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7章 西への旅路

第346話 一戦目

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確か応龍様は、そんなに好戦的な眷属がいないから誰が手を上げるか分からないって言っていたけど......。
今俺の目の前で参戦の意を示した応龍様の眷属は......今この場にいる眷属の半数以上......。
眷属の方達も刺激に飢えているってことだろうか。
あまりの大盛況に、眷属の方達を集めて戦ってみるかと聞いた応龍様も若干面を喰らっているような感じだ。

『少し多いな。そちらは何名が戦うのだろうか?』

「四名ですが、その内二名は個人ではなく組んで戦わせていただきたいです。」

『分かった。その二名と言うのは加護を持たぬ者達か?』

「そうです。」

今回の模擬戦に参加するのは、俺、ナレアさん、レギさん、リィリさんだ。
その内レギさんとリィリさんは二人で組んで戦いたいとのことなので、戦闘回数としては三回だ。
流石に仙狐様の時みたいに何戦もやるってことはない......と思うけど......眷属の人達の興奮を見るに何周か戦わないといけないかもしれないな......。

『よし、では三名を選出するが......そうだな......。』

応龍様が三名を選び、出てくるように言う。
まぁ、当然分かってはいたけど......皆さんドラゴンですね......はっきりいって、物凄く強そう。

『なるべくいい勝負になりそうなものを選んだが、そちらの実力は正確には把握していないのでな。魔力量や身のこなしからの推測だ。大きく外していたらすまんな。』

「いえ。楽しみです。」

いや、正直に言えば楽しみよりも不安的な意味でドキドキが止まらない。
シャルに相手の強さがどのくらいなのか聞きたい気もするけど......今回も模擬戦だ。
事前情報無しで自分よりも強い相手と戦う方が、良い経験になるだろう。
......とは思うのだけど......強い相手は正直非常に怖い......のは俺だけみたいだね。
ナレアさんは非常にワクワクしているって雰囲気だし、リィリさんはいつも通りだ。
レギさんは真剣な面持ちだけど......緊張したりビビったりはしていないね......。
きっと俺はどれだけこの世界に慣れたとしても、戦闘前のドキドキは無くならないのだろうな......始まっちゃえば結構なんとかなるのだけど......。
まぁ、戦い始めたらビビってる暇ないもんな。

「こちらはいつでもよいが、誰からやるのじゃ?」

「そうだな......ケイやナレアは先に相手の戦い方というか、魔法を見てみたいだろ?」

ナレアさんの問いにレギさんが答える。
つまり先に戦って相手の魔法を見せてくれるってことだと思うけど。

「そうですね......でもいいのですか?」

レギさんだって相手の情報を得てから戦う方が対策は取りやすい筈だ。

「魔物......って言うは違うのだろうが......初見の相手と戦うのはいい経験になるからな。ケイにとってもそうだろうが、譲ってもらってもいいか?」

そういってニカっと笑うレギさんだが......かっこいいなぁ。

「じゃぁ、初戦はお願いします。その......気を付けてください。」

「おう。」

「リィリさんも、よろしくお願いします。」

「うん、任せといて。ナレアちゃんもしっかり見といてね。」

「うむ、楽しませてもらうのじゃ。」

うーん、この二人は本当にいつも通りだな。
プレッシャーとかはないのだろうか......。
とりあえず、頼もしい二人が先陣を切ることを応龍様に伝えよう。
おそらくそれぞれの相手を決めた状態で指名したのだろうからね。

「応龍様。初戦はこの二人がやらせていただきます。」

『わかった。ではお前が出なさい。』

応龍様が赤いドラゴンに向けて出るように言う。
レギさん達の相手はあの眷属のようだ。
仙狐様の所のように舞台があるわけじゃないけど、見物をしている応龍様の眷属の方々が車座になっているので、その中心で戦えという事だろう。
相手の体が大きい分、仙狐様の所にあった舞台よりもかなり広く場所を取っている。
まさかあの巨体でシャルや霧狐さんみたいに高速移動はしないだろうけど......もしそんな動きをしてきたら体当たりだけで勝負はつきだよね。
後、懸念としては......あの赤いドラゴンが空を飛んだ場合、レギさん達には有効な攻撃手段が殆どないことだろう。
能力的に言えばレギさん達が圧倒的に不利だと思うけど......俺やナレアさんの渡している魔道具が、どのくらい相手に通じるかにかかっているかもしれない。
レギさんとナレアさんが並んで円の中心に進む。
相手は中心から少し離れた位置で動かないようなので少し距離がある。
普段であれば強化魔法の効果もあり、一息で距離を詰めることが出来るけど......今はレギさんの頼みで強化魔法を切ってある。
強化魔法を込めた魔道具と、デリータさんに開発してもらった魔道具を複製して渡してあるので、レギさんも問題なく自分に強化魔法を掛けられるけど......俺が直接かける物よりは効果が低めだ。
強化魔法の魔道具も作り直した方が良いかもな......。

『では、始め!』

相変わらず俺が考え事をしている間に事が進んでしまっているな......応龍様の掛け声と共にレギさん達の試合が始まる。
開始の合図と同時にレギさんが魔道具を発動して自分に強化魔法を掛ける。
そしてレギさんの体の影からリィリさんが飛び出し相手の左手側へ、少し遅れてレギさんが相手の右手側に回り込むように動いていく。
強化魔法無しの状態なら力も早さもリィリさんの方が上。
ただ、リィリさんの武器は細身の双剣だから大型のドラゴンにはあまり効果的なダメージは与えられないだろう。
しかし魔道具により身体強化を施したレギさんは、早さではリィリさんに劣るものの力は若干上、さらに武器が両手持ちの斧なので大型を相手取るにはいい武器だ。
何より、レギさんとリィリさんの連携は息がぴったりで、俺が強化魔法を全開にしても捌ききれずに押し切られてしまうのだ。
多少の身体能力の差なんか、技術と連携によってあっという間にアドバンテージを無くし制圧してしまう。
二人からすればただ身体能力に優れるだけ、ただ体が大きいだけというのは相手の特徴の一つであって、恐れるべき点ではないのだろう。
左右に分かれて接近してくる二人を悠然と迎え撃とうとしている赤いドラゴンだが、余裕というか......油断しているように見える。
まぁ、レギさんもリィリさんも加護持ちじゃないって知っているからだろうけど......恐らくあの二人はそういう油断を見逃さない。
接近する速度を少し緩めたリィリさんを追い越し、先に自分の元に辿り着いたレギさんに向けてその大きな手を振り下ろす赤いドラゴン。

「ふっ!」

明らかに牽制と言った感じで振り下ろされた手を迎撃するように気合一閃、レギさんが掬い上げるような形で斧を振り上げた!
振り下ろされた手と振り上げられた斧が一瞬拮抗したように見えたのだが、次の瞬間その巨体が仰け反らんばかりに片手を弾き上げられて体勢を崩す赤いドラゴン。
うん、目を見開いて滅茶苦茶驚いているけど......驚いている暇はないと思いますよ?

「戦闘において油断は良くないよー。後、予想外の事が起こったからと言って頭や体を止めるのもね。」

赤いドラゴンの体を駆け上がりながら、いつもと変わらぬ口調で相手の油断を咎めるリィリさん。
リィリさんの言葉は聞こえているだろうけど、レギさんに跳ね上げられた衝撃で体勢を戻すことが出来ない赤いドラゴンは、成すがままに体を駆け上られて......最後に跳躍したリィリさんに顎を斬り上げられた。
......え!?
い、今の勢い......死んでない!?
しかし俺の心配をよそに血飛沫が上がることはなく、ドラゴンは仰向けに倒れていく。
あぁ、リィリさんの武器は訓練用の刃を潰した剣だったのか。
ドラゴンが倒れるのと同時に地面に着地したリィリさんは、腰に四本も剣を佩いていた。
恐らく相手の動きに応じて武器を変えるつもりだったのだろう。

『そこまで!』

応龍様が終了の声を上げ、初戦が終了した。

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