502 / 528
最終章 狼の子
第501話 策士
しおりを挟む魔道国の王都でルーシエルさんと会ったり、リィリさんにナレアさんへ贈るプレゼントの相談をしたりしながら過ごしていると、あっという間にダンジョン攻略記念祭の開催日が近づいて来た。
王都の至る所で色々と催し物の準備が進み、王都全体が普段とは違った空気に包まれている。
このまま開催日まで王都で過ごしても良かったのだが、俺は祭りの前に面倒ごとを終わらせようと考えた。
祭りまでは後十日程......シャル達の移動速度を考えても丁度いい頃合いじゃないだろうか?
そう思い俺はその日の夜に皆に話を持ち掛けた。
「そろそろ、あのダンジョンに行こうと思います。」
いつも通り、俺の部屋に集まった三人に向けて宣言する。
母さんの魔力を吸収したボスがいるダンジョン......十日もあれば攻略して帰ってくることが出来るだろう。
恐らくゆっくり......あくまで俺達基準で......移動しても三日もあればダンジョンまでは行ける。
そこから攻略するのに七日は掛からないだろうし、帰りは鏡の魔道具から取り外した魔晶石をこの宿に置いておけば接続を使って一瞬で帰ってくることが出来るから帰りの日数は考えなくて良い。
まぁ、行きに関しても一応レストポイントである研究室には前回使った魔道具が置かれているし、接続で一気に移動することは出来るのだけど......流石にダンジョンのボスと戦うのが目的なわけだし、しかもそのボスはかなりの強敵だ。
一回であればそこまで疲労は酷くないとは言え......万全な状態で挑むべきだろう。
いや、待てよ?
レストポイントに飛んだ後、一日くらいあそこで休んでからボスに向かえばいいのか。
どうしようかな?
皆に聞いてみるか。
「ふむ......祭りの前に憂いを断っておきたいということじゃな?」
「はい。どうせならすっきりした気持ちでお祭りを楽しみたいので。」
「そんな理由でダンジョンを攻略しようとするやつは、世界広しと言えどケイくらいのものだろうな。」
「そうだねぇ。でも心配でご飯が喉を通らないよりは、さっさと喉の小骨を抜き去るべきだね!」
「ダンジョンのボスを小骨扱いする奴は、リィリくらいのものじゃろうな。」
ダンジョンに行くというのに随分と和やかな感じだ。
まぁ......これから行くダンジョンが普通のダンジョンであれば、今の俺達にとって油断さえしなければ左程危険はないだろう。
しかし、今回行くダンジョンは違う。
ダンジョン自体は普通であっても、そのボスはファラをして自分よりも強いと言わせた強敵だ。
しかもそんな相手と俺一人で戦うと言っているのだから......正直ナレアさん達には相当な心労を与えていると思う。
だがそれでも俺のしたいようにさせてくれている。
本気でやばかったら介入するとは言われているけど......それでも最初は好きにさせてくれるだけの信頼はある。
勿論、俺も死にたくはないので助けてもらえるのは大歓迎だ。
だったら最初から手を貸してもらえと思わないのでもないけど......まぁ、その辺は複雑な心境ではある。
「いえ、リィリさんのおっしゃっている事が今の心境に一番近いですね。なんだか物凄くもやもやする感じがして、鬱陶しいので楽しみの前に片付けておきたい感じです。」
強敵と戦う事を前に、空気を軽くしようとしてくれているリィリさんの言葉に乗る。
「うんうん、お祭りの出店が楽しみだなぁ。」
......なんかもうお祭りの事しか考えていない気がするけど......いや、勝利を確信してくれているからこそだろう。
俺はリィリさんから視線を外し、レギさんの方を見る。
「まぁ、前から予定していたことだからな、反対はない。準備も出来ているし、明日から行くのか?」
「そうですね。祭りに間に合わないと元も子もないのでそのつもりですけど、どうやって行くかはちょっと悩んでいます。」
「ん?いつも通りシャル達に乗せてもらうんじゃないのか?」
俺の言葉にレギさんが小首を傾げ、今までベッドの上に居たシャルが耳をピンと立てて俺の方をじっと見つめてくる。
うーん、シャルの圧が強い。
シャルが本格的に不機嫌になる前に話を続けよう。
「えぇ、それも一つなのですが、向かう先があのダンジョンなので、接続を使えば一瞬でレストポイントまでいけるかなと。」
「あぁ、なるほどな。」
レギさんは俺の言葉に納得顔となり、シャルは俺から視線を外してベッドの上で丸くなった。
しかし、その耳だけは全力でこちらに照準を合わせているようなので、話は一言一句漏らさずに聞いているだろう。
「ふむ、それもいいかもしれぬが......接続を使うと相当疲労するじゃろ?流石にあのような状態でボスと戦わせるわけにはいかぬのじゃ。」
「何度も使用する訳ではありませんし、そのまま一日程度レストポイントで休憩してから挑めば大丈夫かなと思いますが、どうでしょうか?」
「ふむ......あの部屋か、あまり居心地はよく無さそうじゃが......ゆっくり休むと言うのであれば妾は構わぬ。」
「そうだな......ところで、あのダンジョンの地図はもう出来てるか?」
「シャル、地図は出来ていたよね?」
俺が問いかけるとシャルがベッドから身を起こして答えてくれる。
『はい。ファラが作成して、お話しされていたレストポイントに置いてあります。』
「ありがとう。ファラが作ってくれたものが現地にあるそうです。」
「ダンジョンの地図がダンジョンの中に置いてあるって言うのも変な気分だが......中でどう動くかはそれを見ながらじゃないと決められないな。休みを兼ねて向こうで打ち合わせだな。」
「ダンジョンの中でそのダンジョンを攻略する打ち合わせって変な話だよねぇ。」
「まぁ、それに関しては今更じゃな。そもそもケイと一緒におって普通を求める方が間違いじゃろう。」
「それもそうだな。」
「ケイ君だしねぇ。」
なんかナチュラルに俺のせいになっているのだけど......。
「えっと......最近の色々は僕のせいだけじゃないような?」
「妾は魔族ではなくなったのじゃ。」
「俺は人族じゃなくなったな。」
「私も人じゃなくなったね。」
「いや......確かにお二人の事は最近眷属にしましたけど......リィリさんについては僕は全く関係ないですよね?それに一年程前の事ですし。」
それと眷属化はお二人が望んだことですよね......?
「......ケイ君酷い。」
「リィリを仲間外れにするとは......とんでもない男じゃな。妾は悲しいのじゃ。」
「ケイ......それは良くないぜ。」
この流れは駄目だ......完全に味方がいない。
そして......最近の様子を鑑みるにシャルに助けを求めても......キツイお言葉を貰いそうだ。
この状況でシャルにきついことを言われたら涙が出るかもしれない。
そんなことを考えているとベットの上で起き上がったシャルがゆっくりとこちらに近づいて来て......俺の膝の上に飛び乗って来た。
「......しゃ、シャル?」
膝の上に飛び乗って来たシャルは何も言わず俺の顔をじっと見ているけど......なんか......威圧感はないな?
俺がシャルの事を見つめているとコクンとシャルが首を傾げる。
今のシャルは街中モード......つまり、子犬サイズで顔が少し丸っこく、その仕草も相まって非常に可愛い。
俺は思わずシャルの頭に手を伸ばしゆっくりと撫でる。
『......っ。』
シャルは何も言わずに撫でられていたが、俺に甘える様に掌に頭を擦り付けてくる。
何か念話のようなものが聞こえた気がするけど、シャルは大人しく撫でられているし気のせいかな?
「......わー。シャルちゃんやるなぁ。」
俺がもふもふしながらシャルの事を撫でていると、リィリさんが何やら言っている......しかし、今は癒されタイムなので良く聞こえない。
俺は膝の上にいるシャルを抱き上げて、軽く抱きしめながらもふもふに顔を埋めながら片手でわしゃわしゃと撫でる。
たっぷりともふもふを堪能してから顔を上げた瞬間、鼻の頭をシャルにペロリと舐められた。
シャルの頭をポンポンと軽く撫でた後部屋の中に目を向けると、そこには普段と変わらない様子のレギさんと苦笑するリィリさん。
そして表情から一切の感情の消えたナレアさんがいた。
1
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる