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8章 魔道国
第389話 川下り
しおりを挟む水門の街と呼ばれる街で俺達は思い思いに過ごしていた。
レギさんは仕事に明け暮れて非常にいい顔に、リィリさんは食べ歩きを全力で楽しみ非常にいい顔に。
ナレアさんは偶に出かけたりしていたが、基本的に宿で魔道具の研究をしていた。
俺はシャル達とのんびり過ごしたり、レギさんやリィリさんに付き合ったり......偶にナレアさんと出かけたりしていた。
支流に取り付けられた水門の見学や、レギさんが行きたがっていた浄水設備の見学にも行ってきた。
ナレアさんが基本的にそういった施設への見学許可を取り付けてくれていたのだが、なんか微妙に疲れた様子だったのが気になった。
いざ見学が始まると、とても楽しそうにしていたけど。
ただ、施設の見学をしていた時、職員の人とかが俺達についていなかったのは良かったのだろうか?
まぁ、他の国から留学に来て勉強している人が多いから、適当に開放しているのかもしれないけど......少し不用心じゃなかろうか?
まぁ、身内だけの方が気が楽だったからいいけどね。
街がかなりの大きさだけあったこともあって、リィリさんの食べ歩きはかなり時間が掛かった。
俺達も結構付き合ったのだが川魚の料理が非常に美味しかった......けど、店舗数が多すぎ。
いや、魚以外にも美味しい店は沢山あったけど、魚率が高すぎた。
リィリさんはどのお店でも非常に幸せそうだったけど、レギさんなんかは露骨に他の物を食べたいって顔をしていた。
まぁ、リィリさんもその辺りに気付いて、毎回食べ歩きに誘うことは無くなったのだけど。
それに魚以外のお店に行く時は皆に声を掛けてくれていた。
リィリさんが誘ってくれるお店はいつも美味しいので基本的に大歓迎だ。
ただ連日の魚の猛攻がきつかっただけだ。
「何を死んだ魚のような目で街を見ておるのじゃ?」
「......死んだ魚の事を考えていただけですよ。」
俺は遠ざかっていく街からナレアさんへと視線を戻す。
俺達は今、水門の街を出港した船の上にいる。
船の上だ。
西に向かって河を下っていく船で、旅客船とでもいうのだろうか?
結構乗客も多く、船室もそれぞれに割り当てられている。
まぁ、流石に個室ではないけど、四人部屋なので俺達で一部屋使えるから気は楽だ。
「ほほ、次かその次の街に行けば川魚以外の料理も増えていくじゃろう。まぁ、港町には違いないがの。」
「それは楽しみです。」
「二つ目の街は大河の南側と北側を繋ぐ街じゃ。まぁ、河を下っていけば他にもあるが、上流の方ではそこが一番の街じゃな。」
「次の街までは二日も掛からないのですよね?」
「うむ。夜中でも動き続けるからのう。」
スピードはそんなに速くないけど馬車と違ってずっと動き続けているから移動距離も長くなる。
後はやっぱり輸送量が凄い。
この船には俺達以外にも結構な人数の客が乗っているし、街の傍にあった農耕地で収穫した作物なんかも乗せているらしいし、やはり水運って言うのは強いみたいだね。
俺は南側の川岸に視線を向ける。
土手が作られていてその向こう側は見えないけど......グルフとファラ、そしてマナスの分体が土手を挟んで反対側を走っているはずだ。
ファラ達には、仙狐様から預かった魔道具を持って移動してもらっている。
情報収集の為にファラが先行したいと言うので、陸路で調べて貰いながら移動してもらうことにしたのだ。
まぁ、こちらはこちらで少し船旅をしてみたいっていう気持ちもあったのだけど......ファラ達には本当にお世話になります。
次の街が船で二日かからない距離だから、グルフなら半日もあれば余裕で辿り着くだろう。
合流地点はその街ではなく、ファラは川沿いを一気に移動して情報を先回りして集めておいてくれるそうだ。
魔道国に来るのは初めてなので、ファラは魔道国に向かう道中も先行したがっていたのだが、最初の街までは一緒に過ごしてもらったのだ。
龍王国に向かった時は、ファラが張り切って先行してくれたおかげで色々と情報を集めることは出来たけど、合流するまでかなり時間が掛かったのが微妙に気になったのだ。
幸い龍王国の時と違って魔道国について詳しいナレアさんが一緒にいるので、道中の街の情報はある程度問題ない。
そういうわけで俺達が出発するその日まで、ファラには一緒にのんびり過ごしてもらうことにしたのだ。
まぁ、水門の街でも部下を増やして町全体の情報を具に集めていたから、俺の言うのんびりとは少し違う気もしたけど......ファラもちょっとレギさんに近い気質があるよね?
仕事こそ生活的な......。
まぁ、お世話になっている......というか物凄く頼っているから非常に申し訳なくはあるけど......。
俺はなんとなく視線を空へと向ける。
そこにはかなり大きな鳥が空をゆっくりと飛んでいた。
「随分と大きな鳥ですね。」
「ん?あぁ、あれは多分魔物じゃろ。」
「......あれ、魔物なのですか?大丈夫ですか?」
「まぁ、珍しい物でもないのじゃ。恐らく、あぁして河の魚でも狙っておるのじゃろう。」
大きな鳥の魔物が俺達の頭上を旋回している。
船員さん達も気づいてはいるようだけど、特に慌てている様子もないしナレアさんの言う様に問題ないのだろう。
「そういえば、鳥の魔物って初めて見る気がします。」
「ふむ?まぁ遠目では普通の鳥と区別がつかぬしのう。気づいていないだけで少なくはないと思うのじゃ。」
「あぁ、言われてみればそうかもしれませんね。」
鳥の魔物だからと言って全部が大型の鳥ってわけでもないだろうしね。
俺が普通の鳥だと思っていた鳥も魔物だった可能性はある。
「あんな風に旋回しながら魚が見えるのですね。」
「ほほ、どうやって見ておるのかのう?」
そのまま二人でのんびりと鳥の魔物を眺めていると、動きが変わった鳥が船の進行方向目掛けて一気に急降下してくる。
「お、獲物を見つけたみたいですね。」
「そのようじゃな......しかし、思っていたよりも大きいのう。」
「そうですね。人でも掴んで飛べそうな大きさです。」
かなり高い位置を飛んでいたみたいで、降りてくるに従ってその体の大きさが分かって来た。
まぁ、でも元の世界でもコンドルは羽を広げたら三メートルくらいあるらしいしな。
この世界なら、物理法則を色々と無視した大きさの鳥が優雅に飛んでいてもおかしくはない。
それにしても強そうな魔物だね。
翼を広げたその大きさもさることながら、姿が格好いい。
猛禽類って格好いいよね......。
船の十数メートル前方に突っ込んだ鳥は、水の中にいる獲物にその爪を突き立てようとして......逆に水の中から飛び出した魚に食いつかれて水の中へと引きずり込まれた。
「「......は?」」
俺とナレアさんが同時に呆けたような声を出してしまう。
いや......それはまぁ......魚だって襲われるだけじゃないと思うけど......物凄い物を見てしまったような......。
「......どうやら魚の魔物だったようじゃな。」
「びっくりしました。」
どうやらびっくりしたのは俺達だけだったわけではなく、同じく甲板にいた乗客はおろか船員さんたちすら唖然とした表情で水面を見ている。
「魚もただ獲られるだけではないってことでしょうけど......。」
なんか、魚を捕りに川に近づいた鳥を潜んでいたワニが食べてしまう衝撃映像が元の世界であったけど......それ以上のインパクトがあったな。
あっちはワニを狙ったわけじゃないだろうけど......こっちは狙った獲物に逆にやられた感じだからな......。
あの鳥の魔物が力量差を分かっていなかっただけかもしれないけど......まぁ、野生としてそれは致命的か。
しかし......自然界は厳しいな......まぁ、どちらも生きるために襲ったのだから仕方ないとは思うけどね......。
そんなことを考えていたら、大きな衝撃が俺達の乗っている船を襲った。
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