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最終章 狼の子

第519話 伝道師

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結局祭りの初日はレギさん達と合流する事は出来なかった。
まぁ、晩御飯を食べるお店は決めていたのでそこで合流することは出来たけど......リィリさんは結構ご満足だったようだ。
レギさんは晩御飯を殆ど食べていなかったし、お腹の具合は少し心配だったけど、二日目は全員で一緒に回ることになった。
そんな訳で俺は宿の前で皆が出て来るのを待っていたのだけど......。

「よぉ、早いなケイ。」

「おはようございます、レギさん。」

最初に宿から出てきたのはレギさん......なのだけど。

「あの......レギさん。」

「......ん?どうした?」

「......大丈夫ですか?」

レギさんの顔色が非常に悪いのだ。
若干げっそりしているような気もするし......。

「......大丈夫だ......問題ない。」

いや、どう見ても問題ありますよ?

「本当ですか......?無理はしないで下さいね?」

「あぁ......すまねぇな。」

恐らく食べ過ぎ......だと思うけど、食あたりとかじゃないよね?
俺は神子になって病気や毒に強くなっているけど......眷属はその辺りどうなのだろうか?
少し気になった俺はシャルに尋ねてみる。

「ねぇ、シャル。眷属って病気や毒には耐性があったりするのかな?」

『眷属が病気にかかったり毒に倒れたりと言う話は聞いたことがありません......恐らくはある程度耐性があると思いますが......申し訳ありません、あまり正確なことは......。』

「そっか......うん、分かったよ。ありがとう。」

正確には分からない、か。
今度帰った時に母さんに聞いてみるか。
まぁ......多少は頑丈になっている......といいなぁ。
それにしても......レギさんは今日宿で休んでいなくて大丈夫だろうか?
今日は食べ歩きはそこそこ......のはずだけど、歩き回るだけでも辛いのではないだろうか?
途中で腹痛に見舞われたりしたら......悲惨の一言に尽きる。
そんな風にレギさんの心配をしていた所、宿からナレアさんとリィリさんが揃って出てきた。

「む?待たせてしまったかの?」

「おはよー。ごめんね、遅くなってー。」

「いえ、大丈夫ですよ。つい先ほど出て来たばかりですから。」

「ふむ......む?レギ殿大丈夫かの?」

「あれ?本当だ......レギにぃどうしたの?」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ。」

「体調悪いんだったら休んでた方が良いと思うけど......。」

リィリさんが心配そうにレギさんに近づいていく。

「本当に大丈夫だ。それより今日は色々観に行くんだろ?早くしないとまた混んじまうぜ?」

「う、うん。無理はしないでね?」

「あぁ。それより最初に観に行くのはなんだった?」

「最初は......料理大会じゃな。」

「......なるほど......なるほど......。」

レギさんの試練は終わらない。



「どれもおいしそうだったなー。」

「試食が出来なかったのは残念だったな。」

リィリさんの感想に朝よりも幾分マシになった顔色のレギさんが応える。
レギさん的には試食できなくて良かったのではないかと思うけど......最初の頃は匂いだけでもつらそうだったし。
まぁ、体調が落ち着いて来たみたいでよかったけど。

「次は何を見に行くのですか?」

「次は魔道具の展覧会じゃな。魔術研究所や魔術師ギルドが主催しておる。まぁ、ヘッケランはおらぬじゃろうが。」

ヘッケラン所長か......。

「ヘッケラン所長は、祭りよりも研究って感じですか?」

「うむ。研究成果を発表するいい機会なのじゃがな。あやつはそういう事を全く気にしておらぬ。昔から周りの理解を得ることも研究を続ける上で大事と言っておるのじゃがな。」

困ったような表情になりつつため息をつくナレアさん。
でもヘッケラン所長に限らず、魔術研究所の職員さん達は研究第一、他は些末事って感じがするよね。

「でも魔術研究所が主催なのですよね?」

「まぁのう。研究員以外の職員もおるから、そやつらがいつも苦労しておるのじゃ。」

「......なるほど。」

ナレアさんも苦労させる側じゃないだろうかと思ったのは秘密......。

「何やら随分と失礼なことを考えておるようじゃが、妾はしっかりとその辺も留意しておる。」

秘密とは得てして漏れる物である......。
ナレアさんに脇腹をどすどすとどつかれながら俺は思った。
いや......頭で考えただけの秘密が漏れるのは普通じゃないな......。

「ナレアちゃん。魔道具の展覧ってどういう物があるのかな?」

「そうじゃなぁ。最新の一般向け魔道具から、冒険者が使うような戦闘用の物。それに魔道馬車の様な大型の物や研究途中の試作品の様な物もあるのう。」

「へぇ。ナレアちゃんが研究してたやつとかもあるの?」

「いや、妾の作った物は今回展示されておらぬよ。過去に関わった物は出ておるかもしれぬが、今回の旅で作った物は出ておらぬ。」

「そうなんだー?折角色々作ったのにね?」

「まぁ、今回妾が開発したものはちょっと特殊じゃからのう。ケイの話を聞いたものをアースと二人で魔道具として実現させたものじゃからのう。その中でも発表して問題ないものを研究所に渡したが、流石にまだ一般に発表出来る程研究所の連中も物に出来ておらぬじゃろうしな。」

「へー、そういうものなんだ。」

「妾の名前で発表するなら出してもいいのじゃがの。研究所として発表するならもう少し自分達のモノにしてから出したいじゃろうしな。」

「なるほどねー。」

「その辺は展覧会をすると話があった時に相談されておったからのう。」

そんなこともしていたのか。
ちょこちょこ魔術研究所に行っているのは知っていたけど。

「あれ?じゃぁ、ナレアちゃんは何が展示されているか知ってるの?」

「いや、そんな事は無いのじゃ。妾が今回持ち込んだ魔道具について意見を求められただけじゃからな。流石に展示物を全部知っておるなら今日行く必要はないからのう。」

「それもそうだねー。どんな魔道具があるか楽しみだね!」

「うむ!」

リィリさん以上に楽し気なナレアさんが笑顔で頷く。
とはいえ、魔道具を見るのは俺も楽しみだし......レギさんも心なしかワクワクしている感じがある。

「お風呂の適温を保つ魔道具はまだダメですかねぇ?」

俺がナレアさんにお願いして作ってもらった魔道具だけど......確か研究所にも引き渡していたはずだ。

「アレは少し魔力効率が悪いからのう。ケイの魔晶石ならともかく普通の魔晶石では毎日使うと一月も持たぬ。もう少し改良が必要じゃろうな。」

「流石に一般家庭が使うにはお金がかかり過ぎますね......。」

「妾達は豊富に魔晶石が使えることもあって、効率を度外視して魔術を組んだからの......その辺の研究は研究所の奴らに任せるのじゃ。」

「一般家庭にお風呂を普及させる僕の野望はまだ遠そうですね......。」

「無茶苦茶な野望を持っておるのう......。」

「お風呂は......気持ちいいですよね?」

「まぁ、そこに異論はないがの......じゃが、水回りはそう簡単にはのう......。」

「魔道国でも難しいですか?」

「上下水道という意味では大丈夫じゃが......今ある家に、新しく風呂を作るのは難しいじゃろ?」

「......あー、確かにそうですね。」

ユニットバスは難しいよね......部屋ごと作り変えるわけだし......そうなるとバスタブだけ用意......いや、排水が難しいな。
でもバスタブだけって言うのはありかもしれないな。
室内だと湿気とかが拙いかもしれないけど......やはり超えるべきハードルがかなりあるな。

「......かなり真剣に悩んでおるのう。」

「ケイ君のやりたい事って......お風呂の伝道師?」

「......ケイならありうるな。風呂に関しては、真剣さが半端ないからな。」

......いや、お風呂は好きですけど......流石に次にやりたいことがお風呂の伝道師ってことは......悪くないかな?

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