狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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8章 魔道国

第486話 では取引を始めよう

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結構な時間が経過したと思う。
キオルの質問は多岐にわたり、好きな食べ物から戦闘方法、寝る時間なんかも聞かれていたっけ。
好きな食べ物の時が一番真剣な表情をしていたな......リィリさん。
色々な条件を調べていたみたいだけど、好きな食べ物って関係あるのだろうか?
栄養素とか?

「聞きたい事は一先ずこんなところですかね。」

満足したように笑みを浮かべながらキオルが頷く。

「......ふむ。ではそろそろぶっ飛ばすかの?」

「「......。」」

ナレアさんの言葉にクルストさんとキオルの表情が固まる。

「......まだ何か聞きたいことがあるだろ?」

「あー、えー、そうですね......。」

「そうだ。アイツを起こすって話はどうなった?起こすべきじゃないか?」

「確かにそうですね。それは必要な事です。すぐに起こしましょう。」

なんか二人して犠牲者を増やそうとしていない?
まぁ、ダメージが分散されると思えば......大事なことかもしれないね。

「そういえば、リィリさんが起きてからならって話していたっスよね?ちょっと馬鹿を一匹起こしてくるっス!」

若干縋るようにレギさんに言い放ったクルストさんは、いそいそと気絶した人達が集められている場所に向かっていく。
まぁ......それはいいとして......。

「ナレアさん。少し相談したいことがあるのですが、いいですか?」

「む?なんじゃ?」

俺は幻惑魔法を発動してナレアさんとの会話が外に聞こえないようにする。

「ナレアさん。彼らの言う神の魔力ですが......。」

「うむ。時期も一致しておるし、実行部隊はアザルじゃと聞いておるしな。ぶっ飛ばすのかの?」

「ぶっ飛ばすのは、まぁ後ほど。それよりも母さんの魔力を取り戻したいのですよね。」

「あぁ、そういえばそうじゃったな。御母堂はどうでもいいと言っておったが、ケイはそれも目標にして居ったな。」

「えぇ......。」

神域を襲った奴等......というか、檻に母さんの魔力を持たせていたくなかったのだが......どうやらキオルが秘匿していたらしいし......キオルから取り戻すだけでいいなら話は早い。

「そうじゃな......穏便に取り戻す必要は無いと思うが......話し合いで取り戻したいのかの?」

「えぇ、クルストさんの事情もありますし......全てを否定するつもりはありません。とは言え......母さんの魔力を返してもらうという事は......クルストさん達の戦力や研究の進み具合に影響するかなと......。」

「泥棒の事情に影響されすぎじゃな。まぁ、ケイらしいと言えばケイらしいのじゃが......ふむ。では妾に任せてもらえるかの?上手く誤魔化しつつ返還させるとするのじゃ。」

「それはとても助かるのですが......。」

「代替として、ケイの魔力を込めた魔晶石を渡そうと思うが、それでもいいかの?」

なるほど......神域産......というか、俺の魔力を込めた魔晶石か......まぁ、母さんの魔力を奪われた事が気に入らなかっただけだし、それでいいか。

「えぇ、それでお願いします。」

「本来それすら渡す必要はないのじゃがのう......。」

「......すみません。」

ナレアさんに謝ると同時に横をちらりと見ると、これでもかと言うばかりに不満そうなシャルがいた。

「えっと......シャル。魔晶石を渡すのは駄目かな?」

『いえ、ケイ様のなさることに否やはありません。』

......何か、このやり取りよくやるような気がするのだけど......基本的に全力で不満ですってオーラを醸し出してくるよね?

「あー、じゃぁ、ナレアさん代替に魔晶石を渡す方向でお願いします。」

シャルから無言でありながら非常に威圧感のある抗議を受けながらも、ナレアさんに交渉をお願いする。

「いや、まぁ......ケイがそれでいいのなら別にいいのじゃ。妾が文句を言えるようなことでもないしの。」

シャルだけではなく、ナレアさんも物凄く不満そうにしているけど......俺が笑いかけると、軽くお腹を殴られた。



「キオルよ。少し話がある。」

「なんでしょうか?」

ナレアさんが椅子に座りキオルに話しかける。

「今回の件と完全に別と言う訳では無いのじゃが......お主、いや、お主等に要求したいことが二つあるのじゃ。」

「我々に要求、ですか......お聞きしましょう。」

先程までとは違い、少し冷めた様子のキオルがナレアさんに応える。

「まず、一つ目じゃが、先程妾と話していた時に檻から抜けると言っておったな?」

「えぇ。リィリさんのお話を聞けたことで試したい事、調べたいことが山のように出来ましたからね。あの組織はダンジョンの研究については役に立ちましたが、この段階まで来た以上ダンジョンの研究はもう私には必要ありませんし......所属しておく必要性はありませんからね。」

「抜けたりしたら襲われたりするのではないかの?」

「まぁ、それはあるでしょうが、基本的に私達をどうにかするのは難しいでしょうね。遺跡にある古代の魔道具を使えるのは私達だけ......というか、魔道具であることすら把握出来ていませんしね。」

そう言って肩をすくめるキオル。

「古代の魔道具を使えるようになったのは、神の魔力のお陰じゃよな?」

「えぇ。ナレア様は違うのですか?」

「妾は自前の魔力で起動できるからの。しかし、丁度いい話になったのじゃ。一つ目の要求は、お主たちはこのまま檻に所属したままで居て欲しいという事じゃ。」

「ふむ......組織の情報を集めて流せということですか?」

「うむ。そして二つ目じゃが、神の魔力をこちらに渡してほしい。」

「......お断りいたします。一つ目に関しては私達にも益のある提案をしてくださるのでしょうが、二つ目に関しては、見合う代価が支払えるとは到底思えません。」

きっぱりと断ってくるキオル。
まぁ、そりゃそうだよね。
母さんの魔力に変わる様な代物は、今のこの世界ではけして手に入れられるものではないだろう。

「ほほ。まぁ、とりあえず話を聞くのじゃ。確かに突然渡せと言われても頷けるはずもないじゃろうが、勿論お主等にも益があるように考えておる。一つ目の対価じゃが、こちらも情報を渡すのじゃ。」

「情報と言うと......。」

「勿論、お主等の目的に必要であろう情報じゃ。今回リィリに色々と聞き取りを行ったが、これから実験を進めていく内に新たに聞きたいことも出来るはずじゃ。それと......リィリとは別の、相当長い時間を過ごしたスケルトンを知っておる。必要であれば紹介してやらんこともない。無論会話は可能じゃ。というかお主とは相当気が合うじゃろうな。」

「それは実に興味深いですね......いいでしょう。一つ目の要望......いえ、取引については受け入れさせて頂きます。」

「よし、では、定期的に連絡を取るようにするのじゃ。」

ナレアさんの話を受け入れるキオル。
リィリさんの情報とアースさんの紹介か。
檻の情報は確かに把握しておきたい所ではあるけど......正直アースさんとキオルは混ぜるな危険って感じが......いや、まぁナレアさんも似たようなものだけどさ。

「では、二つ目の対価じゃが......これに興味はないかの?」

若干失礼なことを考えているとナレアさんがテーブルの上に魔晶石をいくつか転がす。

「魔晶石ですね......おや?これは一体......。」

そう言いつつテーブルの上に置かれた魔晶石に手を伸ばそうとしたキオルだったが、それよりも早くナレアさんが魔晶石を回収してしまう。

「な、ナレア様!ちょ、ちょっとお待ちください!今の!今の魔晶石をもう一度見せて頂きたい!」

一気にテンションが上がりつつ物凄く慌てだしたキオルを尻目に、ナレアさんがニヤニヤしながら魔晶石を握りしめた手を見せびらかす様に軽く振る。

「今の魔晶石......込められた魔力は神の魔力ですね!?何故あなたがそれを!?まさかあなた方も神から奪ったのですか!?」

「奪う訳ないじゃろ。正式に譲り受けているものじゃよ。」

「譲り......!?ま、まさか神と対話を!?」

「......。」

ナレアさんはニヤニヤしたままそれ以上何も言わない。
キオルは先程ナレアさんの提案を即決で断った時とは異なり、何やら物凄く考え始めている。
これは......完全にナレアさんの掌の上と言った感じだろうか。

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