461 / 528
8章 魔道国
第460話 一体何が……
しおりを挟む「いくら何でも遅すぎるのじゃ。」
「そうだな。」
いつまで経ってもリィリさんが宿に帰ってこない。
もう晩御飯時はとっくに過ぎ去り、食堂で吞んでいた人達も解散していっている。
夜更けとは言わないけれど、宵の口はとうの昔に通り過ぎたと思う。
レギさんもナレアさんも気遣わしげだ。
「ナレアさん、連絡してみましょう。」
俺はそう言って幻惑魔法を発動させる。
「む......そうじゃな。」
ナレアさんが懐から魔道具を取り出し、起動させる。
しかし、対となっているリィリさんの魔道具の起動が確認できない。
「......反応がないのう。」
「部屋に移動しましょう。ここだと動きづらいです。」
「そうだな。」
俺達は言葉少なに視線を交わすと、俺の使っている部屋に移動する。
部屋の扉を閉めてすぐ、俺は肩に掴まっているシャルへと声を掛ける。
「シャル、リィリさんの居場所は分かる?」
『先程、調べる様に命じました。すぐに分かると......すみません、ケイ様。失礼します。』
シャルは既にリィリさんを探す様に命じてくれていたみたいだ。
台詞の途中で窓の外に顔を向けたので、もう連絡が来たのだろう。
食堂でそれを伝えて俺達が部屋に戻るまでに見つけたって事......?
早すぎない......?
俺はネズミ君達の仕事に戦慄しつつ、皆に状況を伝える。
「既にネズミ君達にリィリさんを探す様に言ってくれていたみたいです。今連絡が来たので恐らく......。」
「そうか、すまねぇな。手間を掛けさせて。」
レギさんが少し安心したように言う。
ネズミ君達が把握出来ているなら問題は無さそうってことだろう。
ナレアさんは窓際で話しているシャルの方を見ているようだ。
しかし、リィリさんは何をしているのだろうか?
迎えに行った方が良いかもしれないね。
俺もナレアさんに倣って報告を聞いているシャルの方に視線を向けたところ、シャルの耳がピンと立ち緊張が走ったように見える。
俺の胸の中にざわりと、嫌な物が生まれる
次の瞬間シャルが俺の方を向き端的に告げてくる。
『ケイ様。リィリが拐かされました。』
「り、リィリさんが攫われた!?」
「なんだと!?」
思わず声を上げた俺に詰め寄ってくるレギさん。
「ケイ!今のはどういうことだ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!シャル!どういうこと?」
詰め寄って来たレギさんを抑えつつ、俺はシャルに問いかける。
リィリさんが攫われたって言ったよね?
『今報告に来たのは私の命令でリィリを探しに行った者とは別の者です。その者が監視していた対象がリィリと接触、その後拐かしたと。』
「監視対象って誰の事!?誰にリィリさんは攫われたの!?」
シャルが一瞬ナレアさんの方に視線を向ける。
その視線を受けたナレアさんも何かに気付いたのか驚いたような表情になる。
『その者が監視していたのは、冒険者。クルストです。』
「クルストさん!?クルストさんがリィリさんを......?いや、それって普通に二人でどこかに向かっただけじゃ......?」
俺がクルストさんの名前を出すと、レギさんが安心したように力を抜いて椅子に座り直す。
クルストさんがリィリさんを攫うって無理があり過ぎる......まぁ、クルストさんに限らずリィリさんをどうこう出来る人は滅多にいないと思うけど。
まぁ、クルストさんなら美味しいお店を見つけた、とか言ってどこかに連れて行くことくらいは出来そうだけどね。
『いえ、何らかの魔道具を使いリィリを無力化、その後担いで自分の拠点に連れ帰ったとのこと。拠点は現在監視中です。』
......そんな馬鹿な。
どう聞いてもクルストさんがリィリさんを誘拐しているようにしか聞こえない。
「レギさん、ナレアさん。話を聞く限り、誘拐に間違いなさそうです。」
「なんだと......!?」
椅子に座って力を抜いていたレギさんの表情が一変する。
「魔道具使ってリィリさんを無力化した後に自分の拠点に連れ去ったそうです。どんな理由があったにせよ、すぐに向かう必要があると考えます。」
俺は立ち上がり、外に出る準備を始める。
「馬鹿な......クルストが?あいつ、何を考えてやがる......!」
レギさんも慌てて部屋を出て自分の部屋へと戻った。
「そう言えば、クルストさんが監視対象ってどういう事?」
ダンジョン攻略に参加した冒険者だからだろうか?
クルストさんは監視対象から外したと思っていたけど。
「妾がシャルに頼んだのじゃ。ケイ達と違って、妾はそこまで長い付き合いがある訳ではないからの。念の為といったところじゃったが......まさか、このようなことになるとはの......。」
部屋に残っていたナレアさんが表情を消しながら呟く。
「そうだったのですか......。」
本当にクルストさんがリィリさんを誘拐したのだろうか?
何か想定できることは......。
「もしかしたら、クルストさんに変装して、リィリさんを油断させたって可能性もありますよね?」
「可能性が無いとは言わぬが......ネズミが監視しておったのはクルストじゃ。リィリを監視していてクルストが突然現れたのならともかく、クルストを監視している時に現場に遭遇したとあってはの......少なくとも、妾達と一緒にダンジョン攻略に参加したクルストであることは疑いようが無いと思うのじゃ。」
それもそうか......それに、多少の変装くらいで知り合いを騙せるとは思えない。
そして、ダンジョンを一緒に攻略したクルストさんは間違いなく本人だった。
あのダンジョンの攻略時からネズミ君が張り付いていたのなら......入れ替わる隙は無いと思う。
「そう......ですね......ところで、リィリさんを無力化した魔道具について何か心当たりはありますか?」
俺が尋ねると、完全に表情を無くしていたナレアさんが難しい表情に変わる。
「いや......全く分からぬのじゃ。人を無力化するような魔道具なぞ......寝かせた......あるいは気絶させたのか......しかしそのような魔術式なぞ......。」
「......そう言えば、クルストさんはフロートボードを使っていました。もしかしたら弱体魔法の込められた魔道具を持っているのかも......。」
「なるほど......弱体魔法の魔道具か......それはあるかも知れぬのじゃ。妾達も用心が必要じゃな。」
「そうですね......。」
それにしたって、一体何がどうなっているんだ......。
クルストさんがリィリさんを害するなんて、とてもじゃないけど思えない。
でもネズミ君......ファラの配下が誤報を持ってくるとも思えない。
「待たせた!」
準備を整えたレギさんが、俺の部屋に飛び込むようにして戻ってくる。
その背には斧を背負っていて......完全武装のようだ。
「シャル、案内をお願い!」
『承知いたしました!』
俺達はシャルの先導に従って夜の王都に飛び出す。
一体どうなっているのかさっぱり分からないけど......リィリさんに何らかの危険が迫っていることに間違いはない。
それをクルストさんが引き起こしたとは考えたくないけど......いや、今は余計な事は考えるな!
今はとにかくリィリさんを見つける事だけを考えるんだ!
2
お気に入りに追加
1,717
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる