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7章 西への旅路

第358話 さすファラ

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『ケイ様、お待たせいたしました。』

俺達が探索を切り上げて野営の準備を始めていた所にファラとグルフが合流した。
森に入ったのが昼過ぎだったこともあり、俺達の探索は殆ど進んでいない。
まぁ、本格的な探索は明日からになるだろう。
ファラも今日は部下の調達をしていたはずで、本格的に調べ出すのは明日からだろうし打ち合わせをしておいた方がいいよね。
一応こちらは、シャルが感知した魔物を三匹程確認はしたけど、どれも関係なさそうな魔物だった。

「お疲れ様、ファラ、グルフ。首尾はどうだった?」

俺はそんなことを考えながらファラに今日はどんな感じだったかを尋ねる。

『はい、件のゴブリンと思しきものを発見いたしました。』

......。
なるほど、ゴブリンと思しきものを......なるほど。

「......もう見つけちゃったんだ。流石だね。」

『ありがとうございます。』

うちの子達が優秀過ぎて怖い。
ファラの横に控えているグルフも心なしか誇らしげにしている気がする。
俺は二人をたっぷりと撫でて労った後、やっていた作業......風呂作りを中断して皆の所に戻る。
森の中に少し開けた場所を見つけ、そこを拠点にしようと決めたのだ。
レギさんは天幕張り、ナレアさんは薪拾いと竈作り、リィリさんは料理の準備をそれぞれやっているはずだ。
一応、俺も移動中に薪になりそうな木は拾ってきている。
ナレアさんの竈作りは俺の風呂作りと同様に天地魔法を使って作っているので、かなり立派な竈が出来ている。
偶にレギさんが、魔法に頼り過ぎて感覚が鈍ると良くないと言って自分で石を積んで竈を作ることはあるけど、ナレアさんとリィリさんはその横で立派な竈を使って料理をしている事が多い。
いや、レギさんの作る石積みの竈も味があって俺は好きですよ?

「あれ?ケイ君もうお風呂出来たの?」

「いえ、ファラとグルフが戻って来たので一旦作業を中断してこちらに連れてきました。」

野菜を切っていたリィリさんが、戻って来た俺に気付き声を掛けて来た。

「あ、本当だ。お疲れ様、グルフちゃん、ファラちゃん。部下集め上手くいった?」

『お疲れ様です、リィリ様。部下集めに関しては滞りなく。この付近にいた者達はほぼ配下に入れることが出来ました。』

「そっかー、流石ファラちゃん、仕事が早いねー。まだ森に入って半日も経っていないのに。」

『ありがとうございます。それと確証はまだありませんが、件のゴブリンと思しきものも発見して部下を張り付けています。』

「......。」

ファラの言葉に流石のリィリさんも絶句しているようだ。
いつでも余裕のあるリィリさんにしては、かなり珍しい光景かも知れない。

「そっかぁ、予想以上の早さだったよ。ファラちゃんは凄いね!」

しかし、すぐに己を取り戻したリィリさんがファラを称賛する。
その横でグルフが甘え鳴きをするようにきゅーんと鳴いている。

「うんうん、勿論グルフちゃんも。いっぱい頑張ったね!お疲れ様!」

リィリさんは手ぬぐいで手を拭いた後、グルフを両手でわしゃわしゃと撫でた。
撫でられたグルフは、更に甘える様にリィリさんに頭を擦り付けながら目を細めている。
こういう姿を見るといつも思うのだけど......こんなグルフでも一般的に見れば災厄クラスの魔物なんだよね......。
二つ名というか呼称が付くくらいの......。
リィリさんに撫でまわされながら尻尾をブンブン振る姿からは想像もつかないけど......。

「よし、とりあえず僕はお風呂の続きを作ってきます。今日のお風呂はいつもとちょっと違うので楽しみにしておいて下さい。」

「あ、そうなんだ!分かったよ、楽しみにしておくね!」

ふふふ、今日のお風呂はいつもと一味違うのだ。
王都に行った時、以前目を付けていた柑橘系の果物を購入して種をゲットしておいたのだ。
天地魔法を駆使すればこの種から一気に果物を収穫できる......これで前からやりたかったゆず湯的なお風呂が出来るのだ!
収穫した実から種を回収すればまたいつでも出来る......無限柑橘風呂システムだ。
勿論自然にも配慮して、土地が枯れない様に天地魔法を使い栄養を補給することも忘れない。
......まぁ、土地の栄養ってあんまりよく分かってないから、腐葉土的な物とか肥料的な物を混ぜたりするくらいだけど......。
多少土壌や気候が合わなくても強引に木を成長させて実を収穫できるけど、天地魔法によるピンポイントでの天候操作や土壌操作も可能なので、どんな場所でどんな風に育てたかを予め調べておけばほぼ問題なく収穫まで出来るのだ。
......天地魔法があれば食糧問題も一気に解決出来そうだけど......これもまた回復魔法と同じで戦争になりかねない案件だよな......人目には絶対に触れない様にしよう。

「また随分と百面相をしておるのう。」

お風呂から戦争まで色々と考えていると、木の枝を抱えたナレアさんが近づいて来た。

「あ、ナレアちゃんおかえり。なんか今日のお風呂は自信作になるみたいだよ。」

「ほう、それは楽しみじゃな。」

薪を下ろしながらナレアさんが嬉しそうに笑う。
そう言えばナレアさんには前ゆず湯について話した気がするな。

「む?グルフとファラが戻って来ておるのか。」

「うん、丁度労ってたところなんだ。早速ゴブリンを見つけてくれたみたいだよ。」

リィリさんがグルフとファラを撫でながらナレアさんにファラ達の成果を伝える。

「......相変わらず無茶苦茶じゃな。監視は置いておるのじゃろ?」

『はい。部下を張り付けております。』

「なら明日になったら早速向かうとするかのう。三日で報告に戻ると言っておったが、最初の報告で依頼が終わるかも知れぬのう。」

「話し合えるといいけどねぇ。」

「そうじゃな......まぁ、妾達が頼まれておるのはハヌエラとの会合を実現させることじゃからな。友好的に接して、身の安全の保障をする必要があるが......その辺は今夜にでも考えぬといかんのう。」

なるほど......確かに話し合いに引っ張り出すだけじゃなく、以降の身の安全は俺達の方からも考えてあげないと不義理ではあるか......。

「少しその辺を考えながら作業してきますね。」

「うむ。あまり一人で悩み過ぎぬようにの、妾達全員で考えるのじゃからな。」

「分かりました。ありがとうございます。」

そう言ってもらえると気分が軽くなるね......とは言えしっかり考えないとな。
俺は先ほど作業していた所に戻りながら考えを巡らせる。
ワイアードさんも言っていたけど、相手に会ってみない事には決められないことはある......俺が考えるべきは、もしゴブリンが人と関わりながら暮らしたいと言った場合で、龍王国に受け入れられなかったとしたら......生活できる場所提供?
流石に今回はグラニダのカザン君を頼るのは無理だ。
いくらなんでも山菜を取って来てくれる程度じゃメリットとは呼べないし......いや、一般家庭くらいなら家計の助けになるかもしれないけど......カザン君の家には全く必要ないだろう。
......というか、誰の所に連れて行っても残念ながら正解ではない気がする。
人という視点で言わせてもらえば、人と関わることなくひっそりと暮らしてもらうのがお互いにとって一番良いって感じだけど......靴を履いて行動をしているってことを考えれば、人そのものか人の営み、文化......その辺りに興味があるって考えられる気がする。
自分で編み出した可能性もあるけど、人が服や靴を身に着けている所を見て真似をしたって方がありそうなんだよね。
物々交換にしても、村人の様子を見ていて気付いたのかもしれない。
まぁ、純粋に野菜を持って行くことへのお礼かお詫びって可能性もあるけど、それでもその考え方は魔物と言うよりも人寄りの考え方な気がする。
......もし今回のゴブリンが、ナレアさんの言う様に理知を備えていて、人と関わっていくことを希望し、その為の努力を怠らないと言った場合......そして、龍王国では受け入れられないと判断された場合は、俺達の旅に連れて行ってもいいかもしれない。
龍王国からは厄介な問題を引き離せるし、俺達といれば人の世界の常識を教えてあげられる。
危険な場所に行くことは多いかもしれないけど、グルフやマナスと一緒に留守番でもしていれば安全は確保できると思う。
うん、無責任に他人に預けるよりもよっぽどいい考えじゃないだろうか?
ゴブリンの魔力量がもし多ければ、幻惑魔法の魔道具をアースさんみたいに使ってもらえば町の中にも入れるはずだし、もしそれが無理だったらグルフと一緒に街の外で待ってもらってもいいだろう。
グルフも一人で待つよりは一緒に居る仲間が増えて嬉しいかもしれない。
よし、この案を後でレギさん達に相談してみるとしよう。

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