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最終章 狼の子

第523話 光の洞窟

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「ふむ、向かう方向から妖猫の神域にでも行くのかと思ったのじゃが......こんなところがあったとはのう。」

「はい。ルーシエルさんに教えて貰いまして。」

「ほほ、そうじゃったのか。ルルの奴、中々洒落たことをやっておるのう。」

俺はナレアさんを誘って北側の大河近くにある洞窟に来ていた。

「ルーシエルさんに物凄くお勧めされていたのですが......これは凄いですね。」

「うむ......見事なものじゃ......。」

この洞窟は観光名所らしく、ルーシエルさんが是非一度行ってみるといいと教えてくれたのだ。
洞窟の中は魔道具によってライトアップされており、通路は軽く整備されていて歩きやすい。
街灯に使われている魔道具とは違い、青みの強い光を発する魔道具によって照らされた洞窟は、非常に神秘的な様子を見せている。
また、所々にある水たまりの底にも魔道具が沈められていて、水たまりに落ちないようにする対策も兼ねているのだろうけど、目を奪われる美しさだ。
因みに今は王都でダンジョン攻略記念祭が行われていることもあり、こちら洞窟は閉じているらしいのだが、特別に中に入ることを許可してもらったのだ。
まさかコネなんてものを使う日がくるとは思わなかったけど......折角のルーシエルさんの好意なので、有難く頼らせてもらうことにした。
お陰で今この洞窟には俺とナレアさんの二人しかいない......悪いとは思ったけど、シャルとマナスは入り口でお留守番だ。

「少し暖かいですね。」

「そうじゃな。その辺の水たまりも......ぬるま湯のようじゃな。」

「温泉があるのでしょうか?」

「温泉と言うと......偶にケイが作る奴かの?」

「僕が作っているのは温泉もどきですけどね。お湯を溜めているだけなので。温泉は天然ものというか、自然から湧き出たものといいますか。」

「確か龍王国の山間にお湯が沸き出るところがあるとヘネイから聞いたことがあるが......確か触れるのも危険な程の熱湯と聞くのう。」

「源泉はそういった物が多いみたいですね。ある程度冷まして浸かる感じだったと思います。普通にお湯を沸かしたものと違い、地中の色々な成分を含んだお湯で色々と効能があったりしますね。」

「ほう?どのような物があるのじゃ?」

「えっと......肌が綺麗になったりとか......腰痛に効いたりとか病気に効くとか聞いたことがありますね。」

まぁ、実感したことはないのだけど......よく言われている効能だよね?

「む?なにやら聞き覚えがある気がするのう。」

「そう言えば以前にお話ししたかもしれませんね。」

そんな話をしながらゆっくりと洞窟の奥へと進んでいく。
途中で魔道具による光の色が変わり、緑になったり赤になったりとただ歩いているだけなのに飽きさせない仕掛けがされている。
しかし、こういうのを見ると本当に魔道国って言うのは生活に余裕があるのだと感じるね。
今までこんな風に観光に力を入れている場所は無かったよね......。

「ただの洞窟じゃというのに......これは美しいのじゃ。ルルの奴も中々やるのう。」

「僕のいた世界にもこういった物がありましたよ。観光資源とか言ったかな?」

「ほう。祭りと違って短期間に爆発的な効果が望めるものではないが......長期的に使うことが出来るのはよいのう。かかる費用も多少の人件費と照明代くらいじゃし......面白いものじゃな。」

「ルーシエルさんの肝いりなんですかねぇ?」

「さてのう......それはそうと、この光景を前にする話としては少々無粋じゃったかな?」

「あはは、確かにそうかもしれませんね。今は頭を空っぽにして楽しみましょう。」

俺はそう言ってナレアさんの手を握る。

「......そうじゃな。」

そんな感じで暫く無言で歩いていると、少し下り坂になって来た。
道の端の方は水が奥に向かって流れているようで、今歩いている場所も少しだけ地面が濡れているようだ。

「ナレアさん、地面が濡れていて滑りやすくなっているようなので気を付けて下さい。」

「うむ......。」

俺達の歩く音と天井から落ちてくる水滴の音だけが響く中、足元に気を付けながら坂を下っていく。
少し湿度が高くなって来た気がするな。

「おや?あそこで光っているのはなんじゃろう?」

そう言ってナレアさんが天井を見上げている。
視線の先を追いかけると......確かに小さな光が見える。

「あー、あれですか。近くで見てみます?」

「見てみたいが......あそこまでは届かぬのう。ケイに肩車をしてもらっても無理じゃろ?」

ぽかんとしたような表情をしながらナレアさんは天井を見上げているけど......。

「ふふっ。」

ナレアさんの様子を見ながら少し笑ってしまう。

「む?なんじゃ?」

「いや......すみません。肩車は面白い案ですが......飛んでみるのはどうですか?」

「......。」

ナレアさんは何も言わずに宙に浮いた。
......ナレアさんの頬が若干赤くなっていたのは周囲の灯りが赤だったせいだけではないだろう。



その後俺達はたまに会話をしつつも周囲に広がる光景に目を奪われながら歩き続けた。
そして今、洞窟の最奥に俺達は辿り着いた。

「「......。」」

最奥にあったのは地底湖......と言うには少し小さい気もする。
少なくとも仙狐様の神域に行った時に見た巨大な地底湖......まぁ、幻だったけど......あれとは比べるべくも無く小さい。
しかし......この光景は......。

「これは......予想以上じゃ。」

「......上手く......言葉が出ません。」

ここに来るまでの道中楽しませてくれた色とりどりな魔道具の灯りではなく、青い単色の光に照らされた小さな湖。
さざ波一つ立っていない静謐な湖面は凍りついているようにも見えるけど......この場の暖かさでは湖の表面すら凍らせることは出来ないだろう。
俺達以外の生命を一切感じられない空間は、清廉さ......そしてどこか力強さのようなものを感じる。
呆けたように湖を眺めていると、ナレアさんと繋いだままだった手を強めに握られた。

「......このような場所が魔道国にあったとはのう。魔道国の事は全て知っておったつもりでおったが......少し恥ずかしいのう。」

「......知らないことがまだまだたくさんあるって言うのは嬉しいですね。」

「......うむ。有り体に言って......最高じゃ。」

そう言ってナレアさんが快活に笑う。
この場を満たす青い光がナレアさんの銀色の髪と相まって、その快活な笑顔とは裏腹に幻想的な雰囲気を醸し出す。

「......ナレアさんは、本当に綺麗ですね。」

「うむ......本当に綺麗......じゃ......?」

ナレアさんが一瞬硬直した後、ゆっくりとこちらを向く。

「......なんじゃと?」

「......?」

「何故そこで首を傾げるのじゃ!今何と言ったか尋ねておる......いや、待つのじゃ!言わんでよ......。」

「ナレアさんは本当に綺麗だって言いました。」

「っ!?」

今度は青い灯りの中だと言うのに、ナレアさんの顔が真っ赤に染まったのがはっきりと分かる。
そんなナレアさんが大きく息を吸い込むのを感じた。

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