358 / 528
7章 西への旅路
第357話 誰が見つけるか
しおりを挟む「さて、ハヌエラの部隊が集めた情報によると、この辺り一帯の動植物が採取されておったようじゃが......レギ殿、痕跡とか分かるかの?」
ワイアードさんが村の猟師から教えてもらった情報と騎士団の方々が探索した情報をもとに、俺達は森の入り口に来ていた。
入口と言ってもここから先が森ってだけで、道があるわけじゃないけど。
「あぁ、大丈夫だ。森の浅い部分だけあってまだ分かりやすい。とは言え、騎士が森に入っちまってるからな......どちらの痕跡なのかは判断が付きにくいところではあるが......。」
ナレアさんの質問に、屈みこんで草木の状態を確認していたレギさんが顔を上げ返事をする。
「妾はこういった依頼を受けたことがないのでのう......あまり力になれぬかもしれぬが、手伝えることがあったら教えて欲しいのじゃ。」
ナレアさんが頬を指で掻きながら申し訳なさそうにレギさんに言う。
しかし、俺も決して他人事ではない。
俺も森での仕事なんてやったことはない。
一応母さんから森での戦闘や狩り、追跡術なんかは習っているけど......正直、成績的にはあまりよくなかったと言わざるを得ない。
「まぁ、こういうのは経験だからな。魔物を討伐するような依頼で探し回らないといけない類のやつは、とにかく時間と根気が必要だからな......いやでも覚えるってもんだぜ。」
「妾は基本的に依頼を殆ど受けないからのう......余程切羽詰まった時くらいじゃろうか?」
「あはは、ナレアちゃんは色々とお金を稼ぐ手段がありそうだからねぇ。冒険者としてはかなり特殊だろうねー。普通駆け出しの頃って人が嫌がる仕事をお金の為にやらなきゃいけない事って多いから。」
「やはりその手の依頼は人気がないのですね。」
皆の話を聞き俺が感想を漏らすと、地面の状態に目を凝らしていたレギさんが苦笑しながら言う。
「まぁな、相手によっちゃぁ報酬は悪くないが......基本的に長期に渡ることは多いし精神的な疲労も多い、前にも話したことはあると思うが......通りすがりの冒険者に討伐されたりしてた日にはもう......。」
トラウマを刺激されたのかレギさんの目から光が消えていく。
確かかなり前にそんな話を聞いたことがあったっけ......その時は一か月くらい魔物を追っていたとかなんとか......。
「まぁ今はそれはいい。ところでケイ。ファラはもうこの森に入っているんだろ?」
「はい。今は配下を増やしながら探索を進めて行ってくれています。」
「そうか、まぁこちらも手を抜くわけじゃないが、ファラが調べてくれているなら探索もなんとかなりそうだな。」
「そうだねー。いくら賢くて警戒心が強いゴブリンでも、ファラちゃん達の目を掻い潜れるとは到底思えないよね。」
「うむ、相手がこの森にいるのであれば発見は時間の問題じゃろうな。」
皆がファラを手放しで信頼して褒めてくれるのを見ると嬉しくなってくるね。
まぁ、ファラ達に比べて自分が全然役に立てないのは歯がゆく感じないでもないけど......まぁそれはそれこれはこれだ。
俺が一瞬の葛藤にケリをつけていると、しゃがみ込んでいたレギさんが立ち上がって俺達の方を見る。
「よし、とりあえず騎士団とは別の動きをしている痕跡があったからそれを追ってみるとするか。ナレア、俺達が発する音、足音や布ずれの音、話声あたりを外に漏らさない様にって出来るか?」
「問題ないのじゃ。一切の音が消えてしまうと不自然かもしれぬから、風によって発生する音や虫の音なんかはそのまま通す様にしておくがそれでもいいかの?」
「あぁ、十分過ぎる程だ。頼む。」
「了解じゃ。」
ナレアさんがいとも簡単に無茶苦茶なことを言っている気がするけど......カザン君の家の中庭で凄い事やってたからなぁ......ナレアさんにとっては簡単な事なのだろう......。
「これで妾達が発する音は妾達以外には聞こえないのじゃ。姿も隠すことは出来るが、ファラがこちらを見つけることが出来なくなってしまうかもしれぬからのぅ。こちらからファラを見つけることも難しいじゃろうし......とりあえず姿はこのままでいくが良いかの?」
それを証明するかの如く、あっさりと遮音出来たと報告してくるナレアさん。
音を完全に消すくらいなら俺にもできるけど......森の中でそれは逆に不自然なのだろうね。
「あぁ、音を消してもらっているだけで充分だ。もし姿も消す必要が出た場合はその時に頼む。」
そういってレギさんが先導して森の奥へと足を進める。
俺達は周辺を見渡しながらレギさんの後を着いていく。
「シャル。周囲に魔物は?」
『私の感知範囲には何匹かいます。群れではないようですし、一匹一匹もあまり強い魔物はいないようです。案内いたしますか?』
「レギさん。この辺りの魔物をシャルが感知出来ているみたいなのですが、向かいますか?」
「それは助かるな。相手に気付かれない様に近づけるか?」
『私とケイ様であれば問題ありません。全員となると......。』
音は消しているけど、姿は見えているし、臭いや魔力なんかでも気づかれるのかもしれない。
後は蛇みたいに熱源感知みたいな能力を持っている魔物もいるかもしれないし、気づかれない様にってのは難しいか。
俺とシャルならって言うのは......どういうことだろうか......?
俺一人くらいならシャルがサポートできるってことかな?
「......この人数で気づかれない様にと言うのは少し難しそうですね。相手の魔物の特性も分からないので......。」
「まぁ、それはそうだな。無理を言ってすまねぇ。」
「ふむ......全力で認識できない様にするかの?恐らく出来ると思うが......いや、魔力視を誤魔化すことがまだ厳しいのう。ただの魔力視なら問題ないのじゃがケイ達からの隠蔽は難しいのう。」
「まぁ、僕達と同じことを出来る魔物が居ないとは限りませんが......今回誤魔化すのは僕達じゃありませんからね?」
「......その内越えてやるのじゃ。」
いや、今は対抗意識を燃やさないでください。
というか、ナレアさんの幻を見破れるように俺も研鑽を積まないといけない気がする。
「......いや、今はそれはいいだろ?何二人して決意固めた感じになっているんだよ。」
「仲良いねー。」
俺とナレアさんのやり取りを見たレギさんが呆れたように、リィリさんは少し嬉しそうにコメントする。
「まぁ、ケイを突破するのはさておき......魔物にある程度近づいたら妾とケイだけで魔物を確認してくると言うのはどうじゃ?二人ならば不測の事態が起きたとしても問題なかろう。」
「そうですね、分かりました。ところでレギさん、魔物を発見した場合討伐しなくてもいいのですか?」
「まぁ、別に討伐する必要は無いと思うぞ?騎士団がどうしたいかはさておき、ここは人里から少し離れた森の中だからな。村に害を及ぼしているわけでもないし、俺達が襲われたわけでもない。魔物と言っても静かに暮らしているだけだからな。」
「なるほど、それはそうですね。」
森の中で平和に暮らしているだけの魔物を狩る必要性は何処にもない......というかこちらの方から住処に乗り込んで殺すって、自分で言っておいてなんだけど押し込み強盗的な感じがするよね。
生活の為に狩るって言うのとも違うしね。
「では、いらぬ虐殺をしなくていいように、こっそりと調べに行くとするかの。」
「......了解です。シャル、案内をお願いして......あ、その前にレギさん、もしシャルの案内する先がレギさんの見つけた痕跡からズレていく場合はどうします?」
「そうだな......その場合は俺とリィリは痕跡から逸れる場所で待とう。魔物の確認が終わったら戻って来てくれ。森の中だが、戻ってこれるよな?」
「シャル達が居るので大丈夫です。合流は問題ありません。」
俺がそう言いながらシャルの方を見ると問題ないと言うように頷く。
「よし、じゃぁそういう塩梅でいこう。一応言っておくが、危険を感じたらすぐに戻ってこいよ?」
「分かりました。じゃぁ、シャル改めてよろしく。」
「承知いたしました。」
レギさんの方針に従って森の探索を進めていく。
でも正直に言って、ファラより先にターゲットを発見出来ると微塵も思っていなかった。
2
お気に入りに追加
1,719
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる