479 / 528
8章 魔道国
第478話 取引
しおりを挟むView of ナレア
ケイがリィリの周囲を空間魔法で固定した後、妾達は一気に飛び出した。
ケイとレギ殿の目標はここから少し離れているので、攻撃は合わせぬと行かんのう。
ケイが走り込んだ速度のままえげつない蹴りを扉の横に立っていた兵に入れ、レギ殿はクルストの傍に移動を完了したようじゃな。
妾は近くにいた研究者に向けて魔力弾を放つと同時に幻惑魔法を解除する。
そして立て続けに二人の人間に向かい、幻惑魔法と天地魔法を合わせた見えない石弾を叩き込み、更に不可視化した手枷足枷を嵌めて無力化する。
残るは......。
「......いや、驚きを通り越して、もはや呆れてしまいますね。何をどうしたらこの短時間でこの場を襲撃できるというのですか?」
キオルの奴が注視しておった計器から顔を上げ、かぶりを振りながら妾に向かって言う。
「それと......何故か計器が軒並み沈黙したのですが、何かしました?」
「質問ばかりじゃな。」
「ははっ、好奇心の強さなら魔族の方々にも負けない自信はありますよ。」
ふてぶてしい態度じゃ......。
まぁ、向こうのダンジョンで顔を合わせた時からそういう人間だとは思っておったが......魔術研究所ではもう少しまともに見えたのにのう。
「私の疑問に答えてくれたり......しませんか?」
「お主が妾の問いに答えた事があったかの?」
「これは手厳しい。では、そうですね......。」
そう言ってキオルは辺りを見渡したかと思うと、少し声を落として言葉を続ける。
「とある組織についての情報と引き換えでどうでしょうか?」
「ふむ、微妙じゃな。お主も理解しておると思うが......妾達の切り札と高々一地下組織の情報が釣り合っているとは到底思えぬのじゃ。」
「いやー、まさしくその通りですね!値切り過ぎましたか。」
肩をすくめながら機材の陰から出て来る。
「しかし、やっと準備が整ってこれから色々調べ始めるという時にこれですからね......。」
そう言いつつ機材を拳でコンコンと叩いた後、その拳を口元に当てる。
時間稼ぎをしているようにも見えるが......この部屋におる相手はこちらには来れぬじゃろうし......外から援軍が来るのを待っている?
クルストのヤツはレギ殿と戦闘中......他の者は入り口付近でケイと睨み合っておる。
こちらを気にする様子はないのう。
「あぁ、時間稼ぎとかではありませんよ?信じられないかもしれませんが......純粋に色々とお話を聞きたいだけです。」
「......妾と話すよりも早い所リィリの事を調べたいのではないのかの?」
「それは確かにおっしゃる通りですがね。しかし、この場にこういう形で踏み込まれてしまっては、もう逆転の目はありませんからね。」
「余程、リィリはお主等の悲願とやらに近い所におるようじゃな。」
「近いと言いますか......体現している、というのが正解ですね。」
「......アンデッドにでもなりたいのかの?」
「ははっ!貴方にはそこの方がアンデッドに見えるのですか!?」
心底可笑しいというような、こちらを馬鹿にしている目で言い放つキオル。
「ふむ......まぁ、そうじゃな。リィリは間違いなく、生きておる。」
「その通りです!確かに心臓の鼓動は無いようですが......体液は分泌しているようですし、恐らく髪や爪も伸びているでしょう!確かにアンデッドの共通の特徴である魔力核をその身に宿しているようですがそれだけの話です!弱点を貫かれれば死ぬ......そんなもの生命として当たり前の話ではないですか!頑丈か否かの違いがあるだけでしょう!?」
突然興奮しだしたのう......情緒不安定なのは珍しい事でもないが......魔術研究所にはこんな感じのヤツが多かったからのう。
まぁヘッケランのヤツはずっと興奮しっぱなしじゃったが。
「しかし、それは最終段階!私の理想の果てにあるものです!」
離れた位置から横たわるリィリに向かってダンスにでも誘うように手を差し出すキオル。
当然リィリは反応するわけないのじゃが......自己陶酔でもしておるのかキオルのヤツ、嫌に満足そうで気持ち悪いのう。
恐らくリィリの意識があったら物凄く嫌そうな顔をする......いや、リィリなら困った感じで笑うかのう?
「とは言え、物事には順序があります。目指す地点が実現可能であることが分かった以上、次は条件を一つ一つ解き明かしていかなくてはいけません。どうすれば理想に辿り着けるのか。その為にも、深くそれを知る必要があるわけです。」
「やはり、先程のダンジョンでの話は欺瞞だったようじゃな。リィリを失うことを恐れていたのはお主も同じじゃ。」
「ははっ!えぇ、その通りですよ。確かに成功例がある以上続けていれば次の成功に辿り着くことも出来るでしょうが......流石にここまで完璧な成功例、とてもではありませんが手放せるものではありませんね。」
まぁ、それを知っていた所で、あの場では強引に取り押さえることは出来なかったじゃろうがの。
目に見えない位置で仲間が人質に取られておってはの......相手の方が一枚上手だったのう。
「しかし......本当にあなた方には色々と話を聞かせてもらいたいですね。何があってこんな状態になったのか。あなた方のその不可思議な優秀さについて等。本当に興味が尽きません。」
「......。」
物欲しそうな目で見て欲しくないのう。
どうでもいい相手にそんな目で見られても、顔面に石弾を叩き込みたくなるだけなのじゃ。
何となく相手の狙いも読めてきた事じゃし......叩き込むかのう?
「おっと......ちょっと物騒な気配がしてきましたね。ではもう一度提案させて下さい。」
そう言って先程と同じように辺りを見渡す。
既にケイは全ての相手を制圧したらしく扉の前に控えている。
レギ殿はまだクルストと戦っておるようじゃが......もう他に立っている者はいないのう。
その様子を見て笑みを浮かべながら肩をすくめた後、キオルが言葉を続ける。
「檻が魔道国で何を企んでいるか。その情報と引き換えにお話を聞かせてもらえませんか?」
「......内容次第じゃな。魔道国に対する脅威度、お主が求める情報、妾が釣り合うと思えば話そう。何が聞きたい?」
「では......そちらの......彼女は一体どうして今の様な状態になったのでしょうか?」
「......それについて、妾では聞いただけの話になってしまうのう。じゃが、その程度であれば問題なかろう。今向こうでお主の所のクルストと戦っておる人物。レギ殿、若しくはリィリ本人に直接聞くのが良かろう。」
「口利きをしていただけるので?」
「話をした後でお主がぶっ飛ばされるところまでは面倒見ぬぞ?」
「記憶と知性さえ失わなければその程度構いません。あなた方にここまで乗り込まれてしまった以上、もうそちらの彼女の事を調べることは出来ないでしょうしね。」
ため息をつきながらリィリに視線を向けるキオル。
「では、先に檻が魔道国で何を狙っているかお伝えしておきましょう。向こうはもう少しかかりそうですし。」
「良いのかの?」
「えぇ。貴方が約束を違えるとは思えませんので。話が終わった後ぶっ飛ばされることも含めてね。」
そう言って笑みを浮かべた後、近くにあった椅子に腰を下ろしつつ話始める。
妾は取引をするのであれば、向こうでやり合っておる二人を止めなくても良いのか?と言う意味を込めて聞いたのじゃが......まぁ、レギ殿なら戦闘自体に問題はないじゃろう。
妾がちらりとレギ殿の方を見ると......中々凄い状況になっておるようじゃし、アレを止めるのものう......。
「少し遠回りをさせて頂きますが、檻の目的は御存じですか?」
「不老不死じゃったか?」
レギ殿達から視線を切り、キオルとの話に集中する。
「ははっ、あちらのお馬鹿さんからでも聞きましたか?まぁそれも間違えではありませんが、正確にはその前段階......神の復活が目的ですね。」
神の復活のう......あまりいい目的とは思えぬのは、御母堂たちから話を聞いておるからじゃろうな。
「ナレア様は神話の類は御存じですか?」
「......各地で発見されておる遺跡。その文明よりも遥か昔の話じゃな?」
「流石ナレア様、遺跡狂いの名は伊達ではありませんね。今現存している遺跡のほぼ全ては神話の終わり、神々による大戦によって一度世界が滅びた後、細々と生き残った人々が築き上げた物らしいですね。まぁ、その文明も人々の手によってまた滅びを迎えたようですが。」
御母堂や応龍からその辺の話は聞いて知っておるが......こやつはそれをどうやって知ったのかのう?
妾は極力情報を漏らさぬように気を付けながら、キオルの話に耳を傾けていった。
1
お気に入りに追加
1,717
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる