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8章 魔道国
第475話 作戦開始
しおりを挟む「ケイ、ゆっくりと呼吸するのじゃ!」
俺はレギさんの背中に顔を額を押し付ける様にしながら荒い呼吸を繰り返す。
「ケイ、大丈夫じゃ!もう幻惑魔法で外からは何をしても分からぬようになっておる!レギ殿!ケイを寝かせてやってくれ!」
「分かった!」
ナレアさん達が慌てているが......俺は二人に大丈夫と言う事も出来ない。
何キロも走った後の様な......心臓と肺が今まで聞いたことのないような音を出している気がする。
呼吸すると痛い、でも荒い呼吸は止められない。
目を閉じているのに目の前が回っているような......瞼の裏が真っ赤にみえて......寝ているのに苦しい......呼吸しているのに酸素が足りない。
「ケイ!水はいるか!?」
レギさんの言葉に首を小さく動かし、手で頭を指しながら招くように動かす。
......殆ど動かせていなかったけど、それに気づいてくれたナレアさんが俺の頭に濡らした布を乗せてくれる。
「すまぬ。流石にここを水浸しにすると拙いかもしれぬのじゃ。」
俺は小さく頷く、ナレアさんの乗せてくれた布をおでこに押し付けるように掴む。
接続を使うにつれて、疲労がどんどん酷くなっていくとは思っていたけど、四回目は殊更強烈だ。
正直、全員が移動するまで良く維持できたと思う。
恐らく、五回目は無理だ。
魔力量的には問題ないのだが......恐らく次は発動させたとしても一瞬で俺が倒れてしまう。
目に見える範囲であればこんな事は無かったのだけど......魔道具の補助を使っているせいなのか、見えない位置への接続はこんなに疲れる物なのか......まぁ、何にせよ、今日はもう接続を使える自信はない。
多少落ち着いて来た俺は、回復力向上をかなり強めに発動する。
しかし、中々息が整わない。
それでも何とか体を起こすくらいは出来るかな?
「おい、ケイ!無理はするなよ?」
体を起こし始めた俺を支える様にしてくれながらレギさんが言う。
「だ......大丈夫、です。それより......リィリさん......は?」
「今のところは大丈夫そうじゃ。台に拘束されておるようじゃが......危害は加えられてはなさそうじゃ。」
ナレアさんが少し離れた位置で、恐らくリィリさんの方を見ながら教えてくれる。
俺は体に力を入れてそちらに行こうとしたのだが、レギさんに押しとどめられた。
「ケイ。リィリを早く助けたいって思ってくれているのは分かる。だが、もう少し休め。この作戦はケイが要だ。今のその様子じゃ、まだ行動を起こすには危険すぎる。」
誰よりもここから飛び出しリィリさんの元に行きたいであろうレギさんが、俺の事を支えながら言う。
そうだ......失敗は出来ない。
だけど、成功すればリィリさんの安全は確保できる。
万全を期すべきだ。
俺はレギさんに向かってゆっくり頷くと目を瞑り、呼吸を大きくゆっくりとしたものに変える。
時間にして二、三分といったところだろうか?
呼吸を整えた俺は目を開け、身体を支えてくれていたレギさんに頭を下げる。
「お待たせしました、もう大丈夫です。」
レギさんが頷き、俺を支えていた手を放す。
少しだけ、まだ気怠い感じはするけど......問題ない。
俺は試す様に体の各部を動かしながら二人に声を掛ける。
「レギさん、ナレアさん、少しいいですか?」
俺が声を掛けると、ナレアさんがこちらに戻ってくる。
「もういいのかの?」
「はい、大丈夫です。ですが、少なくとも暫くは帰るための接続をするのは無理だと思います。」
「それは仕方ないのじゃ。他の魔法は問題ないのかの?」
「えぇ、強化魔法は問題なく使えましたし、試してはいませんが固定も行けると思います。」
そう言って俺は指の先の空間を固定してみる。
「うん、問題なく発動させられています。」
「よし。ファラ、この施設内はどの程度把握できておる?」
『建物の構造は一通り済んでいますが、いくつか侵入するのが難しい場所があり、そこはまだです。』
「建物の周囲はどうじゃ?」
『山中にある建物の様で、大陸の何処にあるかはまだ分かっておりません。近くに人里も無いようでして。』
「ふむ......しかし食料や備品の事も考えればあまり離れすぎてもおらぬじゃろう。人里まで行けばこの施設がどこにあるかは分かるじゃろうな。」
ここがどこにあるのか......いや、それよりも問題は......。
「この施設は檻の研究施設なのでしょうか?」
「ふむ......そうじゃな。檻の研究施設であれば......まぁ叩き潰してもいいかもしれぬが......どこぞの国の研究施設と言う可能性もあるのう。」
「それ次第で、リィリさんを助けた後の動きも考える必要がありますよね。少なくともこの部屋の中にいる人たちはぶっ飛ばしていいと思いますが、外の人達は何も知らない研究者って可能性もありますし......。」
「では、ファラよ、この施設がどういったものなのかを探ってくれるかの?妾達はこの部屋を制圧してしまうとするのじゃ。レギ殿、それでよかろう?」
『承知いたしました。それでは私はこれにて。』
ナレアさんの言葉に頷いたファラは早速といった感じで駆け出していく。
マナスの分体も一緒に居るから連絡はすぐとれるし、ファラの方は問題ないだろう。
「......分かった、それでいこう。クルストは俺に任せてもらっていいか?」
ファラを見送ったレギさんが、俺達の顔を見ながら言う。
クルストさんには正直俺も色々と思う所はあるけれど......ここはレギさんに譲ろう。
俺はレギさんの顔を見ながらしっかりと頷く。
「二人がそれで良いなら妾は問題ないのじゃ。後は見た感じ......警備が五人、研究者がキオルを含めて四人と言ったところかの?」
武器や鎧を身に着けているのが五人......ラフな格好が四人......白衣ではないんだな。
「では、僕は出入口付近にいる奴らから制圧していきます。」
「了解じゃ。一人も逃がしてはならぬぞ?」
ナレアさんの言葉に俺とレギさんは頷く。
「この部屋を制圧した後は......ファラの情報待ちになりますね。」
「そうじゃな。檻の施設であれば叩き潰す。国の施設であれば......リィリを連れてこそこそと脱出じゃな。」
「檻の施設であってもリィリを連れて外に出ていいんじゃねぇか?入口で見張っておいてファラから情報を貰い次第再突入してもいいだろ?」
「ふむ......それもそうじゃな。どの道この部屋を制圧した後は、リィリの固定を解いて起こさねばならぬしのう。幻惑魔法を使えばいくらでも隠れられるとは言え、外の方が落ち着けるのは確かじゃ。」
「では......リィリさんを固定したら、この部屋を制圧。固定を解いた後、リィリさんを連れてこの施設から脱出。そのままファラが情報を調べてくれるまで待機して、その後は仕掛けるか離脱するかは情報次第。こんな感じですね?」
俺が最後の確認と言った感じで話すと二人が頷く。
「じゃぁ、始めましょうか......リィリさん、もう少しだけ待っていて下さい。今から暴れますから!」
俺はリィリさんの寝かされている空間を固定化する。
接続に比べれば発動までは一瞬って感じだ。
「あれ......?計器が......。」
「どうした?」
「いや、こっちの計器なんだが......。」
どうやら、リィリさんの事をモニタリングでもしていたらしく、ラフな格好の一人が何か異常に気付いたようだけど......もう遅い!
俺達は物陰から飛び出し、それぞれの目標に向かって駆けだした!
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