがそれは届く前に粉々に割れ無かったもののように霧散してしまった。
 僕はまだこんな的確に力をコントロールする事は出来ない。振り向くとやはりそこには八雲がいて綺麗な黒い瞳を不快そうに曇らせていた。

「奥様アリスに危害を加えるのはおやめ下さい」
「なんですって?!私に指図するつもり?
 あなたもこの薄汚いオメガに誘惑されたのね?全く母が母なら子も子ね!」

 聞くに耐えない罵詈雑言に耐性のない八雲の額に青筋が立つ。僕が口を開こうとした時ドアが開き父が入って来た。

「また騒ぎか。アリアドネ」
「あ、あなた!違うのよ。この子が生意気だから躾をしていただけよ」
「次は無いと言っただろう?くだらない嫉妬で苛々させるな。お前の子は三人もいるのに誰一人魔力が無いんだ。引っ込んでいろ」

 その言葉に顔を引き攣らせた養母は踵を返し乱暴にドアを閉め食堂を後にした。そして静寂が降りる隙も無く父が声を張り上げる。

「さあアリス!八雲先生も座って。食事にしよう」

 白々しい空気が流れる中、父は八雲に訓練の進捗について楽しそうに尋ねている。僕の気持ちなどお構いなしに。それは犬をトレーナーに預けて報告を聞く飼い主に似ていた。

「そろそろアリスをもっと大々的にお披露目しようと思ってるんですよ」
「……まだ早いのでは無いでしょうか」

 八雲の言葉に渋い顔をした父は意見は求めていないと言わんばかりにその言葉を無視し僕の方に向き合う。

「来月はアリスの十一歳の誕生日だ。その日に舞踏会を開こう。いいな?」

 勿論その問いかけにも同意は求めていない。決定事項だからだ。

「公爵それは……」
「八雲先生。魔術師の修行は時間がかかる。十年二十年と安定しないかもしれない。私はこの子を心配しているのです。ご覧の通りとても美しいオメガですからそれなりに需要はあるのですよ」
「それはどういう意味ですか?」

 先程養母と対峙した時より遥かに強い怒りのオーラが八雲を包んだ。

「勘違いしないで下さい。この子を嫁がせる気はありません。一生面倒を見て行くつもりです。可愛い息子ですから。けれどこの家で世話になるんですからそれなりの対価を差し出すのが息子の役割でしょう?」

 ああ、魔術師として使えるようになるまではそこいらの物好きな貴族達に一晩いくらで僕を売るつもりなんだ。珍しいオメガの発情期を楽しみたいという下衆は意外に多い。ただまだ発情期前なので売れるかどうかは疑問だが。
 前回はこんな展開なかったけど僕が魔力を持っている事が明るみになり少しずつ未来も変わって来ているようだ。

「公爵あなたは!「八雲先生!」」

 僕は彼の言葉を遮り立ち上がった。

「さっきの本で分からない箇所がありました。教えて下さい」
「あ、ああ……」
「お父様申し訳ありません。失礼します」
「ああ、しっかり学ぶんだぞ」
「はい」

 僕は怒る八雲の背中を押し食堂を後にした。



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