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最終章 狼の子

第517話 最後の目標

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「何やら失礼な視線を感じるのじゃ。妾がカザンの心労を増やすとでも言いたげじゃな?」

テーブルの向かい側に座るナレアさんが半眼になりながら告げてくる。
全力で否定しなければ......先日の悪夢が思い出される。

「......そんなこと考えていませんよ?ただ、近いうちにカザン君の所に行きたいなぁと思っただけです。」

「......ふむ、まぁ、そういうことにしておいてやるのじゃ。ノーラも会いたがっておるし、その内会いに行きたい所じゃな。」

誤魔化せたわけでは無いだろうけど......ナレアさんは俺の話に乗ってくれた。

「......まだ接続は使えないですけど......あの魔道具をカザン君の所に置いておくのもありですよね。」

「ふむ......連続して使用しなければ問題なさそうかの?」

「そうですね。疲労感は変わりませんが、一回なら特に問題はありませんね。あぁ、でも東方に行く前に一度接続について少し相談はしたいですね。」

幻惑魔法を使っているわけでは無いので、誰に相談するという所は明言しない。

「ふむ。まぁ、すぐに行ける場所じゃしな。魔道国を離れる前に一度行っておいた方がいいじゃろうな。」

「ナレアさんは魔道国で他にやりたい事は無いのですか?」

「妾は特にないのう。新しい遺跡も見つかっておらぬようじゃし......リィリやレギ殿達が問題ないようなら妾はここを離れる事に異論はないのじゃ。」

「なるほど......。」

中々ドライな感じはするけど......まぁ、元々魔道国を出てあちこち旅をしていたみたいだし、そんなものなのだろうか?
まぁ、魔道国への愛がないとは思わないけどね。

「ケイはこれからどうするつもりなのかの?」

「あー、それについては......少し考えている事があるのですが。」

俺はそう言いながら周囲の様子を窺う。
幻惑魔法を使う前に......注文した飲み物を持って来てもらわないとな。

「ふむ?」

俺の視線に気づいたナレアさんが店の奥へと視線を向けるが、店内は結構混んでいてまだ俺達の所に飲み物が運ばれてくる様子はない。

「まぁ、落ち着いたら相談させて下さい。」

「分かったのじゃ。」

ナレアさんは微笑みながら頷いてくれる。
......若干情けないと思わないでもないけど、その表情を見て安心すると言うか......ナレアさんが協力してくれるなら何とかなりそうな気がする。

「妾は......一度御母堂に挨拶に行きたいのう。」

「母さんにですか?」

「うむ......け、ケイとのことを報告する必要があるじゃろ?」

俺から視線を逸らしながらナレアさんが言う。

「た、確かにそうですね。母さんへの報告は必要でしたね......。」

何となく気恥ずかしさを覚えた俺はこめかみ辺りを掻きながら返事をする。
いや、俺が恥ずかしがる所ではない気がする。

「グラニダに向かうなら丁度いいですね。どちらにしろ寄らないと母さんが拗ねると思いますし、今度は都市国家の北側から向かいますか?」

「そうじゃな。帝国の方を回って移動するのもいいじゃろう。あちらの方の遺跡も気になるしのう。」

既に遺跡の事に頭を切り替えたナレアさんが楽しげに言う。

「ケイの目的もある程度落ち着いたことじゃし、腰を落ち着けて遺跡巡りをしたいところじゃのう。」

「それもいいですね。今までずっと付き合ってもらっていた分、ナレアさんやレギさん達のやりたい事に付き合いたいですし。」

「妾達はケイに付き合っておったと言っても、ほぼ自分達のやりたいことを優先してやっておったと思うがのう。ケイこそ、次にやりたいことを見つけるべきじゃぞ?」

「次にやりたい事ですか......。」

なんか以前リィリさんと似たような話をした気がするけど......やりたい事か......難しいなぁ。
やっぱり今の所、のんびり皆で世界を見て回りたいってことくらいしかないなぁ。
やりたいことを探す旅って訳でもない......皆で色々な物を見て色々な体験をする。
それで十分楽しいと思うんだよね。
そんなことを考えていると飲み物が運ばれてきた。

「ふむ......忘れておったが喉が渇いておったのう。」

コップに口を着けながらナレアさんが言う。

「まぁ、気持ちは分からないでもないですけど......水分は小まめに取った方がいいですよ。」

「うむ、その通りじゃな......。」

そう言ってナレアさんはもう一口飲んだ後、指を一本立てる。

「さて、これで問題ないのじゃ、先程の続きを聞かせてもらえるかの?」

どうやら幻惑魔法を発動してくれたみたいだ。

「ありがとうございます......僕が母さんの神域を離れる時、目標というか目的をいくつか持っていました。全ての神獣様の加護を貰う事、奪われた母さんの魔力を取り戻すこと、そして元の世界の両親に連絡をすることです。」

「まぁ......普通はどれも一筋縄ではいかぬことじゃが......残すはあと一つという事じゃな。」

「はい。奪われた魔力に関しては本当に運が良かったと思います。」

「レギ殿と出会えたからこそと言ったところじゃな。」

......確かに。
キオル達との因縁はレギさんと出会えたからこそ生まれたものだ。

「改めて言われると、確かにその通りですね。レギさんに改めてお礼を言っておかないと......。」

「突然言っても何が何やらといったところじゃろうがな。」

「そこは気を付けます。それで最後の目標......元の世界への連絡についてなのですが......実は少し目処が立っています。」

「ほう?」

ナレアさんが少し前のめりになる。

「母さんの神域に封印されている僕のスマホ......アレを使います。」

「ふむ?しかし以前アレはこの世界では使えぬといっておらなんだか?」

以前......母さんの神域で初めてスマホを見た時の事だ。

「はい。この世界ではほとんどの機能が使えないです。勿論連絡手段としても使えません。」

「要領を得ないのじゃが......どういうことかの?」

「実は先日妖猫様の神域に行った時に少し相談したことがありまして......鳳凰様の召喚魔法についてと妖猫様が行った空間固定による封印についてです。」

妖猫様が言うには、召喚魔法とは二つの場所に穴を開け、その穴を通してこちら側へと召喚物を引きずり込む様な感じらしい。
確かに俺がこの世界に召喚された時、何かに引っ張られたような感覚はあった。
恐らくそれが穴に引きずり込まれたという事だろう。
そして妖猫様は召喚されたものがこの世界に呼び出された瞬間、その空間ごと固定して封印したそうだ。
つまり、召喚魔法によって開かれた穴が固定によって維持されている可能性があるという事。
確実に穴が空いているわけでは無いし、元の世界の方の穴は閉じてしまっている可能性はある。
しかし、空間の固定は全ての状態をその時のまま留めておく魔法だ。
少なくともこちらの世界に開いた穴は残っているだろうし、その穴が元の世界と繋がったままであれば......もしかしたら電波が届くかもしれない。
もし全てが上手くいけば元の世界に連絡することが出来る......俺はその事をナレアさんに伝える。

「なるほどのう......まだ全て仮定でしかないとは言え......可能性はあるということじゃな?」

「はい。神域に戻って色々と調べる必要はありますが......。」

「しかし、スマホを動かすには固定を解かねばならぬじゃろ?そうすると仮に穴が空いていたとしても閉じてしまうのではないかの?」

「それについても妖猫様に相談してありまして......スマホ以外の部分を僕が固定してから妖猫様の固定を解除すれば良いと。」

「ふむ......話は分かったのじゃ。しかし、それならばケイ一人で話は済むのではないかの?妾に頼みたい事と言うのはなんじゃ?」

「スマホの動力源についてです。」

「ふむ。確か雷じゃったかの?」

「正確には電気......ですかね?それについて研究してもらいたいのですが......。」

「ふむ......確か直接雷を撃てば壊れるのじゃったな?」

「はい......。」

間違いなくぶっ壊れるだろう。

「......難しいのう。ケイの知識にはその辺りはないのじゃろ?」

「すみません......。」

もう少しちゃんと勉強していれば良かったと心の底から思う。
少しでも何かナレアさんに伝えることが出来れば......。

「スマホは代替が効かぬし......壊してしまえば全てが終わってしまうからのう。せめて何らかのとっかかりがあれば......。」

「その辺についても少しだけ考えがあります。召喚魔法の穴が僕の世界と繋がっていることが前提になりますが......。」

「ふむ?どういうことじゃ?」

「もし穴が空いていてスマホが使えるようであれば......僕の世界の知識を持ってくることが出来ます。」

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