上 下
446 / 528
8章 魔道国

第445話 パスワードは頭の中に保管

しおりを挟む


『はい、到着―。ここが鳳凰が召喚した召喚物が封印されている場所だよ。』

そう言って妖猫様が立ち止まった場所は......他の場所と変わらないただの平原。
召喚物のようなものは見当たらないけど......。

『あはは、まぁ、空間魔法を使ってちょっと見えなくしているから分からないだろうけどねー。』

妖猫様が笑いながら種明かしをしてくれる。
......なるほど、神域の外から中の様子が分からない様にしているのも同じ原理だろうか?
隠すだけなら仙狐様の幻惑魔法並みに気付かせない様に出来るみたいだな。

「なるほど......物を動かしたり、隠したり......色々なことが出来るのですね。」

『そうだねぇ。空間魔法は直接攻撃したり出来ないけど......便利なことは色々出来るねぇ。』

「攻撃は出来ないのですか?」

俺のイメージでは空間を切り裂くみたいな......防御不能攻撃とか出来るのかと......対人では恐ろし過ぎて使い処が無さそう......とか考えていたけど。

『うん。あーところでケイ君。魔法の話もいいけどー、先に召喚物を確認してもらってもいいかなー?』

「す、すみません、妖猫様。」

しまった......空間魔法って物凄く楽しみにしていたから、つい前のめりになってしまった。
あ、妖猫様だけじゃなく、ナレアさんも苦笑している。
いや、今回は僕でしたけど......ナレアさんもかなり耳が大きくなっていたと思いますよ?

『あはは、天狼から聞いていた通りだねー。魔法に物凄く興味を持っているって......憧れていると言ってもいい感じだって彼女は言っていたよ。基本的に落ち着いた雰囲気なのに、魔法の事になると随分と幼くなるって。』

うぅ......母さんに色々と教えてもらっていた頃は魔力操作が出来なくって、ことある毎に魔法が使いたいって言い続けていたからな......。
恥ずかしい。
妖猫様とナレアさん......シャルやファラにまでなんか生暖かい目で見られている。
心なしかマナスも......。

『まぁ、魔法の話は後にして、そろそろ封印を解くよー。あ、封印って言っても、見えなくしてある物が見えるようになるだけだから安心してね。いきなり爆発したりはしない......と思うよー。』

何故か妖猫様が不安を煽ってくるのだけど......まぁ、大丈夫だろうけどさ。

『......あ。』

......今、妖猫様『あ。』って言った?
思わず俺が妖猫様の方を妖猫様の方を見ると、さっと目を逸らされた。
いやいや......冗談ですよね?
いくら何でも妖猫様がそんなフラグ回収的なお約束なんかするはずがない......。
ですよね!?
妖猫様!?
そんな俺の懇願にも似た視線を受けつつ妖猫様が封印を解き、俺達の目の前に空中に固定された四角い物が現れる。
爆発したりは......しないようだ。
しっかりと空中に固定されているみたいだし、大丈夫そうだ......やはり冗談だったみたい、だね?
俺がもう一度妖猫様の方に視線を向けると......ペロリと舌を出した妖猫様と目が合った。
中々心臓に悪い冗談だったけど、まぁいいか......俺は若干ほっとしながら召喚物へと視線を戻した。

「......これは、箱ですかね?」

「箱に見えるのう。」

『取っ手もついているし、カバンって可能性もあるよねー。』

サイズ的には小さめの旅行鞄ってくらいだけど......金属製っぽいな。
留め具のようなものもついているし、入れ物っぽいけど......ノートパソコンのように開いて使うタイプの機材と言う可能性も否定できない。

「もしかしたらカバンの形をした機械と言う可能性もありますけど、問題は......。」

俺は色々な角度から空中に固定された箱を観察する。
恐らくその箱の底部であろう場所に、ラベルのようなものが張っているの見つけた。
しかし、残念ながらそこに書かれている文字は俺には読めなかった。

「うーん、ここに文字が書いてあるようなのですが......ちょっと僕は知らない文字ですね。」

『んーそっかー。ケイ君の居た世界の文字でもなかったかー。』

「必ずしもそうとは言えませんが......僕の居た世界は国が相当多かったので知らない文字の方が多いのですよね。ただ、少なくとも僕の知識にある文字出ない事だけは確かです。」

『そっかー。じゃぁ中身は分からず仕舞いか。まぁ、予想通りと言えば予想通りだったけど。』

妖猫様があまり残念そうじゃないのは、箱を見ただけで中身が分かるわけないと思っていたからか。
せめてあの文字が読めたら可能性はあったかもしれないけど......シリアルナンバーとかの可能性もあるしなぁ。
まさかパスワードを書いて張っているとは思わないけど。
これは魔神を倒すことの出来るもののはずだし......箱を開けたら、大爆発とか、猛毒散布とか、ウィルス散布とか、ブラックホール発生とか、世界を覆いつくす粘菌が無限増殖していくとか......あるかも知れない。
まぁ、何にせよ魔神が居ない以上、訳の分からない物はこのまま永遠に封印しておいてもらいたい......神獣のお歴々と本来の持ち主には申し訳ない話だとは思うけど。

『中身が分からない以上、ここの封印も解くことは出来なさそうだねー。ささっと片付けよー。ところで、ケイ君は天狼の所の封印を解くんだよね?』

早々に召喚物を封印しながら妖猫様が小首を傾げながら聞いてくる。
一瞬で姿の見えなくなった箱の事はもうどうでもいいらしい。

「はい。空間魔法の練習を積んでからになりますが、いずれ封印を解きたいと思っています。」

『元々ケイ君の持ち物と分かっている天狼の所は安心だね。武器とかじゃないんでしょ?』

「はい、日用品ですね。生活必需品と言えるかもしれないくらい、僕の世界では普及しているものです。」

スマホじゃなくってガラケーの人もまだいると思うけど......殆どの人が携帯は持っていると思う。

『不思議だよねー。ケイ君の世界の日用品って殺傷能力が高いの?』

「いえ......鈍器にすらならないと思います。」

まぁ......社会的に殺すとかなら使えるかもしれないけど......魔神を社会的に殺してもな......。
意外と世間体を気にするタイプだったかもしれないけど......余計暴れまわりそうな気がする。

『ってことは......鳳凰が召喚したのはやっぱりケイ君だったってことだよねぇ。』

「それは......魔神に魔法を邪魔をされたせいで、僕になってしまったのではないかなぁと考えているのですが。」

以前......母さんの神域で初めて召喚魔法の事を聞かされた時に、そんなことを考えた気がする。

『なるほどーそういう考え方もあるかー。』

「神獣様はおろか、自分の眷属にも負けるくらいですからね。僕を呼んだところで何も出来ずに死んでいたのは間違いないかと。」

呼び出されただけで死んでいるし......。
この世界に来てから神子になって魔法を使えるようになったりはしたけど......呼び出された時点で魔神を倒せなければ意味はないからね。

『そう考えると召喚されるのが随分と遅くなったのは不幸中の幸いだったね。下手に早く呼び出されていれば、魔神もろとも爆発で終わりだったわけだし。』

召喚された直後、召喚主と敵もろとも爆死って意味不明過ぎるな......。
これ以上ないくらい意味のない死に方かもしれない。
母さん達の為にも、そんな死に方をしなくて良かった。
まぁでも、母さんがいない場所に出てきた時点でアウトだったわけだから、爆死でもなんでも一緒か。

「色んな偶然に助けられて生きていると思うと、今生きていること自体が奇跡のように思えます。」

『そうだねー。いや、ほんと良かったよー。そして、これからもケイ君がしっかりとこの世界で生きていける様に、空間魔法の事を教えておこうか。』

「ありがとうございます。よろしくお願いします!」

召喚物の確認も終わったことだし、ついにお楽しみの時間だ。
どんなことが出来るのか......あぁ、楽しみだ。
本当に楽しみだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...