394 / 528
8章 魔道国
第393話 天を突くはな
しおりを挟む河を流れるのは海水ではないので、汲み上げた水を使ってレギさん達は体を流している。
衝立の向こうではリィリさん達も体を流しているが......ナレアさんの幻惑魔法によって防御は完璧なはずだ。
しかし、同じく甲板にいる船員さん達は気もそぞろと言った感じがする。
まぁ、リィリさんは服の上から分かるほどの持ち主ですし......ナレアさんは......まぁ、二人とも凄く可愛いしね、気持ちは分かるけど......。
ぼそぼそと大きい方が、いや小さい方がという声が聞こえるたびに、なんか河に叩き込んでやりたくなる。
「二人ともすんごい可愛いから仕方ないっスよ。」
俺の横では、先程船内で会った時よりも明らかにぼろぼろになっているクルストさんが笑っている。
誰にやられたかは聞くまでも無いけど......クルストさんは何故同じことを繰り返すのだろうか?
「まぁ、そうかもしれませんが。」
「っていうか、ケイがそんなにイライラしているのは珍しいっスねー。もしかして何かあったっスか?リィリさんはあり得ないっスから、お相手はナレアさんっスね。死ねばいいっス。」
「自然な流れで呪詛を吐かないでください。特に何もないですよ。」
......何もなかったとも言い切れないだろうか?
いや、保留にされているのだからあったとも言い切れないような......。
「その顔は何かあったと語っているっス。とっとと何をしたか吐くっス!そして河に飛び込んで沈めっス!」
「龍王国の時もそうでしたが......殺意が激し過ぎます。もう少し隠してください。」
俺がため息をつきながらクルストさんに言うも、全く聞こえていないようでクルストさんは話を続ける。
「何したんスか?何やっちゃったんスか?チューしたっスか?チューしちゃったんスか?ホントぶちゅっと潰れて死んで欲しいっス!」
「勝手に盛り上がって行かないでください。っていうかそろそろいい加減にしてくれないと、イラっとしてきたんで手が出そうですよ?」
「お久しぶりっス、ケイ。元気にしてたっスか?あ、さっきは、ありがとうっス。」
俺の本気の言葉を聞いたクルストさんが白々しい笑みを浮かべながらお礼を言ってくる。
何も言わずに一発入れておいた方が良かっただろうか?
「落ち着くっス!争いは何も生まないっス!これからは寛容の時代っス!頭に来たからと言って、すぐに手が出る野蛮人の頭頂部が妙にすっきりしているのは時代に逆らったせいっス!」
この人はレギさんに殺されたいのだろうか?
若しくは数分前の出来事がすっかり抜け落ちている?
俺が穏やかな空に目を向けると同時に、隣から物凄く硬いものがぶつかるような音がする。
俺が視線を戻すと頭を押さえて蹲るクルストさんとその後ろに立っているレギさんが見えた。
「久しぶりだったからな、足りなかったか?言ってくれればもっと丁寧にやったんだがな?」
「だ、大丈夫っス。よく思い出したっス。人の髪型に文句をつけるような奴は人でなしっス。」
「あぁ、そうだ。俺は剃っているだけだが、気にする奴は非常に気にするからな。あまり声を大にして言わないことだ。」
レギさんはまだ剃っているって言い張るのですね......。
「......ケイも何か言いたげだなぁ?」
「いえ、とんでもない。寧ろクルストさんがレギさんとまだ話足りないって感じだと思いますよ。」
「ちょっ!」
何やらクルストさんが悲鳴を上げた気がするが、多分気のせいだ。
恐らく久しぶりにレギさんと会えてテンションが上がっているのだろう。
邪魔しない様に俺は大人しくしておくことにする。
「......まぁいいか。それよりクルスト、珍しい所で会ったな。仕事中か?」
「そっスよ。配達中っス。目指すは王都っスけど、のんびり船旅でもと思ったのが運の尽きっス。剣は落とすは、魔物に襲われて死にかけるわ、挙句の果てにはボコボコにされた上、なんか微妙な感情を見せつけられるわ......さんざんっス。」
死にかけている感じではなかったような気もするけど......それよりもボコボコにされた方が辛かったようだね。
それにしてもクルストさんの活動範囲って滅茶苦茶広いな。
「龍王国からここまで直接来たのか?」
「いや?違うっスよ。道中色々と仕事しながら来たっス。都市国家のほうから北の帝国の方も行ってきたっス。あの辺りをぐるっと回って......それから今に至るって感じっすね。」
「......いくら何でも早すぎねぇか?龍王国からここまで来るだけでも半年以上は間違いなくかかる。天候にも左右されるし、一年程度は見た方がいいだろう。俺達が龍王国で別れた時期から考えると、最短距離で真っ直ぐ来れば来れるだろうが、それだけ寄り道していたら絶対に無理だろ。」
「んっふっふ。気づいちゃったっスか?俺の圧倒的な移動速度に、気づいちまったっスか!?」
何やらクルストさんのテンションが上がっていくが、寧ろそこを聞いて欲しいと言った感じの話しぶりだったしな。
俺がドヤ顔をしているクルストさんを生暖かい目で見ていると、汚れを落としてさっぱりした様子のナレアさんとリィリさんが近づいて来た。
「ふぅ、とりあえず人心地ついたよ。匂いは取れたと思うけど......ちょっとまだ甲板の掃除が途中だから分かんないや。」
「いつもの香油より香りの強めの物を街で買っておいて正解じゃったな。まぁ、まさか出航してすぐ必要になるとは思わなかったがのう。」
「そうだねぇ。あ、クルスト君久しぶりだね!元気だった?」
「お久しぶりです!リィリさん、相変わらずお美しいっス!それにナレアさんも!またお会いできて光栄っス!」
「久しぶりじゃな。息災......なのじゃろうか?」
クルストさんの様子を見てナレアさんが若干口籠る。
まぁ、現時点で息災そうではないもんな......色々な所がぼろぼろだし。
「俺は元気っス!」
確かに元気よく挨拶するクルストさんは問題無さそうに見える。
どう見てもぼろぼろだけど本人が言うのだから間違いない。
「ところで何の話をしていたの?なんかクルスト君が随分自慢げだったけど。」
「あぁ、やけにクルストの移動がやけに早いなって話をな。」
「ふむ......龍王国で別れた時期から考えれば多少早いと言った程度ではないかの?」
「いや、それなのですが、話によるとかなり寄り道をしているみたいなのですよ。」
俺とレギさんでナレアさん達に今までの話をかいつまんで伝える。
「あぁ、都市国家の方を回り、帝国、その周辺を回ってからここに来たそうだ。」
レギさんが説明するとクルストさんの鼻が伸びていく。
完全に天狗になって......いや、鼻ってホントに伸びるんだな。
実際は顎が上向きになっているだけで伸びてはいないと思うけど......今や天を突かんばかりにクルストさんの鼻は上を向いているな。
「ほぅ、それは確かに、随分といい移動手段を持っておるようじゃな。」
「いやーまぁ、それほどでもあるっス!移動速度なら誰にも負けないっスね!」
クルストさんが天に向かって笑う。
それを見たナレアさんとリィリさんがにやっと笑う。
「ふむ、なるほど......では妾達と勝負するかの?」
「え?勝負っスか?」
......なんかデジャヴが。
「あー面白そうだねー。クルスト君はこのまま船でどこに向かうの?」
「魔道国の王都っスよ。船旅は王都近くの港までっスけど。」
「じゃぁ次の街で一回船を降りて、その次の街まで先回りしない?移動速度に自信があるなら船を先回り出来るよね?」
「問題ないっス。」
「ではその次の街まで勝負するのじゃ。港に先に着いた方が勝者でどうじゃ?」
「いいっスけど......多分俺が勝っちゃうっスよ?」
相当クルストさんは自信があるみたいだな。
「ふふ、私達も結構自信あるよー?じゃぁクルスト君が勝ったら私とナレアちゃん、それとクルスト君の三人だけでお酒を呑みに出かけようか。」
「乗ったっス!やったっス!最高っス!」
......。
何か勝負の話が勝手に決まったようだけど......何故か負けるわけにはいかない様だ。
我が世の春と言った感じで喜ぶクルストさんを見て、全力で阻止することを決意した。
2
お気に入りに追加
1,717
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる