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6章 黒土の森
第297話 相手を知る
しおりを挟む「それで、妾とケイ、それにマナスを指名という事は......幻惑魔法を打ち消せることはバレておるのじゃな?」
ナレアさんが俺の伝えた参加メンバーの名前を改めて聞いた後、こちらを見ながら確認してくる。
当然だが、もう先程までの事は無かった話になっている。
「はい。ただ仙狐様からマナスの能力については眷属の方達には秘密にしておくように言われました。」
「それでいいのか?」
「はい、仙狐様からはそう聞いています。後マナスだけじゃなく、持っている力は好きに使えという風に......。」
「......ふむ。」
ナレアさんが考え込むように顎に手を当てる。
「それと霧狐さん......僕をここまで案内してくれた眷属の方に色々と話を聞いてもいいと。」
「情報収集をしていいのか?随分とこちらに有利な条件じゃないか?」
「それはどうかのう?そうでもしなければ相手にならない......という事かも知れぬのじゃ。」
「シャルちゃんみたいな強さの子が出てくる可能性はあるよねぇ。」
仙狐様の出した条件にレギさん達が意見を言い合う。
「やっぱりそうなのですかね......。」
リィリさんの言葉にテンション低めに呟いてしまう。
いや、俺もそれを懸念していたけど......それは本当に勘弁してもらいたい。
「いくらなんでもシャルと同格の相手と戦うのは......どれだけ情報を貰っても無理じゃろうな。」
少し離れた位置にいるシャルを見ながらナレアさんが気が重そうに言う。
グルフに何やら言い含めているシャルは、体の大きさを元に戻しているので威圧感が半端ない。
「そうですよね......仙狐様の眷属である以上身体強化の魔法は使えないと思いますが......それがあろうとなかろうと勝てる気がしませんね。」
「強化はなくとも幻惑魔法があるからのう......それをどんな風に戦闘に持ってくるのか......。」
戦闘中の幻......武器を隠すだけでも厄介だけど......いや、仙狐様の眷属なのだから武器は使わないか?
いや、剣や槍だけが武器じゃない......油断は出来ないね。
「俺は今回の件、二つの方法が試せると思う。一つはしっかりと情報収集を行った上での戦闘。もう一つは情報が一切ない状態での対応力を伸ばすための戦闘。訓練という事ならどちらでもいい。」
レギさんが顎に手を当てながら、この模擬戦を自分たちの経験としてどう生かすかという話を始める。
まぁ、確かに......未だ見ぬ相手の事を考えてテンションを下げるよりもよっぽど有意義だろう。
「対応力のう......じゃが妾達の知っておる眷属というと、シャル、グルフ、マナス、ファラ......それと応龍......クレイドラゴンじゃな。」
「グルフは違いますね。」
「む?そうじゃったのか?」
「眷属にするのはもう少し成長してからって、シャルから聞いています。」
その成長って言うのが、精神的な物なのか肉体的な物なのか分からないけど......その辺は完全にシャル任せだ。
「ふむ......まぁ、それは置いておいてじゃ。妾達が一切の情報無しで、今名前を上げた連中に勝てるかのう?」
「......いや、無理ですね。シャルは言うまでもありませんが、マナスやファラも初見では対応出来ないと思います。クレイドラゴンさんもドラゴンってだけで勝てる気がしませんね。」
「それもどうかと思うが......まぁ、事前情報無しじゃキツイか。じゃぁ仙狐様の眷属に話を聞くとするか?」
「はい、それが良いと思います......霧狐さん、すみません。お話を聞かせてもらいたいのですがよろしいですか?」
『はい、神子様。』
少し離れた位置で待機していた霧狐さんが近づいてくる。
「話は聞いていたかもしれませんが、一応事情を説明しますね?仙狐様の依頼で眷属の方三人と戦うことになりましたが、色々と話を聞かせて欲しいのです。特に幻惑魔法を使ってどんな戦い方をしてくるかを参考までに。」
『承知いたしました。仙狐様が誰を選ぶかは分かりませんが、懸念されていた通り上位の者が出てくれば......失礼ながら、はっきり申し上げて勝つのは不可能だと思います。』
俺達が話していることに気付いたシャルが近づいて来ていたのだが、物凄い目で霧狐さんを見ている。
因みにグルフはその後ろをとぼとぼとついてきている。
グルフの事は後で慰めてあげないとな......別に悪いことをしたわけじゃないし......ちょっとこっちの話を優先して可哀想なことをしてしまった。
でも、とりあえず今はシャルを止めないと......。
「シャル、霧狐さんは事実を教えてくれているだけだよ。」
『......申し訳ございません。』
シャルが謝って俺の後ろに回り込む。
一応霧狐さんにも目礼をしていたようなので多くは言わない。
「すみません、霧狐さん。続けてもらってもいいですか。」
『はい。上位の者が出るとなると戦力としては問題がありますが、恐らく仙狐様が戦わせるのは下位の者だと存じます。』
「それはどうして?」
『仙狐様は眷属に灸をすえる意図があるとおっしゃられていました。であれば、上位の者が選ばれる可能性はありません。比較的若い眷属、即ち戦力としても下位の者達が選ばれると存じます。』
......なるほど。
霧狐さんの目からみても灸をすえる必要がある眷属がいるという事だろうか?
「三対三という事ですが、霧狐さんはどの眷族が選ばれるか予想出来ているという事ですか?」
『そうですね......恐らくは、という者達はいます。その中の三名でしょう。』
「対戦相手となり得る下位の方々の強さはどのくらいでしょうか?」
『どのくらい......と言うのは難しい質問ですね。比較しようにも私は神子様方の戦力を把握しておりませんので。』
......そりゃそうだ。
シャルがいつも戦力比較してくれるから当たり前に感じていたけど、比較対象がないのにどれくらいって聞いても無理だよね。
シャルはなんとなく相手の強さが分かるみたいだけど......マナス達がいなかったらこのくらい強いって伝えにくいと思う。
『私達......特に下位の者たちは身内以外の強者との戦闘経験がありません。それ故増長している部分があるのですが......。』
「なるほど......。」
四千年神域に閉じこもり、他の神獣様の眷属どころか強敵となり得るものとの遭遇も無かったのだろう。
もしかしたら神域の外の魔物とは戦っているのかもしれない......だからこそ霧狐さんの言う増長ってのをしているのかもしれないけど。
「幻惑魔法は戦闘にはどのように使うのでしょうか?」
......聞いていいものかと思わないでもないけど、出来る限り知っておきたい所ではある。
『幻惑魔法は頭の中で想像したものを幻として具現化する魔法です。その想像が及ぶ限りあらゆることが可能と言えます。』
「直接攻撃をするようなことは出来るのでしょうか?」
『術者次第ですが......そこに至っている者はいません。私の知る限り仙狐様だけにしか行使出来ない極地です。』
仙狐様の幻は直接攻撃出来るの......?
幻って......何だっけ?
「......まぁ、仙狐様にしか出来ないならそれは問題ないかな?原理は気になるけど......それは今度仙狐様に尋ねてみよう。」
「下位の者達では精々目くらましといった所ですね。自分の姿を消したり、攻撃を偽ったりです。」
「なるほど......。」
『幻を作るには集中力がかなり必要です。戦闘中に幻を作るのは非常に難易度が高いと言えます。』
「それは......戦闘中に幻惑魔法を使うのは難しいという事ですか?」
俺も戦闘中に魔法を使えるようになるまで結構時間が掛かったと思うけど......幻惑魔法はそれ以上に難しそうだ。
幻を明確にイメージしないといけないみたいだし、その情報量は強化魔法や弱体魔法の比じゃないだろう。
『そうですね......不可能ではありませんが、大規模な物は難しいでしょう。』
「大規模と言うと、あの地底湖のような規模ですか?」
『あの規模の幻惑魔法を戦闘中に作ることが出来るのは眷属では二、三名程です。戦闘中でなければもう少し増えますが......それでも十名はいません。』
「では、あの地底湖を作ったのは......?」
『あれは私が以前作った物です......いつの頃だったかは忘れましたが。』
霧狐さんが思い出す様に中空に視線を向けながら言う。
あれは霧狐さんの魔法だったのか......。
『今回神子様達が戦う相手は当然あの規模で魔法は使えませんが......説明は難しいですね。良ければ実戦でお見せしましょうか?』
そう言ってこちらに流し目を送ってくる。
......なんかその姿は狐なのだけど、妙に色気がある......。
『......ケイ様。私が相手をします。』
俺の後ろに控えていたシャルが物凄く硬い声で言ってくる。
「え......いや、でも霧狐さんが折角実戦で幻惑魔法を見せてくれるってことだから俺がやりたいのだけど......。」
『いえ、まずは戦っている所を見てもらえますか?ケイ様が戦われるのはその後の方が良いと思います。』
その言葉を残してシャルが俺達から少し離れていく。
霧狐さんもシャルについて歩いていく。
俺が返事をする前にもう決まっちゃったみたいだけど、確かにシャルの言う通り一度外から見た方が良いかもしれない。
ここはお言葉に甘えて見学させてもらうとしよう。
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