上 下
351 / 528
7章 西への旅路

第350話 三戦目

しおりを挟む


ナレアさんが巨大なドラゴンと向かい合っている姿を俺達は後方から見ている。
相手のドラゴンは黒っぽいけど、俺が戦った黒竜さんのように真っ黒って感じではない。
灰色っぽい黒って感じかな?
今まで出て来たドラゴンたちに勝るとも劣らない威風堂々たる姿だけど......ナレアさんに気圧される様子は全く感じられない。
まぁ、戦闘前にビビるのは俺だけですよね......母さんからも恐怖することは必ずしも悪くないけど、委縮するのは絶対にダメだと言われている。
っと......今はそれはどうでもいい。
レギさん達と同様にナレアさんも俺の強化魔法は掛かっていない。
まぁ、強化魔法の魔道具を持っているからすぐに掛けられる状態ではあるけど......ナレアさんはどんな戦い方をするのだろうか?
俺は今回あえて幻惑魔法を使わずに戦った。
恐らくナレアさんが幻惑魔法をメインに使うと思ったからだけど......まぁ、ナレアさんだったら俺が使おうが使うまいが気にしなかったかもしれない。
でもどうせ応龍様の眷属の方々に見せるなら、俺の中途半端な幻惑魔法より、ナレアさんの幻惑魔法の方が良いと思ったのは確かだ。

「ナレアちゃんはどうすると思う?」

「ケイみたいに天地魔法で遠距離戦じゃねぇか?幻惑魔法は攻撃向きじゃないだろ?」

「うーん、どうするかは予想出来ませんが......僕は幻惑魔法を主軸に戦う気がします。強化魔法は僕がかける物より効果が低いですからね......流石に眷属の方を殴り飛ばすってことは無いでしょうね。幻惑魔法で相手の隙を作ってとどめは天地魔法って感じじゃないですかね?」

リィリさんが予想を聞いて来たので俺達はそれぞれの予想を言う。
とは言え俺もレギさんも天地魔法で攻撃するという所は一緒だ。
俺達の予想が当たるのか、ナレアさんが予想を上回ってくるのか......いや、あの眷族の方が物凄く強くてナレアさんを圧倒するって可能性もあるけど......なんとなくナレアさんが成す術もないって状態が想像もつかない......。
シャルとナレアさんが戦ったらどうなるのだろうか......?
ナレアさんは霧狐さんとよく幻惑魔法で勝負をしていたけど、その霧狐さんはシャルとお互いに手加減をしながらだが、いい勝負を繰り広げていた。
向かい合ってよーいドンで戦ったらシャルが勝ちそうだけど......ある程度距離を開けた状態ならどうだろうか?
ナレアさんには幻惑魔法と天地魔法がある。
だけどシャルは幻惑魔法を見破ることが出来る......でもナレアさんならその対策もしっかりしてきそうだし......うーん、予想が付かない。

「ナレアさんとシャルってどっちが強いのでしょうね?」

「どうした?突然。」

湧いて出た疑問を口から出すと、レギさんがきょとんとしながら聞き返してきた。

「あー、ナレアさんがどういう風に戦うのかなぁと考えていたのですが......そこから相手の眷属の方のことや霧狐さんの事を考えていたのですが、ふとシャルとナレアさんが戦ったらどうなるのかなと思いまして。」

「「......。」」

俺がそう話すとレギさんとリィリさんが俺から視線を逸らす。
ん?
なんかまずいことを聞いただろうか?
疑問に思いながらふと横を見ると、こちらをじっと見つめるシャルと目が合った。
なんかつい最近同じことがあったような......いや、あの時とは表情が違うか。
でもあの時と似た圧力のようなものを感じるような......。

「えっと......シャル?」

『私の方が強いです。』

「え......?」

「私の方が強いです。」

「あ、はい。」

最近シャルの凄味が増しているような......いや、もともと凄味はあったけど俺に対してそれを見せることが無かっただけか。
とりあえずシャルに押されて頷いてしまったけど......うん、この話題はやめておこう。
レギさんどころかリィリさんまで目を逸らすほどだ。
大変なことになりかねない......。
俺が視線をナレアさんの方に戻すと応龍様が丁度開始の合図をするところだった。

『では双方よいな?始め!』

応龍様の掛け声と共にナレアさんが後方へと大きく飛びながら石弾を放つ。
しかし相手は石弾を躱すこともなくその身で受けた。
ナレアさんが撃った石弾は対人サイズではなく明らかにドラゴン向けの大きなものだったけど、身構えることなくそれを受けた灰色のドラゴンは相当防御力に自信があるのだろうね......。
そして次の瞬間無数の氷の槍を生み出した灰色のドラゴンは、ナレアさんに向けて雨のように氷の槍を降らせる。
その勢いは俺の放った氷球とは比べるべくもなく、凄まじい勢いでナレアさんに向かって降り注ぎ、攻撃を完全に防ぐことの出来なかったナレアさんを貫いた!

「ナレアさん!」

「待て、ケイ!」

ナレアさんが一瞬で血まみれになり、慌てて飛び出そうとした俺をレギさんが掴んで止める。

「っ!?レギさん!離してください!」

「落ち着け!多少怪我をした程度だ!ナレアはまだやる気だぞ。」

「そんなっ!?」

俺はレギさんを振りほどこうとするのを止めてナレアさんを見る。
レギさんの言う様にナレアさんはまだ戦闘を止めるつもりは無さそうだ。
多少の怪我っていう所はとてもじゃないけど同意できないが......言われてみれば怪我をしているのは手足だけで頭や胴体部分からの出血はなさそうだ。

「得意ではないとは言えナレア自身回復魔法も使えるんだ。あのくらいなら問題はないだろう?」

......問題が無いとは言い難いけど......ナレアさんの回復魔法で治せるのは事実だ。

「......それはそうですが。」

「まぁまぁ、ケイ君。ナレアちゃんが心配なのは分かるけど、少し落ち着こうよ。」

「ですが......。」

「ほら、ケイ君落ち着いて、少し考えてみてよ。ナレアちゃんが無策にあんな攻撃を受けると思う?」

「それは......。」

確かに、言われてみればおかしい......。
あの眷族の方の攻撃は槍の速度自体は結構速かったが、それでも目で追えないレベルではなかった。
当然ナレアさんであれば、石壁を作り出すなりなんなりして防ぐのは容易だったはず。

「そう、ですね......致命傷ではないとは言え、あの攻撃をナレアさんが受けるのは違和感があります。」

「うん、そうでしょ?まぁ、ナレアちゃんがあんな風になったから慌てるのは分かるけどね。」

「いや、まぁ、はい......ありがとうございます、リィリさん、レギさん。落ち着きました。」

「いきなり飛び出しそうになるとは思わなかったがな。その辺りケイは少し気を付けた方が良いかもしれないぞ?弱点になりそうだ。」

「......はい、気を付けます。」

「まぁ、ケイ君のいい所だとは思うけど......あ、ナレアちゃんの方動き出したよ。」

怪我を庇っている様子のナレアさんは動きがかなりぎこちないけど......その姿を見て俺の中にあった違和感が確信に近づく。

「......あの怪我をしているナレアさんって、本人ですかね......?」

怪我も治さず、再び灰色のドラゴンが氷を生み出すのを邪魔することもなく身構えているナレアさんを見て、アレは幻惑魔法によるナレアさんの幻なんじゃないかと二人に聞いてみる。

「それは......ケイの方が分かるんじゃないか?」

「そうなのですが......。」

俺が弱体魔法を使い視界を切り替えると......案の定というか、当然というか......ナレアさんだけではなく灰色のドラゴンのいる辺りまでが青い魔力に包まれている。
恐らく全域に何か適当な......薄い霧か何かを幻で作っているのではないだろうか?
確実に俺やシャル対策って感じだけど......弱体魔法が使えなくても幻惑魔法を見破ってくる相手が居ないとも限らないからね。

「広範囲に幻を作っているようで、あの怪我が幻なのかどうかは分からないですね。」

「なるほどな......まぁ、大規模な幻を展開する余裕があったのなら、ほぼ間違いなくあのナレアの姿は幻だろうな。怪我だけが幻なのか、あそこにいるナレア自身が幻なのかは分からないが。」

「良かったね、ケイ君。ナレアちゃんの怪我はなさそうで。」

「......そうですね。」

まだ、確実とは言えないけど......レギさんの言う様に幻を全域に発動させる余裕があったのなら相手の攻撃をあぁも無防備に受けたりはしないだろう。
......少し安心は出来たけど......試合終了後に文句くらいは言いたい気がする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...