416 / 528
8章 魔道国
第415話 魔術研究所といふ所
しおりを挟む「魔術研究所と檻が関係しているということですか......?」
ナレアさんの幻惑魔法によって周囲を覆われた事を確認した俺はナレアさんに問いかける。
「何度も言っておることじゃが、魔道国は魔術において大陸の最高峰じゃ。これは驕りではなく純然たる事実じゃ。」
ナレアさんが真剣な面持ちで歩きながら言う。
但し、手は繋いだままなのであまり格好いいとは言い難い。
いや、今は茶化すところじゃない。
真面目に聞こう。
一瞬ナレアさんから呆れたような目で見られた後、繋いでいた手をぺいっと振り払われた俺は真剣な表情で頷く。
「......勿論、個人として魔道国の研究者以上の人材が居ないとは考えておらぬ。多くの人間がそれぞれの場所で研鑽を重ねておる。じゃが、研究機関というのは人も大事じゃが環境も大事じゃ。切磋琢磨する同僚。機材や資材、先人たちの研究成果、そして資金。これらは個人ではどうすることも出来ない物であることが多いのじゃ。」
それはそうだろう。
国と個人では規模が違い過ぎる。
特に動かせる資金が違い過ぎるのだ。
ナレアさんですら、俺と会って魔晶石を潤沢に使えるようになるまで資金繰りに苦労していたと以前言っていた。
国の研究機関で湯水のごとく......かどうかは知らないけど、少なくとも個人に比べれば潤沢な資金で研究できる環境と、お金を稼ぎながらする研究では違いがあって当たり前だ。
「そしてどんな天才であっても与えられた時間は有限じゃ。分割して作業を行うことでより先に進むことが出来る。余程の運と実力、根性があれば一人で偉業を成すことも可能じゃろうが、その難易度を可能な限り下げるのが研究所という機関じゃ。」
俺は黙ったままナレアさんの話に頷く。
ここまではただの研究機関の説明、本題はこれからだ。
「当然、魔道国以外の国にも魔術の研究所はある。魔道国としても独自の研究機関が他所に生まれることは歓迎しておるからの、要請があれば立ち上げに協力したりもした。まぁ、流石に研究機関の立ち上げに協力して欲しいと他国に言われたことは一度しかないが......。」
「一度だけでもあることが驚きです。」
流石に相手の国は胸襟を開きすぎじゃないだろうか?
いや、俺が気にすることじゃないけどさ。
「ほほ。まぁ、妾達がそもそも他国の人間を研究所に招き入れ、それを持ち帰ることを咎めもしていなかったからの。お互い様、と向こうは思ったのじゃろう。まぁ、それは良い。問題は、どの国の研究機関であっても、それなりに妾達は規模を把握しておるという事じゃ。交流が少なからずあるからのう。そしてその中で魔道国の研究機関以上の規模を持つ研究機関は存在せぬ。」
「......つまり、以前も話していた......檻の技術力の高さが不自然過ぎるという話ですよね?」
「そうじゃ。そもそもどこぞの国であれ、あれ程の魔道具を作り出せたのなら間違いなく頭角を露にしておる。秘匿しておく理由がないのじゃ。」
「暗躍に使っているのでは?」
少なくとも檻は暗躍しまくっているし、檻が使っていた魔道具はそれに非常に適しているよね?
「普通、結果が欲しいから暗躍するのじゃぞ?どこぞの国が豊かになったとか、戦争に勝利したとか......ついぞ聞いたことがないのじゃ。そもそも東方以外で戦争は起きておらぬしの。」
「では、東方にある国が檻なのでは?」
「技術格差があり過ぎなのじゃ。檻が使っているような魔道具を作り出せる機関を保有しておるなら、東方は既にその国が統一しておるじゃろ。」
「......では西方の国でこれから発表するとか?」
「少なくとも龍王国で魔物を操る実験をしたり、聖域を侵そうとしたのじゃぞ?特に聖域を侵そうとした国を龍王国が許すはずがないのじゃ。しかもどうやってか知ったかは分からぬが、王都の傍にある聖域と言われている山ではなく、神殿を狙ったのじゃ。その情報を知っておるというだけでも全面戦争ものじゃな。」
そうか......何かしら檻とつながる様な技術が発表されれば龍王国が黙っていないか......。
「そう考えると国ぐるみの組織と言うのは考えにくくなりますね......。」
「うむ。そうなると公的機関に属さない組織という事になるが......。」
「資金の問題が出てくるわけですね。」
「ただの犯罪組織が、あれ程の技術力で開発するのは不可能じゃ。主に金銭面じゃが......そんな巨大犯罪組織、各国が黙っておらぬ。」
「そうなると......複数の組織の集合体のような感じでしょうか?」
「組織としては、恐らくそうじゃと考えておる。しかし研究機関としては一極集中させておると思うのじゃ。」
元の世界と違って電話も無ければメールもないし......離れていては研究成果の共有どころか軽い相談すら物理的な距離によってスムーズに行うことは出来ないだろう。
そう考えれば研究者が集まって研究している方が間違いなくいい。
そして資金、環境、人材、技術......全てが揃っているのが......。
「魔道国王都にある魔術研究所と言う訳じゃ。」
「檻の研究機関と繋がりがある......もしくは研究機関そのものが檻と睨んでいるのですか?」
「可能性は零ではないが......流石に研究所自体が檻と関係を持っておるとは言わないのじゃ。設立したのは妾より前の魔王じゃが......妾も関わり合いが薄いわけでもない。あそこの研究員は......魔族であれ人族であれ......良くも悪くも変人ばかりじゃ。興味本位で人に迷惑をかけることはありそうじゃが......檻のやったようなやり方はせぬのじゃ。」
それは安心できる情報なのか全く安心できない情報なのか微妙な感じですが......ナレアさんの研究者に対する信頼のようなものは感じる。
「まぁ、清廉潔白とは程遠い奴等じゃが......組織ぐるみであんな大それたことは出来ぬじゃろう。関わっておったとしても数人......若しくは元関係者あたりじゃろうな。」
「そんな少人数でいいのですか?」
先程からの話だと、人数は大事って感じだったけど......。
「環境さえあればいいのじゃ。魔術は複数の術式を組み合わせて一つのものを作り上げるからの。手を貸してもらうのに、自分の作りたい魔術を一から十まで説明する必要は無いのじゃ。」
「なるほど......じゃぁ知らない間に檻で使われている魔道具の開発に手を貸している可能性があるってことですか。でもそれなら魔道国ではなく、他国の研究機関でもいいのではないですか?」
「妾は一番怪しいのはここじゃと思っておる。一番の要因は技術力の高さじゃが......他国の研究機関に比べて特に優秀な変わり者が多いし、気づかぬうちに片棒を担がされておるとか物凄くありそうじゃ。まぁ、勿論......檻の事だけが目当てで行くわけでは無いがの。」
「そう言えば、研究成果の公表をするとかでしたっけ?」
「うむ。それに今どんな研究をしておるかも気になるからの。」
「なるほど......。」
「ファラが王都に来たら魔術研究所は念入りに調べて貰うが......今日の所は気楽にしておるのじゃ。」
「これを聞いた後に気楽にしろと言われても難しいのですが......。」
「ほほ、連日大変じゃな。」
そう言ってナレアさんが俺の手を取る。
触られたことで手が痛かったことを思い出し、じんじんとした痛みがぶり返してきた。
ナレアさんがそっと青あざに手を添える。
「少しやり過ぎたかのう?」
「......まぁ、失礼なことを考えたのは僕ですからね......まぁ、若干......考えただけにしては、と思わなくもないかなぁとか思ったりしますが。」
冷ややかな笑みを浮かべながらナレアさんがこちらを見つめてくる。
もういつもの事なので一々気にしなくなっている自分が怖いですが......普通に考えていることに正確に返事をしますよね?
若干、無意識の内に念話が出来ているんじゃないかと疑っているのですが......。
「まぁ......誤魔化そうとした分の罰だと思っています。」
「ほほ、反省は大事じゃな。」
そう言ったナレアさんが青あざになっている手の甲に口づけをする。
驚きと恥ずかしさから辺りを見渡したけど......よく考えたらナレアさんの幻惑魔法のお陰で俺達の事は色々と誤魔化されているのか。
俺が挙動不審になっていると、ナレアさんが俺から手を持ったまま顔を上げる。
青あざは綺麗に無くなっている......回復魔法を掛けてくれたようだ。
「......そこは、妾のキスで治ったと考えるべきではないかの?」
「......なんか、お礼を言うのもおかしい気がしますが......ありがとうございます。」
俺はナレアさんの手を握り直すと、どこか釈然としないながらもお礼を言った。
2
お気に入りに追加
1,717
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる