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最終章 狼の子

第495話 よくある失敗

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「ほぉほぉ、なるほどのう。」

目を真っ赤にしたリィリさんが食堂に来て、ナレアさんと嬉しそうに話をしている。
リィリさんは基本的にいつでもニコニコしているけど、今の笑顔は普段とは比べ物にならないくらい眩しい笑顔だ。
そしてその笑顔を引き出したであろうレギさんは......一緒に食堂に来てからずっと微妙な表情を浮かべている。

「えっと......レギさん?随分と浮かない顔をされているようですが......どうしたのですか?」

「あぁ......いや、何でもないんだ。」

そう言ったレギさんの表情は......明らかに何でもないって感じの顔ではない。
リィリさんはもうこれでもかって言うくらい輝かしい笑顔なのに......レギさんのこの表情はいったい......?
俺の気遣わしげな表情を受けてレギさんがバツが悪そうにしながら口を開く。

「いや、すまん。本当に大したことじゃないんだ。ただ......少し失敗しちまってな。」

「失敗ですか?」

リィリさんの表情を見る限り致命的な失敗ではなさそうだけど......。

「あぁ......まぁ......なんというか......。」

......物凄い言いにくそうだな......聞くのはやめるべきか?

「あの、レギさん。言いにくいようでしたら別に......。」

「あぁ、いや、そんな深刻な話じゃないんだ。本当にしょうもない失敗だ。少しばかり......格好つかなくてな。」

「格好つかないですか?」

何か格好つけるような展開があったのだろうか......?

「俺達にはな、こういった話をする時に男が女に指輪を送るって習慣があるんだ。」

「へぇ、僕のいた場所にも同じ習慣がありましたよ。」

「ほう。全然関わりの無い世界にも拘らず、そんな共通点があるのは面白いな。」

「ですね。まぁ、女性が装飾品を好むのはどんな世界でも共通みたいですし......でも、指輪で失敗って言うと......。」

なんとなくオチが分かったような。

「まぁ、お察しの通りって奴だ。少し小さくてな......。」

「あー、なるほど。」

この世界は指輪の規格とかもないだろうしな......まぁ、あったところで個人に合わせて調整はすると思うけど。
入らないレベルじゃぁな......あぁ、それでリィリさん指輪をしていないのか。

「まぁ、そういうわけで......指輪を渡したもののつけられなくてな......明日調整してもらいに行かないといけないんだ。」

「なるほど。そういう事でしたら、旅の準備は僕がしておくのでお二人で出掛けて貰って大丈夫ですよ。」

村とか街もあるし、別に一か月分の準備が必要なわけじゃない。
そもそもシャル達のお陰でどこに居ても人里まで一日かかる方が珍しいしね。

「そりゃ流石に悪いぜ。どのくらい時間がかかるか分からねぇしな。」

「まぁ、大丈夫ですよ。元々買い足すものって殆どありませんし、僕だけでも大丈夫ですよ。」

「......そうか。すまねぇ、今回は甘えさせてもらうか。」

「はい。ごゆっくりして来てください。あ、でも後で備品は確認して貰えます?」

俺がそう言うとレギさんが苦笑する。

「あぁ、任せとけ。」

「あーそこの粗忽者どもよ。指輪の調整はちょっとやそっとで終わらぬぞ?数日は見ておいた方がいいじゃろうな。」

俺とレギさんが話していると、ナレアさんが若干呆れた様な様子で言う。

「そ、そんなにかかるのですか?」

「うむ。元々ある程度遊びを入れてある魔道具と違って、レギ殿が購入した指輪はかなり立派な物じゃ。それなりに名のある者の細工じゃろうし、彫金士もすぐに取りかかれるとは限らぬしの。」

「な、なるほど。」

「まぁ、一番の問題は......調整すると言っても限度があるからのう。見たところ、全然大きさが違うというほどでは無いから恐らく大丈夫じゃろうが......。」

「出来れば、レギにぃが選んでくれたこの指輪を着けたいし、調整出来たら嬉しいなぁ。」

「......あぁ。そうだな。」

リィリさんは若干顔を赤らめながら、レギさんは少しぶっきらぼうに言う。
しかし......指輪か......昨日も思ったんだよな......。
俺はナレアさんにそういった贈り物って何もしてないなって。
いや、気づいた切っ掛けがあの、よく分からない奴のお陰って言うのもなんか業腹ではあるのだが。
それにしても、まさか昨日の今日でレギさんまでそういったことをするとは思わなかった......うーん。

「あの......レギさん。少し相談が......。」

「ん?どうした?」

「えっと......後で僕の部屋でいいですか?」

「あぁ、構わないぜ?」

若干首を傾げながらレギさんが了承してくれる。
どういった物をプレゼントしたらいいとか、どこで買えばいいとか全く分からないしな......これで何とかなる......か?
そう考えた俺に一抹の不安が去来する。
あれ?
相談する相手ってレギさんで大丈夫だろうか?



翌日、俺は宿の前で朝日を浴び目を細めていた。
結論から言うと......昨夜の相談は駄目だったと言えるだろう。
付き合ってくれたレギさんには非常に申し訳なかったのだが......。
俺がナレアさんへプレゼントを渡したいけどどういう風にしたらいいのかと尋ねたところ、レギさんは......。

「......そうか。」

そう言って固まってしまった。
そしてそのまま暫く俺達の間に気まずい時間が流れた後、レギさんが一言。

「......すまん。」

そう言って頭を下げてきたのだ。
その後で俺達はあーだこーだと色々と意見を言い合ったのだが、所詮は女心や人の機微とやらをかけらも理解出来ていない二人の男だ。
話は全く煮詰まることなく、ただただ無為に時間を過ごしているような感じになってしまった。
しかしその時俺達の元に一筋の光明がもたらされる。

『ケイ様。差し出がましい事を言うようですが......リィリに相談してはどうでしょうか?』

シャルの一言により道は開けた。
お陰で俺とレギさんは健やかな気持ちで眠りにつくことが出来たのだが、妙に目が覚めるのが早く今に至る。
王都の街壁の向こうから朝日が差し込み、朝特有のひんやりとした空気が非常に心地良い。
農業が主な仕事である村なんかだとこのくらいの時間でも人の気配が結構するものだけど、街中となるとやっぱり朝はゆっくり目なようだね。
商店街の方だともう仕事を始めている人達もいるかもしれないけど、この辺りは静かな物だ。
まぁ、今はそちらの方に足を向けるつもりはないけど......とりあえず、適当に散歩でもするか。
今日の昼過ぎには王都を発つ予定だけど、昨日話した通りナレアさんは王城に行ってルーシエルさんに今後の動きを伝えに、レギさんとリィリさんはレギさんが指輪を買った店に行き指輪の調整依頼を、俺は買い出しだけど......水はいらないし消耗品の類も殆ど補充の必要は無い。
まぁ、殆ど食材の買い込みだよね。
しかも保存食の類ではなく、何と言うか......元の世界で軽くキャンプ......いや、バーベキューに行くような食材の買い込みだ。
勿論非常時用の保存食や各種消耗品の類も必要なのだけど、買い足しの必要は殆どないな。
俺は人気のない王都を適当に歩きながら今日の予定を決めて行く。
リィリさん用に面白い食材か保存食でも見つけられればいいのだけど......流石にリィリさんが発見出来ていない様な物を、ちょっと思いついただけの俺が見つけられるとは思えない。
ファラが居ればもしかしたら何か見つけてくれたかもしれないけど、ファラは今クルストさん達が居たダンジョンの方に行っているからな。
まぁ、シャルにお願いしてネズミ君に聞いて貰ったら分かるかも知れないけど......っとそうだ、ファラで思い出したけどシャルと少し話さないといけないことがあったな。
俺は肩に掴まっていたシャルを胸に抱き直す。

『け、ケイ様?どうされましたか?』

耳をピンと立てたシャルが俺の腕の中から顔を見上げてくる。
俺はそんなシャルの頭を撫でながら口を開く。

「シャル、今後の事で少し相談......いや、お願いがあるんだ。」

『今後の事......ですか?』

「うん......あのね?」

シャルはきっと大反対するだろうけど......これだけはどうしても譲れない......譲りたくない事なんだ。
俺は人気のない道をゆっくりと歩きながらシャルに俺の考えを伝えていった。

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