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8章 魔道国
第417話 やはり同類か
しおりを挟む「妾はナレアじゃ。」
「ケイ=セレウスと申します。」
爽やかな笑みを浮かべながら自己紹介をしたキオルさんに俺達は自己紹介を返す。
まぁ、俺はついでみたいなものだけど。
「ナレア様のお噂はかねがね。数々の新しい魔術を生み出し続けている才媛と。ナレア様のお陰で、多くの魔術師が新しい魔道具を生み出す切っ掛けを頂くことが出来まして本当に感謝しております。」
「ほほ、妾の魔術を基礎に発展させていったのは皆の力じゃ。切っ掛けを作る事が出来たのは嬉しく思うが、大したことはしていないのじゃ。」
基礎技術の構築は相当大したことある話だと思うけど......ナレアさんは手をひらひらさせて本当に何でもない事と言う様にしている。
ナレアさんは間違いなく天才タイプだ。
本人は発想力に乏しくて応用力には自信があるって言っていたけど、他の研究者の人達の基礎となる部分を作ったというのなら完全に謙遜だったみたいだね。
俺ナレアさんに勝てそうなことって......母さんの加護による魔法くらいしかないような......。
そもそも、発想力の乏しい人が幻惑魔法をあんなに使いこなせるわけがないよね......。
キオルさんも苦笑しているけど、俺と同じように色々と思う所があるような感じがする。
「それにしても、お主は随分と優秀な魔術師のようじゃな。人族じゃろ?その若さで班長とは大したものじゃ。研究六班と言うと......セッコルが班長をやっていた所じゃったか?奴は研究所を辞めたのかの?」
「いえ、セッコルさんは今副班長をやって下さっています。私も大変お世話になった方ですし班長を続けて欲しかったのですが、少し体調を崩されてしまいまして。」
「む?そうなのかの?」
ナレアさんが心配そうな表情になる。
「あ、すみません。体調を崩したと言っても深刻なものではなく......腰を悪くしまして......長時間座ったまま作業をするのが辛いとのことです。」
「ほほ......それは仕方ないのう。セッコルも年じゃしな。しかし、身体強化や治癒の魔道具を専門に研究しておる研究六班じゃというのに、仕方のない奴じゃ。」
容体を聞いて安心したように笑うナレアさん。
セッコルさんって言う人もナレアさんの昔馴染みのようだ。
それにしても強化と回復か......母さんの魔法みたいだな。
弱体もあれば完璧だけど......魔道具で弱体は難しそうだ......使ったら自分が弱くなっちゃうからな......。
......あ、でも、麻酔の代わりとかに使えそうだな......今度ナレアさんに話してみるか。
「あはは、現班長としては耳が痛いですね。ナレア様に何かいい案はありませんか?」
「ほほ、今回持ち込んだ魔道具はちと役に立ちそうにないのう。そもそも妾は腰痛とは無縁での、まずそれを知る所から学ばねばのう。六班にはいい実験台が居る事じゃし、研究を進めてはどうじゃ?」
「セッコルさんは喜びそうですが......現在は回復よりも強化の方に力を入れて研究しておりまして。」
キオルさんは少し顔を顰める様にして言う。
「それは残念じゃな。いい実験台が居るというのに。」
「全くですね。失敗しました。」
そう言ってナレアさんの中々の外道発現に、爽やかな笑みで同意するキオルさん。
......あれ?
爽やかに笑っているけど......キオルさんも結構マッドでは......そう言えばナレアさんが魔術研究所にはおかしい奴ばっかりって言っていたっけ。
一見まともそうに見えるキオルさんも......やはり......そうなのか......。
まぁ、腰痛で苦しんでいる人を実験台と言ってのけるナレアさんは筆頭だけど......。
俺が若干遠い目で二人を見ていると、物凄い勢いで呼吸する音が聞こえて来た。
どうやらヘッケラン所長が呼吸を思い出したようだね。
十分以上呼吸していなかったのではないだろうか......いや、多分全くしていなかったわけじゃないと思うけど。
というか、今は鼻息を荒くしていてこれはこれで危険な感じがする。
「な、ナレア殿ぉ。あ、ありがとうございましたぁ。お、お?キオル班長、いつの間にぃ?」
「所長が楽しんでいる間にですよ。ところで堪能したのなら是非私にも鑑賞させていただきたいのですが。」
「ふひっ、も、もちろん私は構わないけどねぇ。」
そう言ってヘッケラン所長はナレアさんの方を見る。
「ふむ、それは研究所で公式に発表する物じゃからな。妾は構わぬのじゃ。」
「ありがとうございます。ナレア様。」
そう言ってナレアさんの作った魔道具を手に取り眼鏡に手を添えたキオルさんが、真剣な表情で魔道具を見始める。
それを確認したヘッケラン所長が額に浮かんだ汗を拭きながらナレアさんに話かける。
「ぷふぅ、実に興味深い魔道ですなぁ。初めて見る術式で見ただけではどのような効果を持っている魔道具なのか分かりませんでしたぞぉ。」
「ほほ、流石のヘッケランでも読み取れなかったかの。」
「えぇ......初めて見る術式でしたぁ。それで、それでぇ、一体どのような魔道具なのですかぁ。」
「......これは......音に関する魔道具ではありませんか?」
ヘッケラン所長がナレアさんに問いかけると同時に、キオルさんが魔道具から顔を上げて確認するようにナレアさんに質問する。
「ほう。よく分かったのう。確かにその魔道具は音に関する魔道具じゃ。」
「やはりそうでしたか。今研究六班で研究している魔術が、音を大きくするといった物でして。使用用途は違うようですが、私達の研究成果と似た部分が見受けられました。」
音を大きくする魔道具......拡声器的な感じだろうか?
それともアンプ的な感じかな?
「なるほど。研究六班の研究成果を見せてもらうのも楽しみじゃな。妾の持ち込んだその魔道具は、音を保存することが出来るのじゃ。」
「音を保存ですとぉ!?」
目玉がこぼれんばかりに目を見開いたヘッケラン所長が、キオルさんの手に持っている魔道具を奪い取らんばかりに詰め寄る。
その様子に若干......いや、かなり引いたキオルさんが魔道具をヘッケラン所長に差し出す。
餌を投げ込まれた鯉のように魔道具に飛びついたヘッケラン所長が、自分の目の中に魔道具を突き刺すかの如く近づけて凝視している。
「相変わらず......酷い状態じゃ。」
「いつもこんな感じなのですか?」
「......まぁ、新しい研究成果を見せると大体こんな感じですが、今日はいつも以上ですね。」
ナレアさんとキオルさんにとってはよくあることのようだけど......正直かなりきも......怖い。
未だにむほーっと奇声を上げているヘッケラン所長を尻目に、ナレアさんとキオルさんは話を続ける。
「しかし......なるほど......音の保存......面白いですね。音を取り込む、魔道具から音を出すという部分が我々の開発している魔術に似ていたので、そうではないかと思ったのですが......音を保存......凄いです。聞いていた以上の魔術師のようですね。」
「ほほ、妾一人で開発したものではないのじゃ。共同研究者がおる。」
「ななな、なんですとぉ!?ナレア殿に共同研究者ぁ!?ま、まさかぁ......!?」
ナレアさんの発言に魔道具から目を離したヘッケラン所長が、俺の事を驚愕の眼差しで見つめてくる。
「......いや......僕ではありませんよ。僕は素人です。」
「むほっ。では一体どこにぃ......。」
「共同研究者はここには来ておらぬ。その魔術の開発者の名前は妾とそやつの名前、アース=ケルトンの名を乗せておいて欲しいのじゃ。」
「アース=ケルトン......初めて聞くなですなぁ......何処の国の研究機関の人ですかぁ?」
「無所属じゃ。旅をしている時に偶々知り合ってな。今は東方に居る。」
「むぅ......是非とも話をしてみたかったですなぁ。」
ヘッケラン所長が残念そうにしているけど......なんとなく、アースさんとヘッケラン所長は結構気が合いそうな気がするな。
「確かに、機会があれば私も是非お話を聞きたいですね。」
「うむ、機会があれば紹介するのじゃ。」
ナレアさんが軽く笑って肩をすくめる。
ヘッケラン所長とキオルさんは非常に残念そうだったけど、東方にいるとなっては簡単には会えないから諦めたようだ。
アースさんグラニダに向かってからもうかなり経っているけど......未だに到着してないみたいなんだよね......元気なのは偶に連絡をしているから分かっているけど......大丈夫かな?
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