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6章 黒土の森

第286話 地面が愛おしい

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グルフが物凄く縮こまっているのを背中に感じる。
あまり縮こまっちゃうと上に乗っているレギさん達が危ないのだけど......。

「グルフ、しっかり支えているからもう少し体の力を抜いてあげて。」

俺が声を掛けるが、グルフには聞こえていないのか強張った体はそのままのようだ。
グルフを背中に乗せた俺は現在ゆっくりと大空洞を降りていっている。
周囲を警戒するようにナレアさんも同じ速度で降りてくれているが、今の所俺達を襲撃するような魔物はいないようだ。

「一応リィリ達の事は妾が気を付けておるので安心してよいのじゃ。」

「お願いします。グルフが想定外に怯えているようなので......。」

まぁ俺が支えているとは言え、そこも見えないような高さを降りていっているのだから怖がるのは仕方ないと思うけどね。
俺も自分が飛べるから平気だけど、他人任せで飛んでいたらと思うと......体が竦むな。

「凄い深いね......。」

「あぁ、正直さっきは走馬灯が二、三周くらいしたぜ。」

「......。」

グルフの背に乗っている二人の声が聞こえる。
それにしても走馬灯が二、三周か......振り返る時間があり過ぎるのも問題だね......。
俺は眼下に広がる闇を見通す様に、視覚の強化を強める。
まだ結構時間がかかりそうだね......グルフにはもう少し頑張ってもらうとしよう。
速度を上げたら上げたで怖がるだろうしね。



かなりの時間を費やしてゆっくりと崖の底まで降りて来た俺は、凝り固まった背中をほぐす様に伸びをする。
グルフはやっと降りる事の出来た地面に愛おしむかのように体を擦り付ける......またシャンプーしてあげないとな......。
埃まみれになるグルフを見ながらそんなことを考えていると、シャルを抱っこしたリィリさんが近づいてくる

「予想していたよりもずっと深かったよ。」

「そうですね。こんな大穴が森の下にあったのは驚きです。上の大空洞が縦に三、四個入りそうですね。」

「あーそのくらいありそうだねー。」

リィリさんがいつものようにニコニコと笑みを浮かべながら、胸に抱いていたシャルを俺に渡してくる。

「ありがとうございます。」

シャルを受け取った俺がリィリさんにお礼を言うと、リィリさんはアハハと笑いながら頭を掻く。

「いや、お礼を言うのはこっちだよケイ君。レギにぃを助けてくれてありがとう。さっきはちょっと混乱しててお礼を言いそびれてたから......遅くなってごめんね。」

一瞬呆けてしまったがリィリさんの言っている内容を理解した俺は返事をする。

「いえ、お礼を言われるようなことじゃないですけど......僕にとってもレギさんは大切な人ですから。でも......そうですね。はい、どういたしまして。」

俺がペコリと返礼をすると、今度は逆にリィリさんが一瞬きょとんとした感じになった。
しかしすぐにリィリさんはいつものように晴れやかな笑顔を見せる。

「じゃぁ、探索再会しよっか!」

リィリさんの言葉に頷いた俺はシャル......というかファラに周囲の様子を聞く。

『この周囲には幻惑魔法の気配はないみたいです。それと、私が感知できる範囲内には魔物の類は存在していないようです。』

「ありがとう、ファラ。」

「この付近にはとりあえず危険は無いようじゃな。まぁ天然の罠には気を付けるべきじゃがの。」

『その辺は私がしっかりと確認させていただきます。』

ナレアさんの懸念にファラが問題ないと伝える。
まぁ、俺達も気を付けるつもりだけど、ファラが調べてくれるのならばかなり安心できるね。

「とりあえず壁沿いに調べて行くか。ケイ、また頼んでいいか?」

「えぇ、勿論です。」

ゆっくりとシャルやファラに安全を確かめてもらいながら壁際へと近づいていく。
魔物はいないようだけど......まぁ、上にいた蛇の魔物がここに近づいたら確実に死ぬって言っていたこともあるし、他の魔物もここには近づかないと思うけど......。
でも空を飛べない魔物なら地面まで真っ逆さまだろうけど......道中にいた蝙蝠の魔物であれば別に死なない様な気がする。
もしかしたら空を飛ぶ魔物用にも何か仕掛けられているのかもしれないな。
仕掛けが落とし穴......と言うには大きすぎるけど......これだけとは思えない。
恐らく他にも色々と仕掛けがあるはずだ、シャルやファラだけじゃなく俺達もしっかりと警戒しておかないとな......。



壁に沿って探索を続ける事しばし、まだまだ端は見えてこない。
途中で何度か柱のようにそびえたつ岩があったが、柱の様ではなく多分本当に柱なのだろうね。
天然ものっぽいけど、風で削れてあんな形になったか......それとも鍾乳石的な物なのだろうか?

「めちゃくちゃ広いですね......。」

「そうじゃな。上で聞いたみたいにいくつかある洞窟が全てここに繋がっているなら、この広さも納得じゃがのう。」

横を歩くナレアさんが周囲を見渡しながら言う。

「幻惑魔法がどのくらいの年月あそこに湖を作っていたかは分からぬが......下手したら四千年間ずっとかのう?」

「仙狐様が作った幻だとしたら恐らくそうだと思います。もし眷族の方が作った幻だとしたら小まめに張りなおしているかもしれませんが......あれが仙狐様の魔法じゃないとしたら、規模が大きすぎて恐ろしいですね。」

仙狐様がこの規模で幻を作ったのだとしたらまだ納得できるのだけど、もし眷族でもこのレベルで幻を展開できるとしたら仙狐様の魔法はどんなものになるのだろうか......。
仮に、だけど......幻惑魔法の使い手と戦闘になった場合、とてもじゃないけど戦闘中に母さんから教えてもらったコツを使って幻を見分けることは出来ない。
強化魔法とはかなり相性が悪いな......弱体魔法だったらなんとか......当てることが出来れば勝てるかな......?
視認できないと弱体は掛けられないからなぁ......。
幻惑魔法の効果を見て、改めて思うけど......敵対したくない魔法だなぁ......母さんと仲が悪いってのが本当に心配だけど......大丈夫だよね......?

『ケイ様。この先の壁に幻惑魔法が掛けられている場所があるようです。お気を付けください。』

「了解。じゃぁ......。」

「ケイ、一度ここで止まるのじゃ。ファラ、シャルに弱体を解くように言ってもらえるかの?」

『承知いたしました。』

「どうしたのですか?ナレアさん。」

「うむ、ここで少し打ち合わせをしたいのじゃ。上で話した時はまだ思い至らなかったのじゃが......ここまで歩いている間に幻術を使った罠について考えたのじゃ。幻と現実の両方を使った罠の場合、今のやり方では幻であることは分かったとしても、その先の危険までは把握できないのじゃ。」

「えっと......どういうことですか?」

ナレアさんが難しい顔をしながら説明してくれたが、いまいちピンとこない。
幻と現実を使った罠と言うのは分かるけど......その先の危険ってどういうことだろうか?

「あー、つまりだ。上の仕掛けにしたって、地面の一帯に幻惑魔法が使われていることは分かってもその下がどうなっているのか分からないのだろ?」

ん......?
床が幻なのだとしたらその先は落とし穴になっているのでは......?

「......ケイにしては察しが悪いのう?そうじゃな......例えば、この上の幻を例にするなら、幻を抜けた先が毒沼......という可能性もあったはずじゃ。」

「あっ......。」

確かに......。
幻は何でもありって言ったのは自分じゃないか......なんで落とし穴だと......あぁ、自分で断崖絶壁に地面の幻を作るって話をしたから考えが凝り固まっていたのか。

「匂いや触感、音も誤魔化せるということじゃし、シャルの魔力による地形感知も効かぬのじゃ。次は壁が幻と言うことじゃし、そこを抜けた先がどうなっているか......落とし穴であれば妾達は飛べばいいが......抜けた先に剣が設置されていたとして、触覚や痛覚を誤魔化されて自ら刺さりに行ったとしたら......?」

......滅茶苦茶怖いのですが。
でもそう言ったことはあり得るのか......。

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