上 下
295 / 528
6章 黒土の森

第294話 封印されていたのは

しおりを挟む


『帰る手立てを探すために俺の加護が欲しいのだな?』

「帰る手立てとは少し違うかもしれませんが......。」

『......変な奴だ。』

俺の思考を読んだのか、仙狐様が呟く。

『お前の仲間も加護が欲しいのだろ?連れてくると良い。』

「ありがとうございます。」

仙狐様は端的で話が早いね。

「......性分だ。」

「......すみません。」

うぅ......余計な事を考えるな......。

『気にするな。新鮮で良い。』

......恐縮です。

『加護を与える前に、召喚されたものを確認してくれ。長年共にあってはな......非常に気になる。』

そう言って仙狐様がこちらに背を向けて歩き出す。
仙狐様が封印している召喚物か......応龍様の所に召喚されたものは俺の知識にはなかった。
まぁ、俺は世界の全てを知っているわけでは......というか俺の知らない物の方が多いわけで、あの球体が俺の世界の物じゃないかどうかは分からないけど......ここにあるものはどうだろうか?
危険度や用途の分かるものならいいのだけど......。
俺は仙狐様の後ろを着いて行きながら母さんの所にあった俺のスマホ、そして応龍様の所にあった銀色の球体の事を思い出す。
召喚物は全て鳳凰様が魔神を倒すために召喚したものだ。
つまり何らかの方法で魔神を倒すことの出来るもののはず......銀色の球体は用途が分からないけど......スマホでどうやって魔神を倒すんだ?
実は魔神ってカメラで撮ったら倒せる霊的なやつだったのかな?

『天狼の神域にあるのはお前の持ち物だったな。スマホ......といったか?どういう物なのだ?そのカメラとやらで魔神を殺すものなのか?』

「いえ......スマホは武器ではないので......魔神を殺すことは出来ないと思います。」

『ふむ、確かに、お前の考える通り......鳳凰が召喚したにしてはおかしな話だな。』

俺が疑問に思っていたことまで伝わっているね。
それはそうと、スマホってどう説明したものか......。
通信機器って言いたいけど......そもそも通信の概念がこの世界と元の世界ではかなり違うからな......。
一言では言い表せない程色々なことが出来るしな......。

『......興味深いな。』

俺がスマホでやれることを色々と考えていると、それを読み取った仙狐様が立ち止まりこちらを見る。
こういう風に伝えられるのはかなり便利だね。

「動力を確保出来れば仙狐様にも色々とお見せ出来るのですが......現状では空間魔法を解除したとしてもすぐに使えなくなってしまうと思います。」

『......口惜しいな。』

ナレアさんなら魔術で何とかしてくれそうな気もするけど......一番の問題は俺が充電のメカニズムを説明出来ないってことだ。
いくらナレアさんが凄くても、そもそも説明出来ないことをやってもらえるわけがない。
ニュアンスだけ伝えれば再現出来るってものではない。
そしてスマホは壊れればもう直すことは不可能......どう考えても無理だ。
俺は色々なことを知らないまま生きて来ていたんだと......こっちに来てからつくづく思う。

『知らないというのは面白い。新しく学ぶ余地があるのだからな。知らないことを知ったのなら後はどうするべきか、自明の理だ。』

「......はい。」

仙狐様のおっしゃる通り......電気について学べば充電する方法も自分で理解できる日が来るかもしれない。
幸い......俺に寿命は無いしね。
仙狐様は一度鼻を鳴らした後、移動を再開する。
学ぶことは面白いか......。
閉ざされた空間の中で気の遠くなるほど長い時を生きる神獣様達は......ずっと退屈と戦っているのだろうな......。
この前帰った時、母さんも本当に楽しそうに外の世界で俺が見て来た話しを聞いていたしね。
俺が思うのは烏滸がましいのかもしれないけど......何か無聊を慰めるようなことが出来ればいいのだけれど。
先を歩く仙狐様の後ろ姿を見ながら俺は何かできないかと考えを巡らせた。



『ここだ。』

先導してくれていた仙狐様が立ち止まる。
先程までいた場所とは違い、この辺りはむき出しの岩壁に他には何もない空間。
流石にこの場所まで装飾を施すようなことはしないみたいだね。
俺は仙狐様に並ぶように立つ。
クレーターのようなくぼみの中心にあるのは......。

「......戦闘機?」

どう見ても映画とかで見る飛行機......戦闘機だ。
丸みを帯びた、太平洋戦争時代の物ではなく......なんというか、シュッとしたスマートな感じの......格好いい奴だ。
ただまぁ......戦闘機とかよく知らないから以外と古いものかもしれないけど......とりあえず、今までで一番分かりやすい兵器だね。

『どうやら知っている物のようだな。』

「......えっと知ってはいますが......使い方は分かりませんし......結構危険な代物だと思います。」

『どういったものなのだ?』

「人を乗せて空を飛ぶものですが......。」

ってちょっと待てよ?
誰か乗ったりしてないよね......?

「すみません、仙狐様。少し近づいてもいいでしょうか?」

『構わぬぞ。人が乗っている様には見えぬが。』

俺は仙狐様に頭を下げた後クレーターの中心地に向かう。
誰か乗っていたらどうしよう......。
俺はもう少し近寄ろうとしたのだが......何故かこれ以上前に進めない。
......妖猫様の空間魔法か。
母さん達の神域と違って者が大きいから空間魔法で固定化されている範囲も大きいんだな。
魔法を使い、少しだけ宙に浮いて視力を強化する......コックピットには......人影は見えない。
よかった......他に人が入れるような場所って......なんかあったようなはするけど......戦闘機に詳しいわけじゃないからな。
多分大丈夫......だと思う。

『人はいないようだな。一安心といったところか。』

「仙狐様はこれについて調べなかったのですか?」

『気にならなかったと言えば嘘になるが。』

そう言って目を瞑る仙狐様。

『鳳凰が召喚した物の恐ろしさは身に染みている。』

なるほど......確か鳳凰様の召喚魔法で辺り一帯を魔神ごと吹き飛ばしたって母さんが言っていたな。
それを目の当たりにしたのなら慎重になるのは当然か。
俺も応龍様の所で封印されている得体のしれない球体を弄り回したいとは思えないしね。

『お前の世界では身近にあった物か?』

仙狐様が視線を戦闘機に戻してから尋ねてくる。

「いえ、僕らの世界においてもこれは縁遠いものです。国の兵士の......その中でも一部の人だけが乗ることが出来る代物ですね。」

正確には兵士ではないと思うけど......まぁ、今は細かいニュアンスはどうでもいいだろう。

『なるほど......馬のようなものか。あの上で戦うのか?』

......上?

「あ、いや、違います。あれは中に乗り込んであれ自体が攻撃能力を持っているのです。」

そう言いながら俺は映画で見た戦闘シーンなんかを頭に浮かべる。

『実に興味深いな。人はこのような物を作り出せるのか。』

仙狐様が感慨深げな声を出しながら戦闘機を見ている。
俺がこういう兵器とかに詳しかったら色々と説明してあげられただろうけど......生憎と音速より速く飛べるとか何百億円もするとかくらいしか......。
って普通に考えてどこの国の戦闘機か分からないけど......これ持って行かれた国では大問題になっているんじゃ......。
俺みたいな一般市民一人が攫われるのとではスケールが違い過ぎる......大丈夫かな......これがきっかけで戦争とか起こってないよね......?
俺が内心戦々恐々としていると仙狐様が戦闘機から目線を切ってこちらを向く。

『どうした?』

どうやら俺の心の声を仙狐様は聴いていなかったようだ。
まぁどうしようもないことで心を乱させる必要もないだろう......これは俺の心の中にしまい込んでおけばいい。

「いえ、少し元の世界の事を考えていました。」

『......そうか。』

そう言って仙狐様は戦闘機に背を向けて歩き出す。
俺はクレーターから出てその後ろを追う。
四千年も前の出来事だし、国際問題だとしても余裕で時効だよね?

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...