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8章 魔道国

第449話 お世話になりました

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さらに数日程、俺とナレアさんは妖猫様の神域で空間魔法の練習をして過ごした。
俺はともかく、ナレアさんが魔法を発動させるのにこれだけ苦戦していたのは初めてだね。
母さんの加護とは相性がかなり悪かったこともあり回復魔法しか発動させられていなかったけど、発動させること自体はすぐに出来ていた気がする。
しかし空間魔法はしっかりと集中した上で、時間をかけてようやく固定や歪曲が発動させられるくらいで、接続は手ごたえが無さすぎて妖猫様の言う通り発動させることは出来なさそうだと言っていた。
今はどうやって固定や歪曲を利用するかを悩んでいるらしい。
そんな感じで妖猫様にコツを教わりながら練習を続け、俺も何とか形にはなって来たかなってくらいの手ごたえを感じることが出来たこともあり、俺達はそろそろ神域をお暇することにした。

『いやー本当に楽しかったよ。もっと居てくれてもよかったんだけどなー。』

妖猫様が機嫌良さそうに尻尾を振りながら言う。

「すみません、妖猫様。仲間を待たせているので、また今度、日を改めてお邪魔させてもらいたいと思います。」

『そっかー。じゃぁ、その時を楽しみにしておくよー。外の話もまた聞きたいしねー。』

「あはは、分かりました。面白い話を仕入れておきますね。」

尻尾を振るのを止めた妖猫様が、顔を擦りながら言うけど......今日は雨なのだろうか?
そんな失礼なことを考えていると、ナレアさんが妖猫様に声を掛けていた。

「妖猫殿、世話になったのじゃ。貰った加護は十全に使える様に精進を続けていくつもりじゃ。」

『うん。便利に使ってくれると嬉しいな。ナレアちゃんは色々と使い方を考えているみたいだから、何か面白い事が出来たら教えて欲しいな。』

顔を擦るのを止めた妖猫様が、今度は背中を伸ばしながらナレアさんに言う。

「ほほ、期待に応えられると良いのじゃがのう。」

少し自信が無さそうにナレアさんが妖猫様の要望に応える。
自信が無さそうな感じも珍しいけど......そうなるのも無理はないくらい、空間魔法は難しかったからなぁ。
でもナレアさんだったら、何か面白い使い方を見つけられそうな気がする。

「......ケイからも何やら無理難題を押し付けられている気がするのじゃ。」

「あはは、期待しています。僕も参考にしたいので。」

「ふぅ、精々頑張ってみるのじゃ......妖猫殿、次に来る時は前話していた魔術に関する物を持ってくるので、そちらも楽しみにしておいて欲しいのじゃ。」

『うん。新しい事を学ぶなんて本当に久しぶりの事だし、物凄く楽しみにしているよ。よろしくね、ナレアちゃん。』

妖猫様に期待していると言われたナレアさんは先程とは違い、自信たっぷりに頷き返す。
まぁ、魔術はナレアさんの得意分野だし、自信たっぷりなのは当然だろうけどね。
次に来た時の話がでたので、妖猫様に聞いておかないといけない事があった事を思い出した。

「次に来る時は他の仲間も連れてきたいと考えているのですが、大丈夫でしょうか......?」

『うん。歓迎するよー。と言っても、何かしてあげられるわけじゃないけどねー。』

相変わらず妖猫様はゴロゴロと寝転がりながら、気楽な様子で言う。
歓迎か......そう言えば妖猫様は眷属の方だったり本人だったりと、戦おうとは言ってこなかったな。
そんなことを考えているのを読んだのか、それとも表情に出ていたのか分からないけど、妖猫様がじっとこちらを見ていたかと思うと笑いだした。
こっちから聞いてみるか。

「えっと......妖猫様は他の神獣の方々のように、戦おうとはおっしゃられてきませんね?」

『あはは、ケイ君。僕はあんまり戦うのは好きじゃないからねー。色々と話をしている方が楽しいんだー。』

「そうでしたか。まぁ、僕としてはその方がありがたいですが......。」

『それにねー、空間魔法って正面から戦うって感じじゃないから。気づかれないように一撃必殺と言うか......まぁ、模擬戦向きじゃないよねー。』

「な、なるほど......。」

確かに暗殺向き......他の魔法もやろうと思えば不意の一撃で相手を制圧できるけど......空間魔法はそれに特化していると思う。
というか、問答無用な感じが他の魔法に比べてかなり強い。
攻撃は固定や接続を使えば無効化出来るし、向こうの攻撃は接続を使い不意を打ち放題だ。
正面から戦うのであれば......一、二回くらいなら不意打ちを避けることは出来るかもしれないけど、それで手を緩めてくれるはずもない。
手加減......と言うのも難しい。
そもそも手加減してやるのであれば模擬戦の意味がない。
それは稽古であって、神獣様達が見たい戦いではないはずだ。
空間魔法の使い手と戦うのであれば、こちらも先手必勝、他の魔法で一撃必殺を狙うか......若しくは空間魔法で対抗するしかない。
しかし、空間魔法は......。

「ちゃんとした模擬戦にするには......もう少しこちらも、空間魔法を習熟させないと無理ですね。」

『そうだねー、その時は青猫と戦ってもらおうかな?』

あ、青猫さんか......以前の話を聞いた限り、幻惑魔法も使える筈だし......四千年前の大戦経験者......。
他の眷属の方は知らないけど......多分、青猫さんが妖猫様の筆頭眷族だよね......?

「青猫さんには勝てる気がしないですね......。」

『楽しみにしておきます。』

青猫さんがやる気で怖い......。
俺は青猫さんに愛想笑いをかえしてお茶を濁す。

「えっと......精進します。」

『あはは、青猫は強いよー。がんばってねーケイ君。ナレアちゃんもね。』

「妾は空間魔法では相手にならぬかのう。工夫させてもらうとするかのう。」

......ナレアさんなら、幻惑魔法で何とかしそうだよね。
俺は有効な手段が思いつかないけど......。

『あはは、その時を楽しみにしておくよ。』

そう言ってゴロゴロとしていた妖猫様が立ち上がる。
何か、久しぶりに立っている姿を見たな......。

『さて、ケイ君。この世界に呼び出して......多大な苦労をさせてしまったと思うけど、それでも君はこの世界を大切だと言ってくれた。僕達はこの世界へ君を連れてきた責任、そして何より好ましく思えるケイ君、君の願いを全力で後押ししようと思う。』

「はい、ありがとうございます!」

『召喚魔法については僕達もそこまで詳しくはないけど......きっとケイ君なら元の世界との連絡を成功させられると思う。案も......あるみたいだしね。』

妖猫様がにっこりとしながら言う。
俺は神域に滞在している間、空間魔法の練習をしながら妖猫様に色々と質問をしていた。
まだ確証は得られていないけど、元の世界への連絡は何とかなるかも知れないという気がしてきている。
まぁ、空間魔法の練習をかなりしないといけないのと......ナレアさんの協力が絶対に必要だろう。
とりあえず、ナレアさんには今度相談するとして......まずは空間魔法を使いこなせるようになるまで頑張らないとな。

「上手くいくように頑張ります。」

『うん。ケイ君の御両親には本当に申し訳ない事をしているし、協力は惜しまない。困ったことがあったら何でも言ってね。』

「はい。その時はよろしくお願いします。」

妖猫様が微笑みながら頷く。
うん......妖猫様の言う通り、連絡を取りたいのは両親の為だ。
あの二人が、自分たちの人生を健やかに、幸せに、思うがままに過ごしてもらう為に、絶対に連絡を取らないといけない。
会う事は恐らく出来ないけれど、俺は俺で楽しく生きていると。
伝えなくてはいけないのだ。

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