上 下
385 / 528
8章 魔道国

第384話 物騒な世界

しおりを挟む


「うわーこれは凄いね。」

「えぇ......予想以上です。」

俺とリィリさんが目の前の光景に唖然としながら呟く。
先日魔道国の国境を越えた俺達は、ナレアさんの先導に従い北の大河の上流にある街へと向かっていた。
街まであと少しといったところで小高い丘を登ったのだが、丘の向こうに広がっていたのは広大な穀倉地帯......そしてその先にあるのは今まで見た事無いくらいの巨大な規模の街。
そして予想をはるかに上回る巨大な河だった。
河には帆船がいくつも浮いており貿易が盛んな様子が見て取れる。
リィリさんがどれの事を凄いと言ったのかは分からないけど......まぁおそらく目に映った物全てだろう。
ナレアさんはこの街の事を知っていたみたいだし、レギさんは大河や魔道国の王都を知っているから左程驚いた様子は感じられないけど......王都はもっとすごいのだろうか?
この街はこの辺では最大の街らしいけど......正直この街だけで都市国家の三、四倍くらいの人口が居そうな広さだ。

「ほほ、驚いてくれたようで何よりじゃ。正直ここに来るまでは村ばかりじゃったからな。ここで初めて魔道国らしいところを見せられたかの?」

「いや、道中の村も魔道国の外の村よりかなり発展していましたよ?魔道具の明かりが夜道を照らしている村なんて初めて見ましたし。」

「ふむ、確かにあれはあれで魔道国らしい風景かもしれぬのう。」

そう......魔道国に入って最初に立ち寄った村には、道のわきに街灯が立っていたのだ。
街じゃないから街灯ではないのだろうかとか、しょうもないことを考えながら見ていたけど......そんなに新しい物ではないようで、しっかりと長い年月そこにあったのだろうなと言った感じだった。
グラニダの領都や都市国家の方でもそこまで街灯の数は多くなく、龍王国の王都でさえ、夜に出歩くのは自前の明かりが無いと危険だろうと言った感じなのに......魔道国は地方の村にさえ街灯が設置されているのだ。
これだけ魔道具が普及しているのであれば、確かに国主導で留学させて魔術を学んでもらいたいというのも頷ける話だ。
でも魔道具を広く普及させるには大量の魔晶石が絶対不可欠だしな......魔晶石の供給はダンジョン次第だ。
魔道国はかなり大きいみたいだからダンジョンも多いのかもしれないけど......他の国は自国での安定供給は難しそうだな。

「そろそろいくか?」

俺がいつも通り意識を別の場所に飛ばしていると、レギさんから声が掛かった。

「そうだねー色々楽しみだな。」

「とりあえず宿を探さねばのう、妾もあまり詳しくないのでな。」

「そうなんだ?じゃぁ街に着いたらそこからだね。」

街に向かって歩き出したナレアさん達の後を着いて行きながら、レギさんと会話を続ける。
前を歩く二人は二人で盛り上がっているしね。

「どのくらい滞在するつもりだ?」

「特に決めてはいませんけど......レギさんはギルドに行きますよね?」

「まぁ、そうだな。都市国家の方はもう完全にあの劇が広がっていてロクに仕事にならなかったしな。」

「小国家を抜けた時はあまり大きな街に寄りませんでしたしね。冒険者ギルドってある程度の規模の街にはあるのかと思っていましたけど......小国家の方には少ないのですかね?」

「あぁ。都市国家は一応街一つが独立しているからな。各街にギルドはあったが......小国家だとギルドの方も維持が大変みたいでな、主要な街にしかギルドはないんだ。」

なるほど......職員の人件費も馬鹿にならないだろうしな......。

「そういった地方は、離れた街から冒険者が派遣されるわけだが......対応が迅速とはならないからな......魔物が暴れたりすると被害が大きくなる傾向にあるんだ。」

「情報のやり取りが遅くなりがちですからね......そう言えば、僕が居た世界では、鳥を使って手紙を運ばせたりしていたらしいですよ?」

「鳥を......?大丈夫なのか?それ。」

「うーん、僕も詳しくは知りませんが、鳥の帰巣本能を使ったやり方だそうですけど......。」

「へぇ......色々考えるものだな。俺達でも出来るか?」

「どうでしょう......?魔物もいますし......道中で襲われて手紙を紛失する可能性は高そうですよね......。」

「いっそ魔物を調教して運ばせるのがいいかもな。」

魔物か......確かに賢い魔物は少なくないし、普通の鳥より頑丈だ。
手紙を運ばせるならその方が良いかもしれない。

「魔物って調教できるのですか?」

「あぁ。ほら、ワイアード卿が言っていただろ?魔物を軍で利用している国があるって。そういった魔物の調教を生業にしている奴らもいるんだ。まぁ、相当危険らしいが。」

「そうですよね......。」

軍用の魔物なんて基本的に戦闘で使われる類のものだろう。
荷運びや移動なんかは牛や馬をつかえばいいのだからね。
しかし、戦わせながら自軍は襲わないようにしないといけないし......どんな風に教え込ませるのか......。

「しかし、そう考えると......鳥系の魔物を調教して手紙を運ばせたりってのは、実用化されていてもおかしくないな。」

「なるほど......確かにそうですね。」

「一般人には無理な方法だろうがな。魔物の調教師なんて国に囲われるのが当然だろうし。」

「まぁ、そうでしょうねぇ......。」

魔物の調教なんて技術は他所の国に伝わっても何一つ良いことはないだろう。
いや、魔物の調教に限らず全ての技術は、他所の国に伝わっても自国の利益を損失するだけだ。
そう考えると、多くの留学生を受け入れ、自国の技術を他所の国に提供している魔道国はかなり異質な存在のように思う。
魔道国のトップは魔王らしいけど......恐ろし気な名前の響きに反して、その治世は他国のかなり先を進んでいるようだ。

「しかし、ナレアやアースが作っている遠距離通信用の魔道具が一般に普及したら、そういった地方の被害も減らせるだろうな。」

「派遣までの時間は半分以下で済むようになりますからね。ですが、そう言った利点もある反面、国家間での情報戦の激しさも一気に増すと思います。」

「国家間の戦いか......。」

「僕らの世界では遠距離で戦うのが基本ですからね......情報をかき集めて一気に叩くって感じです。」

「遠距離?弓はこっちの戦いでも使うぞ?」

「もっとずっと遠距離です。そうですね......ここからグラニダの領都を狙う感じでしょうか。」

「グラニダって......いや、流石に言いすぎだろ。ここから何日かかる距離だ?」

ここからグラニダまで......最短距離で行ったとして......何日くらいだろう?

「恐らく問題ないでしょうね。しかもその一撃で領都を消し飛ばせると思います。」

大陸間弾道ミサイルで狙うには寧ろ近すぎるくらいだと思う。
まぁ、どのくらい遠くまで狙えるのかよく知らないけど、大陸間弾道っていうくらいだから海を越えて届くのでしょう。
まぁ領都を一撃で消し飛ばせるかどうかは......多分問題ない筈だ。

「......冗談だろ?」

「残念ですが本気です。僕が元居た世界の戦争では、個人の武勇は何の役にも立ちません。個人では防ぐことはおろか、逃げる事すら出来ない速度と威力で彼方から攻撃が飛来してきますから......。」

「......恐ろしい世界だ。」

「この世界でも切っ掛けが生まれれば、百年程度でそんな時代が来てもおかしくはないですよ。ナレアさんはそういった技術の加速を危惧して、遠距離通信用の魔道具の扱いを慎重にしているって話をしていましたしね。」

「想像もつかねぇが......。」

「基本的な考え方は弓と一緒だと思いますよ?自分が傷つかない距離から一方的に相手を攻撃したいってことです。」

「一方的にって言ったって限度があるだろ......。」

「あはは、まぁ弓と同じであの世界では同じ射程の武器を相手も持っているわけで......撃てば撃ち返される、だから撃たない。そんな微妙な均衡で成り立つ世界です。」

「いや......破綻しているように感じるんだが......その理屈でケイのいた世界では戦争が無くなったのか?」

「普通にやり合ってますね。」

「意味が分からねぇ......。」

「僕もそう思います。」

......ところでなんで新しい街にこれから行こうって時にこんな話しているのだっけ?
俺とレギさんはナレアさん達の後ろを歩きながら物騒な話を続けた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...