上 下
346 / 528
7章 西への旅路

第345話 ならばこちらでも

しおりを挟む


クレイドラゴンさんのいる聖域を訪れてから数日後、俺達は龍王国の王都を出発し、応龍様の神域に来ていた。

『無事、仙狐の加護を得られたようだな。』

「はい、応龍様に教えて頂いた黒土の森を首尾よく見つけることが出来まして......仙狐様にお会いすることが出来ました。」

相変わらず空からゆっくりと登場した応龍様が開口一番、無事に目的が果たせたことを見抜いて来た。
見ただけで他の神獣様の加護を受けたとかが分かるのだろうか?

『仙狐はどうであった?流石に天狼の子供にまでおかしなことを言ったりはしなかったとは思うが。』

「はい、仙狐様はとてもよくしてくれました。それに母や応龍様がおっしゃられていたような雰囲気の方ではありませんでしたよ?」

これ以上ないくらい言葉は端的で、曲解のしようがないくらいだった。
まぁ、常にこちらの思考を読んで会話をしていたので、若干失礼なことを考えてしまったこともあったけど......寛大な心で許してもらえた。
というか、そんなことは一々気にしないって感じだったかな?

『ほう?それは興味深いな。神域に篭っている間に心境の変化でもあったか......?』

自分の真似をする眷属の子達の姿を見て居たたまれなくなったみたいです......とは言えないよね。

「神域が出来て四千年ですし、色々と考える事があったのだと思います。」

『そうか。一度会ってみたいものだが......まぁ難しいな。』

会うのは難しいけど......通信用の魔道具を神域に配置したらどうだろうか?

「そうしてやりたいのはやまやまじゃが......まだ無理じゃのう。神域の結界を超えての通信はまだ出来ぬのじゃ。」

「そうでしたか......。」

『ふむ?何やら他の神獣に会う手立てがあるのか?』

俺とナレアさんの会話を聞いていた応龍様が尋ねてくる。
いや、会話......だろうか?
会話......まぁ、相槌を打ったから会話......か?

「会う、と言う訳ではないのですが......遠方の人と会話をするための魔道具がありまして、それを使えば連絡が取り合えると思ったのですが......まだ無理みたいです。」

『そうか......それは残念だが......まだ、ということはいずれ可能にするつもりということだな?』

「うむ。結界に干渉されずに通信出来る手立ては、妾達も必要としておるのでな。」

『なるほどな。完成した暁には我らにも使用させてもらえるとありがたいな。』

「うむ。その際は各神域に配置させてもらおう。じゃが、少し時間がかかりそうじゃな。実験するにしても神域の中でないと出来ぬからのう。」

『それは当然だな。よければ私の神域に暫く滞在するか?』

「いや、申し出はありがたいのじゃがまだ基礎実験の段階でな。もう少し開発を進めねば神域で実験しても意味が無いのじゃ。」

応龍様の誘いにナレアさんが難色を示す。
確かに神域の中での実験は必要なのだろうけど......まだその段階までは来ていないってことか......。
もし連絡が取れるようになれば母さんと話が出来るようになるし、他の神獣の方々にも色々と相談出来るだろう。
是非とも頑張って開発してもらいたい。
そういえばあまり聞いたことは無かったけど、今はアースさんとどんなものを開発したりしているのだろうか?
以前お願いした、お風呂を沸かす魔道具なんかあっという間にナレアさんは作っていたし、そう考えると本当に難しい物を二人で作っているのだろうな......何か手伝えればいいのだろうけど......魔術に関しては欠片も役に立たないし......何か元の世界にあった物で応用できそうなアイディアでもあればいいけど......元の世界で結界って言われてもな......。
いや、携帯の圏外とかって考えをすれば......。
って今は応龍様と話をしないと。
色々と考えを巡らせていた俺の事を応龍様は優し気な目で見ていた。

「すみません。余計な事を考えていました。」

『気にすることは無い。お前たちの発想はいつでも我等を楽しませてくれるからな、好きなだけ考えを巡らせてほしい。だがまぁ、今は話をしてくれる方が嬉しいかもしれないな。』

そう言って豪快に笑う応龍様。
うん......やっぱり話をしに来たのだからね、しっかり話そう。

『ところで仙狐は随分と様子が変わったようだが、加護もすぐに貰えたのか?』

「えっと、一つ頼み事をされましたが、加護自体はすんなりと貰えたと思います。」

『ほう?頼み事か......何を頼まれたのだ?』

興味深げに聞いてくる応龍様。
その雰囲気はなんとなく仙狐様や母さんにも似ているような......面白いことに飢えているというか......。
まぁ、これは別に教えてもいいよね?

「仙狐様の眷属の方と一戦を頼まれました。模擬戦という形でしたが仙狐様の眷属三名と私、ナレア、それと私の眷属のマナスで戦いました。」

『ほう、そのようなことを!それで、どうなったのだ?』

応龍様の目がキラキラしだして、身を乗り出す様に質問してくる。

「えっと......相手が下位の眷属だったこともあって......。」

『なるほど......ではあまりまともな戦闘にはならなかっただろうな。』

「えぇ、仙狐様も最初からそういう風に考えていたようです。」

『であろうな。仙狐には戦闘以外に目的があったということだな......それが何なのかは分からぬが......。』

「仙狐様の狙いについては......私からは......。」

『まぁ、そうだな。ナレアの研究が実を結んだ時に聞き出すとしよう。』

......後で俺仙狐様に怒られないだろうか......大丈夫かな......。

『しかし眷属との戦闘か......私の眷属とも戦わないか?』

「え?いや......それは......。」

出来れば戦いたくない。
というか積極的に戦いたくない。

『やりたく無さそうだな。いい経験になると思うが?』

う......確かに、応龍様の眷属と戦うのはいい経験になると思うけど......

「ふむ、妾は興味があるのう。天地魔法の扱いについて、妾達はお互いの物しか知らんからのう。参考にしたいのじゃ。」

「なるほど......それは確かに興味がありますね。」

他の人の魔法を見るのはいい勉強になるし......東方に比べれば治安がいいとは言え、西に向かうのだって危険が無いと言う訳ではない。
新しい技術や発想は取り入れられる時に取り入れるべきだろう。
まぁ、流石にこの世界にも慣れて来たので、俺達が集まっている所を害せる相手がそうそう居ないのは理解している。
それでも不測の事態は起こり得るわけだし、俺達も常に一緒に居るわけでは無い。
何かが起こった時に対抗できる手段は多ければ多い方が良いと思う。

「応龍様、先程はすみませんでした。眷属の方とお手合わせをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

『あぁ、私から言い出したことだからな。とはいえ、あまり好戦的なものがいないから......どの程度の者が手を上げるかは分からないがな。』

応龍様の指名じゃなくって眷属の方達の希望制ってことか。
どんな方と戦うか分からないけど......シャルクラスの相手は出てこないよね......?
対戦相手によっては参考にする以前に、一瞬で終わって話にならないって可能性は十分以上にある......。
確か以前来た時にシャルと同格が少しいるって言っていたし......出てきたらどうしよう......。

「妾達は天地魔法以外も使ってもいいのかの?」

『寧ろこちらから頼みたいくらいだ。神域が出来て以降、他の魔法を目にすることは無かったのでな。若い者たちは見た事も無いどころか、どのような魔法かさえ知らぬやもしれぬ。』

仙狐様の神域もそうだったけど、若い眷属は他の神獣様の加護の事は良く知らないみたいだね......まぁ四千年も交流が無ければ当然の事だとは思うけど。
......あれ?
そう言えば、シャルって母さんの所の眷属の族長の子供って聞いたけど、一体何歳くらいなのだろうか?
そんなことを考えながら傍らにいるシャルの方に目を向けると、未だかつて見たことが無いような目をしたシャルがこちらを見ていた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...