521 / 528
最終章 狼の子
第520話 最終日の過ごし方
しおりを挟む魔道国王都で開催されているダンジョン攻略記念祭。
本祭は三日間行われ、その後五日程はお祭り騒ぎは続くらしいけど公的な催しは三日目で終わるらしい。
まぁ、王都の祭りは終わっても今度は南の方でまた祭りがあるらしいけど......マルコスさん以外の攻略者の方々は本祭終了と同時に今度は南の祭りに行かなくてはいけないらしい。
俺の時は一か所で済んで本当に良かったと思う。
それはともかく、本日でダンジョン攻略記念祭は一旦終了......というか、残る催し物はルーシエルさんによる閉会の挨拶となる。
本来は冒険者ギルドのギルド長が行うそれをルーシエルさんが取り行っているのは、王都での開催という事ともう一つ、最近の魔物による襲撃のせいだ。
その不安を払しょくするために相当な規模で行われた祭りは、ルーシエルさんの挨拶によって一先ずの終わりを迎える。
因みに、お披露目会や各種公的な催し物、そしてルーシエルさんの挨拶には、俺がナレアさんに伝え、アースさんと共同開発した拡声の魔道具が使われている。
今までは頑張って大きなお声で喋っていたらしいけど......いくら何でもこの群衆の数では、静かにしていたとしても殆どの人には何を言っているか分からなかっただろうね。
拡声の魔道具を見せた時ルーシエルさんは、ダンディな雰囲気を一切無くして喜んでいたからなぁ。
今まで相当しんどかったのだろうなぁ。
そんなことを考えながらルーシエルさんの挨拶を聞いていると、そろそろ終わりそうな感じがしてきた。
「......この先、如何な苦難があろうとも、我々ならば......魔道国ならば乗り越えられる!そしてまた、喜びに満ちた諸君の顔を私に見せて欲しい!これからも、共にあろう!」
壇上でルーシエルさんが手を上げると、歓声があがる。
実に簡潔で分かりやすいスピーチだったな。
長すぎて何が言いたいのかよく分からないお偉方の話とは全然違う。
「何やらケイは満足気じゃが......ルルの奴、閉会の挨拶じゃというのに自分の言いたい事だけ言って引っ込みおったぞ?祭りの終了宣言はどうしたのじゃ?」
「......言われてみればそのことについては何も言っていませんでしたね。」
心配事の払拭、国民への感謝、これからの展望。
ルーシエルさんの話はそれらを簡潔に話して終わりだった。
「......まぁ、皆さん満足そうにしているみたいですし、いいのではないですか?」
俺は歓声を上げながら楽しそうにしている周りの人達を見ながら言う。
......ノリとテンションだけって感じもするけど、満足そうなのは確かだ。
「......ルルは扇動の才能があるのう。まぁ、求心力と言う意味では王として良い能力じゃがな。妾はあまりそう言うのは得意では無かったからのう。」
「ナレアさんなら如才なくやれそうですけど......。」
「ほほ、すこしばかり人間味が薄かったからのう。受け入れられてはおったと思うが、ルルの様に人心を引き込む様な王ではなかったのじゃ。」
ルーシエルさんはナレアさんの事を偉大で、自分はその偉大な王が成し遂げた事を壊さない様に次代につなぐだけの存在と言っていたけど......今の魔道国を見ればルーシエルさんが、ただそれだけの王ではないことは良く分かる。
「まぁ、あの髭は妙に自信なさげにするが......それもあやつの処世術の一つよ。話半分程度に考えておいた方が良いのじゃ。」
「そういう物ですか......?」
あの感じ......本人は本気でそう思ってそうだったけど......まぁ、上手く回っているのならそれでいいのだろうか?
っと......今はそれはどうでもいいか。
祭りの最終日の夜、俺はレギさんに頼んで別行動をさせてもらっている。
まぁ、レギさんもリィリさんと二人で過ごしている事だろうしね。
......まさか下水道には行っていないよね?
いやいや、ないない。
いくらレギさんがアレでも、それは流石に無い......はず。
「どうしたのじゃ?ケイ。何か心配事ごとかの?」
俺の表情に気付いたナレアさんが小首を傾げながら聞いてくる。
「あぁ、いや......レギさん達はどうしているかなぁと思いまして。」
「ふむ......二人で仲良く過ごしておるじゃろうが......あぁ、そういうことかの?」
「あはは。」
ナレアさんに考えている事が伝わったようだ。
「いくらレギ殿でも今日はリィリと二人で祭りを回っておるじゃろ。」
「そうですよね......いくらレギさんでもお祭りの最終日ですしね。」
リィリさんがあれだけ楽しみにしていたお祭りだ。
初日に限界を超える程リィリさんに付き合ったりしたわけだし、今日も恐らく似たような感じだろう。
「あ、ナレアさん。この後、少し行きたい所があるのですが......いいですか?」
View of レギ
ダンジョン攻略記念祭の最終日の夜。
俺とリィリは王都の南東にある森に来ていた。
何故わざわざ森なんかに来ているかと言うと......。
「あまり奥まで行かなくていいんだよな?」
「うん、少し入ったところに群生地があるみたいだよ......依頼書には北側から街道を逸れて森に入ればすぐに分かるって書いてあったし、もうそろそろじゃないかな?」
「薄っすらと光っているんだろ?遠目からでも分かる感じなのか?」
「うーん、行けば分かるってくらいだからそうじゃないかな?」
「紫に光るものを探せばいいんだよな?」
「そうだよ。でも、光る花かーどんな感じだろうねー?」
俺達はギルドで光る花の採取依頼を受けてここに来ている。
何故かケイやナレアの呆れ顔が脳裏に浮かぶ。
いや、何故かではないな......明らかに後ろめたい思いがあるからだ。
だが、ケイ達に一つ言い訳をさせてもらえるのであれば......この依頼を受けたのは俺ではなくてリィリだ。
「光る植物ってのは見たことねぇな。魔道国特有の植物なんだろうが、群生しているってことは珍しい物ではないようだな。」
「あ、でも花の色によって珍しさが違うみたいだよ。紫は結構珍しいんだって。」
「それ、今夜だけで見つかるのか?」
「どうだろうねぇ。」
「期限は明日の朝までだろ?かなり難易度が高くないか?」
「そうだねぇ......でもまぁ、紫が見つからなかったら他の色でも大丈夫ってことだったし。紫なら報酬が良いけどね。」
そう言ってリィリが笑う。
森は暗いが......強化魔法のお陰で視界ははっきりしている。
しかし......何故あんなに祭りを楽しみにしていたリィリがギルドで仕事を受けたのだろうか?
「なぁ、リィリ。なんで祭りの最終日に仕事なんて受けたんだ?」
「ん?レギにぃ依頼受けたくなかった?」
「いや、そんなことはねぇが......。」
まぁ、仕事をやりたくなかったと言えば嘘になるが......リィリに付き合うのも別に......二日目に休めたので苦では無い。
「初日にたっぷり堪能したし、二日目もみんなで色々回ったからねー。私は十分楽しんだよ、だから今度はレギにぃのやりたいことに付き合おうかなって。」
「......そうだったのか。すまねぇな、気を使わせて。」
......祭りで遊ぶよりも仕事の方が俺のやりたい事って思われているわけだ。
いや、まぁ......その通りなんだが。
「あはは、いいんだよ。偶には二人でこういう依頼をのんびりとやるのも楽しいからね。」
「......そうだな。」
俺が苦笑するとリィリが柔らかく笑う。
......まぁ、本来、夜の森に行く依頼はのんびりやる様な物じゃないんだがな。
のんびりやれる理由としては、俺達が人並外れた強さを持っている事も一つだが......そもそも危険となりそうな生物が全く近寄ってこないからだ。
言うまでも無く、俺達がこの森に来ると同時に姿を現したグルフのお陰だ。
そんな森に生きる全ての生き物に恐れられているグルフは、リィリの隣を歩きながら千切れんばかりに尻尾を振っている。
そこに威厳の様な物は全く感じられない。
まぁ、楽をさせてもらっているのに文句は無いが......。
そんなことを考えながら暫く森を歩いていると、ぼんやりと地面が光っている一角を発見した。
1
お気に入りに追加
1,717
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~
TOYA
ファンタジー
~完結済み~
「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」
この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。
その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。
生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、
生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。
だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。
それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく
帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。
いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。
※あらすじは第一章の内容です。
―――
本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる