365 / 528
7章 西への旅路
第364話 英才教育
しおりを挟むゴブリンはワイアードさんが引き取り面倒を見ていくことになった。
即断即決のように見えたけど、ゴブリンをどう扱うかは大いに悩んだはずだ。
これからワイアードさんとゴブリンは色々と大変な事があると思うけど......ワイアードさんだったら何とかしてくれる気がする。
......無責任だろうか?
「ナレアさんは、ワイアードさんがこうするって分かっていたのですか?」
「まぁ、ハヌエラならほぼ間違いなくこうするとは思っておったのじゃ。龍王国やヘネイの為ならばその命を惜しまずに働く男じゃが、関わりをもった者を見捨てることは出来ぬからのう。奴が悩んでおったのは龍王国を混乱させないかという所じゃが......あの者と話して心根を感じ、自分の力で処理しきれると判断したのじゃろうな。勿論平坦な道ではないが、あやつなら問題なかろう。」
そう言ってナレアさんは笑う。
「あの子はすごく嬉しそうだね。ワイアードさんも楽しそうだし、大丈夫そうだね。」
「うむ、あやつに任せておけば悪いようにはすまい。」
リィリさんとナレアさんが少し眩しそうにワイアードさん、そしてゴブリンの事を見ている。
やはりナレアさんのワイアードさんへの信頼は相当なものだね。
決して簡単な問題では無いにも拘らず、軽い様子でワイアードさんなら問題ないと言ってのけるのだから。
貴族や国のあれこれって言うのは俺如きでは欠片も想像できないけれど......恐らくそう言った人達と付き合いのあるナレアさんであれば正確に把握できていると思うが......その上で断言だ、俺の適当な感じの信頼とは訳が違う。
「今後は従者として扱うからそのつもりでいる様に。言葉遣いや礼儀作法に関しては勉強していこう。」
「わかった。がんばる。」
「まずは......そうだな......。」
俺達が今後の話をしている二人を見ていると会話がまた盛り上がり始めた。
しかし、ワイアードさんの傍に控えていたヘイズモットさんが一言告げると、ワイアードさんは苦笑しながら謝る。
「いや、そうだな。話は向こうですればいいか......では、私達の野営地に案内したいのだが......その前に、これから人の世界で生きていく以上、名前が必要だな。」
......意地でもここで話すつもりだろうか......?
一歩も歩かずにまた違う話題を......あ、ヘイズモットさんがため息をついている。
「......すまない、歩きながら話そう。何か希望の名前はあるかい?」
「なまえ、ない。あなた、なまえ、なに?」
二人は横に並び話しながら森を進んでいく。
「あぁ、先程は緊張でそれどころではなかったか。改めて、私はハヌエラ=ワイアードだ。私の従者である君はハヌエラと呼んでくれ。」
最初に会った時に自己紹介はしていたけど、どうやらゴブリンは緊張で覚えていなかったようだね。
まぁ、仕方ないと思うけど。
「わかった、はぬえら。なまえ、はぬえら、ほしい。」
「ふむ、私に名前を付けて欲しいと......。」
名付けか......重大な役目だよね......俺はいつも一生懸命考えて付けているのだけど......何故か不評なんだよな。
「名前かぁ。あー残念だなぁ、またケイ君が名前をつけると思っていたのに。」
「そうじゃなぁ。折角賭けておったのに......無駄になってしまったのう。」
......賭け?
「絶対ゴブって名付けるって思ったんだがな。」
「いや、あの子が実は女の子で、リンちゃんって可能性もあったよー。」
「妾はゴンだと思ったのじゃがのう......。」
「いや、そんな安直な......。」
俺がそう言うとみんなから半眼で見られた。
そんな安直な名前を付けたりしませんよ......?
そうだな......例えば......ゴブ......リン......ゴン......いや、それよりもワイアードさんはどんな名前をゴブリンに付けるのか気になるよね!
俺が二人の方に視線を向けると、何やら言いたげな視線が背中に突き刺さる......。
「......ヘヌエスはどうだろうか?」
「へぬえす?」
「あぁ。実は私と愛する者の間に子が出来た時に付けようと思っていた名なのだが......。」
......色々と問題のある名前のようだ。
俺がナレアさん達の方を振り返るとナレアさん達も渋い顔をしている。
「はぬえら、よめ、いる?」
「えぇ。誰よりも愛しい、お互いを想い合っている女性がいるよ。」
......間違いなくヘネイさんの事だろうけど......その紹介でいいのだろうか?
絶対王都に戻ったら大変なことになると思うのだけど......。
「なまえ、へぬえす、いい?」
「えぇ、勿論。私達の子の為に名前を用意する時間はまだあるからね。また新しく考えます。」
「ありがとう、はぬえら。おれ、へぬえす。」
あっさりと名前が決まったようだけど......いや、まぁいいのか。
問題なのはその名前を用意しようとした経緯であって、名前には何の問題もないだろう。
......多分。
「はぬえら、よめ、どんな?」
「とても素敵な女性ですよ。名前をヘネイと言いまして、勿論ヘヌエスにも今度紹介するからね。」
ヘネイさんの名前が出た瞬間、目を見開いたヘイズモットさんが凄い勢いで俺達の方に顔を向ける。
俺達はヘイズモットさんに曖昧な笑みを返すことしかできないが......ナレアさんが肩をすくめると、顔を抑えて俯いたヘイズモットさんががっくりと肩を落とした。
副官として、どうやらかなり苦労をしているようだ。
「へねい、あう、たのしい。」
「えぇ、楽しみにしておいてください。きっとヘネイもヘヌエスの良き友人となってくれるでしょう。早速今日の分の手紙にヘヌエスの事を書いておかなくてはいけませんね。昨日の手紙には不安を煽るといけないので、貴方の事は何も書いていませんでしたから。」
......今日の手紙......昨日の手紙?
毎日ヘネイさん宛に手紙を書いているの......?
......毎日!?
俺は反芻した事実に衝撃を受け、思わずヘイズモットさんの顔を見るが......その表情は物悲しいというか苦々しいというか、それでいて諦念の混ざった複雑な色を醸し出していた。
「てがみ、なに?」
「手紙と言うのは、近況を伝えたり、愛を綴ったりする素晴らしい物だよ。遠方にいる相手に言葉を届け、書く人も読む人もお互いの存在を近くに感じられる、そう言った代物のことだ。」
間違ってはいない......手紙とはそういう物だと俺も思う。
思うのだけど......何かが決定的に間違っている気もする。
「てがみ、おもしろい。おれ、つくる。」
「えぇ、貴方にもいつか手紙を送る大事な人が出来る事でしょう。その時の為にもしっかりと文字を勉強する必要がある。」
「まなぶ、たくさん。たのしい。」
とても楽しそうに語る二人だけど......ワイアードさんにゴブリン......ヘヌエス君の教育を任せていい物だろうか......いや、二人とも物凄くいい人なのは間違いないけど......決定的に間違った人選のような気がしないでもない......。
「まぁ、ケイの心配も分からぬではないのじゃ。言っている事は間違っていないのにやっている事は間違いだらけじゃからな。」
「あはは、まぁ......ちょっと大変だよねぇ。ヘネイさんも。」
俺は何も言っていないけど......ナレアさんとリィリさんが苦笑しながらワイアードさん達を見ている。
ヘヌエス君の学習能力の高さと素直さが、ワイアードさんのアレな部分に影響を受けなければいいけど......普段のワイアードさんは素晴らしい人物だと思うので、そっちは大いに吸収してもらいたいと思う。
一般常識......いや、とある一部分についてのみ、ヘイズモットさんに教えてもらう方が良いかもしれない。
「言葉、文字、常識......私の従者としてこの辺りは早めに覚える必要がある。最初は大変だと思いますが、がんばりましょう。」
「おれ、がんばる。」
「その意気だ。」
ヘヌエス君の言葉にいつも通りの爽やかな笑みを浮かべるワイアードさん。
本当に、凄くいい人なんだけどなぁ......。
2
お気に入りに追加
1,717
あなたにおすすめの小説
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる!
孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。
授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。
どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。
途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた!
ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕!
※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる