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8章 魔道国

第426話 ダンジョンに向けて

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レギさん達と王都で合流してから二十日程が経過した。
俺は偶にナレアさんと二人で出かけつつのんびりと過ごし、ナレアさんは魔術研究所や王城にも偶に行っていたようだ。
レギさんは相変わらずと言った感じだったけど、リィリさんは偶にレギさんと一緒にギルドの仕事をしていたらしい。
まぁ、下水掃除の時は一緒に行っていないみたいだったけど。
因みにファラは早々に王都内の情報網を構築した後、以前提案していたように妖猫様の神域を探して旅立って行った。
定期的に連絡は届いているけど、順調に部下を増やしながら西進を続けているらしい。
そろそろ海に辿り着きそうだという連絡を貰っているけど......妖猫様の神域は大河の北側にあるのかもなぁ。
出来ればダンジョンに行く前に妖猫様の所に行きたかったけど、もしファラが見つけてくれていたとしても神域に行く時間は無かったかもな。
俺達はこれからダンジョンに向かって移動するのだが......冒険者ギルドが用意してくれた馬車での移動だ。
馬車は全部で六台、一つの馬車に四人から六人が乗り込んでいる。
俺達は四人乗りの馬車だったので身内しか同乗していないのだけど......乗り込む直前強烈な視線を感じた......。
高々二十日程度では俺の事を忘れてくれなかったらしい......。
ただでさえ馬車での移動という事でテンションが下がっているのに......中々しんどい旅路になりそうだ。
......シャルの背中が恋しい。
俺は膝の上で丸くなっているシャルの背中を撫でながら馬車に揺られる。
......魔道国は道の舗装が進んでいるから都市国家や龍王国で乗った時よりは楽だな。
まぁ......まだ王都近郊だし、移動し始めだからって言うのもあるだろうけど......。

「ダンジョンまでどのくらいかかるのでしたっけ?」

「最寄りの街まで六日くらいじゃの。そこからは一日も掛からぬようじゃが。」

「......時間かかりますね。」

「まぁ、仕方ないのう。足並みは揃える必要があるし、馬車よりも良い移動手段は魔道国にもまだないのじゃ。これでも道がいいから早い方じゃよ?」

「......そうですよね......振動もかなり抑えられていますし......文句言うのはおかしいですよね。」

「ほほ、ケイのいた世界は余程交通手段に優れておったのじゃろうな。自動車といったかの?」

げんなりした表情の俺に笑いながらナレアさんが聞いてくる。

「そうですね......他にも飛行機とか電車と言った物がありました。」

「ふむ......それはどういった物なのじゃ?」

「飛行機はその名の通り空を飛ぶものですね。動かすことは出来ませんが、仙狐さまの神域に召喚されていたのは飛行機でした。まぁ輸送目的の物ではなく戦闘用の物なので多分一人か二人乗りだと思いますが、輸送用のものなら数百人は乗せて飛べましたね。」

「......相変わらずケイの居た世界は無茶苦茶じゃな......空を飛ぶという事じゃが、かなり速いのかの?」

「そうですね......戦闘用の物は音より速いみたいですね。輸送用の物は音より少し遅い程度だったかと。」

「......意味が分からんのじゃ。音ってどういう意味じゃ?」

ナレアさんだけではなく、馬車の中にいたレギさんやリィリさんもキョトンした表情で俺の方を見る。

「えっと......音にも早さがあるのは御存じですか?」

「......それは噂の広まる速度とかそういう話ではないのよな?」

「はい。今僕達がこうやって会話している声の届く速度、そういう意味です。」

「......喋ると同時に聞こえておるようじゃが。」

ナレアさんが納得できないといった感じの表情で言う。

「距離が近いですからね。音はかなり速いのでこのくらいの距離だと一瞬で届くのですよ。後で実験してみますか?音の速さを目で見る実験方法を知っているので。」

俺はそう提案しながら小学校の時にやった実験を思い出す。
グラウンドに一直線に並んで端で吹いた笛の音が聞こえたら手を上げていくって言う奴だ。
反射神経にも左右されるけど、人数を減らして距離を広くすれば目に見えて分かるだろう。

「ほう。興味深いのう。是非やってみたいのじゃ。」

「じゃぁ、休憩中か今夜の野営の時にでもやりましょうか。レギさん達も手伝ってください。ある程度人数が居ないと結果が分かりにくいので。」

「おう、構わないが......危険はないんだろうな?」

「えぇ、大丈夫です。」

「なら手伝おう。俺も音の速さってもんは気になるからな。」

「私もー、面白そう!」

レギさん達も興味を持ってくれていたみたいだ。
もっと色々勉強していたらそういう知識を教えてあげられたかもしれないけど......残念だ。

「よろしくお願いします。あ、シャル達も手伝ってくれるかな?」

『勿論、お手伝いいたします。』

先日、シャル達と出かけて以降......そっけなかったシャルが以前のように優しくなった。
一度原因を聞こうとしたのだけど......気まずそうに目を逸らされたので深くは追及していない。
まぁ、その内話してくれるだろうと待つことにした。

「ありがとう。多分これで行けると思う。」

音速が元の世界と必ずしも一緒とは限らないだろうけど......そもそも元の世界であっても条件で速度は変わっていたっけ?
まぁ、速さがあること自体が伝わればいいからそこはどうでもいいか。
って、それ自体なら説明でも伝えられるか。

「実験は一応するとして......そう言えば音に速度があること自体は皆さん目撃したことありますよ。」

音を目撃と言っていいのかどうか分からないけど......あ、体験って言えばよかったのか。

「む?どういう事じゃ?」

「雷です。雷って遠くの方で光った後、音が聞こえてくるまで少し間がありますよね?あれは光の速さと音の速さに違いがあるせいなのですよ。雷が落ちた場所が近ければ稲光と雷音は同時に聞こえます。」

「なるほど......確かに雷の光と音には差があって不思議だと思っておったが、音にも動く速度があったせいということか......じゃが、新たに疑問が出てきたのじゃが......光の速さとはどういうことじゃ?」

しまった......そっちに反応しちゃった......いや、ナレアさんであれば当然か。

「えっと......やはり光にも速さが存在します。でもこっちに関しては僕もほとんど知らないので実験はおろか説明も出来ません。」

「む......そうなのかの?」

物凄く残念そうな顔でナレアさんが言う。
......くっ!
俺はどうしてもっと色々と勉強してこなかったんだ!
せめて知っている事だけでも話そう。

「先ほどの雷の件でも分かるように、光は音よりも速いです。それも比べ物にならないくらい。雷が光ってからしばらく経ってから音が聞こえる事って珍しくないですよね?光であればまさに一瞬の距離であっても音が届くまでは時間を要する、音だってかなり速いにもかかわらずです。このことから隔絶した速さの違いが分かります。」

「うぅむ......音に進む速さがあることは雷の話でなんとなく理解できたのじゃが......光については納得できないのじゃ。光に速度があるのであれば、ランプを灯した瞬間に部屋が明るくなるのはおかしいのではないかの?光の届く範囲は決まっておるが、その範囲は一瞬で照らされると思うのじゃが......。」

「そうですね。部屋くらいであれば一瞬で照らされます。光の速さは人間の知覚できる範囲を超えているので......目で見て判断は出来ないと思います。」

「ケイが嘘をつくとは思えぬが......信じがたいのう。そもそもケイの世界の人間はそんなものをどうやって調べたのじゃ?」

「......本当にどうやったのでしょうね......?」

誰が光の速さとか調べたのか知らないけど......元の世界の人達って......魔族の皆さんですら引くくらいの好奇心と探求心なのではないだろうか?
それとも歴史の積み重ね......?
いや、この世界の人達だって少なくとも数千年の歴史はある。
何度か文明が退行するような重大な事件が起こっているとは言え、完全に文明が失われるほどではないはずだ。
俺は元の世界の科学者の方々や歴史の積み重ねに恐ろしいものを感じつつ、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
そしてこの世界に来て何度目になるか分からないけど、勉強をテスト用にしかしてこなかったことを後悔する。
因みにその日の休憩時間に行った音の実験は、ナレアさんを大いに満足させる結果となった。

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