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6章 黒土の森
第290話 保護者達
しおりを挟むView of ナレア
ケイから正面の幻を突破したと連絡がきた。
だがその先も別の幻惑魔法が仕掛けられているらしく、油断は出来ない状況が続いているらしい。
幻惑魔法を越えて通信用の魔道具が使えたのは良かったが......なんとももどかしい感じじゃ。
「ナレアちゃん、大丈夫?」
「む?何がじゃ?」
「......ちょっと、力を抜いたほうがいいんじゃないかな?魔道具壊れちゃうよ?」
「......う、む。そうじゃな。」
どうやら通信用の魔道具を思いっきり握りしめていたようじゃ。
掌に跡が......というか少し血が滲んでおるのう。
妾は魔道具を反対の手に持ち直し、回復魔法を傷跡に掛ける。
大した傷では無く一瞬にして傷は消え、懐から取り出した布で血を拭う。
「......落ち着かねぇな。」
「うむ。」
ぼそりと呟いたレギ殿に妾は同意する。
妾達が手分けをすることは今までも何度かあったが......ケイだけが単独で動くと言うことは今までなかった。
しかも街中での人相手の戦闘ではなく、ダンジョンや遺跡以上に危険な場所の探索だ。
はっきり言って気が気ではないのじゃ。
まぁ、単独とはいってもシャル達が付いておるわけじゃがな......それはそれじゃ。
「二人とも心配するのは分かるけど、もう少しケイ君達を信用してもいいんじゃないかな?ケイ君にシャルちゃん、マナスちゃんにファラちゃんもいるんだしね。」
「まぁ、そうじゃな。寧ろあやつらが失敗するようなら、誰が行っても突破出来ぬのじゃ。」
リィリが落ち着かない妾達を見ながら苦笑するように言う。
分かっておる......ケイ達以上に適任が居らぬことは十二分に理解しておる。
じゃがのう......。
落ち着かぬ妾がケイ達の入っていった壁から目を離して横を見ると、耳と尻尾を垂らした状態で心細そうな様子を見せるグルフがいた。
妾が近づきグルフの横腹を撫でてやると、甘えた様子を見せて妾に体を擦り付けて来た。
「......。」
グルフを撫でながら、妾は意識を切り替えようとする。
確かにあの幻の先に進んでいったケイは今までの比では無く危険じゃ。
じゃが、この場に残っている妾達に危険が無いとは言い切れない。
妾達は上にあった地底湖の幻......これに近づいた黒土の森に住む魔物達が、穴に落ちて命を落としたと考えておったが......この場に強力な魔物がいないと確定したわけではない。
落とし穴とは別にこの場を守る魔物がいるならば、妾達に襲い掛かってきても何らおかしくはないのじゃ。
今は広範囲で魔物を感知出来るシャルもいなければファラもいない。
グルフは流石にシャルやファラ程感知範囲が広いわけでは無いはずじゃし、妾達も警戒しておくにこしたことはないじゃろう。
「しかし、このままここでケイ達の連絡を待つと言うのも暇なもんだな。」
妾と同じように幻の壁から視線を外したレギ殿が、周囲に視線を飛ばしながら言う。
「そうだねー。でも流石に私達だけでこの周辺の探索をするわけにはいかないよね。」
「そうじゃな......下手に動けば、ケイ達に迷惑がかかるじゃろうしな......。」
幻を見破ることが出来ない妾達の方が危険は多いかもしれぬ......。
例えばじゃが、矢を見えなくするような幻が掛けられていた場合......矢が刺さるまで気づくことが出来ぬのじゃろう。
魔物自身がそもそも見えない可能性もある......正直戦う相手としては厄介......いや、無貌じゃな。
正直まともに戦闘になるとは思えぬ。
「まぁ、探索は出来ないにしても周囲の警戒は必要だな。」
「そうだねー、ケイ君が後ろから襲われたら危険だし。」
「後ろからと言えば、この奥は分かれ道になっているって言っていたな。ケイ達の事だから大丈夫だとは思うが......本来であればその分かれ道の場所まで俺達も前進しておきたいところだが......。」
「ケイの話では拠点にするには狭いようじゃからのう。しかも四方を幻惑魔法に囲まれているようじゃし......妾達がそこに移動したらケイも後方が気になって集中しにくかろう。」
「もどかしいもんだ。」
レギ殿が憮然としながら言うが......うむ、その意見には妾も大いに同意するところじゃ。
「......保護者二人がヤキモキしてるけど......何か魔物でも出て来てくれないかなぁ。」
リィリが若干半眼になりながら何か呟いておるが......どうしたのじゃろうか?
「リィリ。何か言いたいことがあるのかの?」
「二人を見てると、なんか初めて子供を遠出させた両親みたいだなぁと。」
「「......。」」
妾がレギ殿の方に視線を向けると、レギ殿がなんとも微妙な表情でこちらを見ていた。
恐らく妾も同じような表情をしているのじゃろうな......。
「そういうつもりはねぇが......まぁ心配は尽きねぇな。」
「うむ。頼りがいが無いとは言わぬが、偶に抜けておるからのぅ。」
「あぁ、そんな感じだな。寧ろ頼りがいは結構あるし、結果を見ても上手いことやっているとは思うんだが......なんか危なっかしいというか......なぁ?」
「言い得て妙なのじゃ。恐らくケイの気質というか雰囲気というか......そういう物のせいじゃ。けして妾達が心配性とかではないのじゃ。」
「あぁ、ケイのせいだな。」
妾とレギ殿が顔を見合わせながら頷いていると、またリィリが半眼になってこちらを見ている。
いや......言わんとすることは分かるのじゃが......昨日とは立場が逆転してしまっておるのう。
「まぁ、二人がケイ君の事を凄く大事に思っているのは分かってるけどね。こっちはこっちで探知役がいないんだから、もう少し気を引き締めとかないと逆にケイ君に心配かける結果になっちゃうよ。」
リィリの言う通りじゃな。
「リィリの言っていることはまっことその通りなのじゃが......昨日の今日で言われるとちょっと釈然としないのじゃ。」
「ナレアちゃん......それは言っちゃいけない奴だよ......。」
顔を赤くしたリィリが顔を逸らしながら口をとがらせる。
その横にいたレギ殿は......二日続けてじゃからな。
完全な巻き添えではあるが、物凄くバツが悪そうにしておる......まぁ、言い訳は出来ぬじゃろうが。
それにしても全員が気まずい感じになってしまったのう......なんとも言い難い空気じゃ。
人はお互いを傷つけあわなければ己を保てぬのかのう。
いや、妾が悪いのじゃが......。
周囲を警戒しながらも妾達が微妙に居心地の悪さを感じていると、レギ殿が何かに気付いたように声を掛けて来た。
「遠い目をしている所悪いが、ケイから連絡が来てないか?」
レギ殿に言われて妾が手を開くと、ケイの声が聞こえて来た。
『ナレアさん。聞こえますか?』
ケイの事をとやかく言えぬのう。
周囲を警戒しているつもりで注意が散漫になっておったようじゃな。
「うむ、すまぬ、聞こえているのじゃ。また幻を抜けたのかの?」
『いえ、あ、いえ、あ、ん?』
「一先ず落ち着くのじゃ、何があった?」
ケイがこういった時に要領を得ないのは珍しいのじゃ。
それほどの何かが起きたのだろうか?
『あ、いえ。すみません。先ほど突入した幻は抜けたのですが......今回連絡したのはそのことでは無くて、ちょっと想定していなかった事が起こりまして......。』
「予想外の事かの?」
「はい......詳しくは戻ってから説明しますが、マナスが幻惑魔法を無効化してくれました。」
「なんじゃと?」
妾は肩の上に乗っているマナスの分体を見る。
レギ殿やリィリも自分の方に乗っているマナスを驚いた表情で見ていた。
一斉に見られたマナスは誇らしげに妾達の肩で弾んだ。
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