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6章 黒土の森

第282話 地底湖

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蛇の魔物に会った翌日、俺達は再び洞窟に戻り地底湖を目指していた。
今日はグルフも一緒だが、そのグルフは一緒に行動出来ていることを非常に喜んでいるようで、尻尾が回転せんばかりに振られている。
そんな状態でも警戒は解いていないようで、グルフの耳は小さな物音一つ聞き逃さない様に常にピンと立っていた。
昨日の蛇の魔物の話ではもうそろそろ地底湖のある階層まで下ったはずだ。
下まで下り切ってしまえば後はまっすぐ進めばすぐに地底湖がみえてくるそうだ......昨日の時点で先にファラに偵察に行ってもらうと言う話も出たのだが、ファラには話に出た他の地点を調べて貰うと言うことで地上の方の湖、そして巨木地帯の方に行ってもらうことにしたのだ。
そんなわけで、今日はファラを除く全員で地底湖に向かっている。

「結構深くまで下ってきましたね。」

「うむ。蛇の話では大空洞と呼べるほどの大きな空間が広がっておるらしいからのう。危険な魔物がおるかも知れぬが......その景色は少し楽しみなのじゃ。」

そう言って目を輝かせるナレアさん。
そして後ろを歩きながらうんうんと頷いているリィリさん。
確かに......巨大な地底湖と言うのは俺も見てみたい気がする。

「下りが終わるぞ。」

先頭を歩いているレギさんが肩越しに声を掛けてくる。
どうやら道が平坦になったようだ。
ここからそう遠くない距離に地底湖が、そしてこの森に住む魔物が恐れる何かが存在するわけだ......。
先程までとは違い、リィリさん達の表情が引き締まる。

『ケイ様。危険だと思ったら私が前に出ます。』

シャルが洞窟の奥に視線を向けた後に俺に宣言する。
基本的にシャル達は俺達が戦闘になる場合、俺が指示した時以外は手を出さない様にしてもらっている。
俺の経験の為だけど......そう考えるとグルフの事で渋っていた俺は......うん、やめておこう。

「うん、わかったよ。皆を守って。」

『承知いたしました。』

シャルが力強く頷いてくれる。
俺達の中で一番強いのはシャルだ。
というかぶっちぎって強いだろう......未だに鬼ごっこでシャルの体にかすることも出来ないしね......。
シャルが戦闘に参加すると一瞬でケリがつくと思うけど......確か応龍様の眷属の中にシャルと戦えるくらいの者がいるって言っていたし、仙狐様の眷属にもいるかもしれない。
もし地底湖で近づいてくるものを屠っているのがそういう存在だとしたら、危険どころの騒ぎじゃない。

「ここで強化魔法を掛け直します。普段より強く掛けますが、皆が体験したことのある範囲の中で掛けるので大丈夫だとは思います。でも一応、初動は気を付けてくださいね。」

「おう、頼む。」

レギさんの返事を受けて俺は皆に強化魔法を掛ける。
シャルの本気には流石に対応できないだろうけど、これで大抵の不意打ちには対応出来るはずだ。
油断さえしなければいきなりやられてしまうことはないだろう。
強化魔法を掛けた俺達は慎重な足取りで平坦になった道を進んでいく。
聞いていたようにすぐに開けた場所が見えてくる、その中心には膨大な量の水を湛えた地底湖が見えてくる。
光源がなく、テレビで見たことがある様な神秘的な光景と言った感じではないが自然の雄大さを感じさせる。
俺達の呼吸音を飲み込んでいく巨大な空間、そして鏡のような静寂を湛えた湖面は生命の息吹を一切感じさせない。
まるで目の前の風景が切り取られた絵画の様だと感じさせる静謐。
俺達は一瞬、警戒を忘れて目の前に広がる光景を見入る。
強化された感覚はこの風景の中に俺達以外の生命がいないと告げて来ているが......気づけないだけでここには何かがいるはずだ。
すぐに意識をこの光景から警戒へと向けた俺達は目くばせをする。
皆もこの場に何かの脅威がいるようには感じられないようだ......。

「シャル、何かいるかな?」

『いえ......私には何も感じられません。』

シャルも感じられない......ということは、今相手はこの場にいないのか......それともシャルにも気取られないような相手なのか......。
いずれにしろこの場に立ち止まっていても仕方がない。
俺達はゆっくりと地底湖のほうへと足を進める。
隊列は今まで通り、レギさんを先頭に俺とナレアさん、シャルが続き、その後ろをリィリさんとグルフ。
因みにマナスは当然のように俺の肩に乗っているが、主に俺達の死角になりやすい上方を警戒してくれている。
お互いの邪魔にならない程度に距離を開けて歩くが......やはりこの空間には俺達以外誰もいないように感じる......。

「静かだな......。」

「......そうですね。」

もうすぐ湖のふちに辿り着きそうだが......まだ何も出てくるような気配はない。

「湖の中に潜んでいる......もしくは湖に溜まっているのは水じゃなくって毒とか......。」

「この量の毒が地下にあったら......地上にあんなに森が広がるか?」

「それもそうですね......。」

地上に生えている木もそうだし、湧き水も特に問題ない物だった。
もしこの湖が有毒なものだとしたら地上にも何らかの影響が出ていてもおかしくは無い筈だ。

「じゃが、警戒はしておいた方がいいじゃろうな。毒かどうかはともかくとして、水辺は引きずり込まれでもしたら成す術なくやられかねんのじゃ。」

「そうだな......とりあえず水辺は後回しにして周囲を調べて行こう。安全確保が出来てから湖を調べるとするか。」

「分かりました。」

湖に向かう足を一度止めて、俺達はまずは湖の周囲を調べることにした。
進む方向を変えてレギさんが湖に沿う様に進みだす。
右手には湖、左手は巨大な空間が広がっている。

「なっ......!?」

慎重な足取りで先頭を歩いていたレギさんが突然声を上げ、次の瞬間俺達の眼前から姿を消した!

「レギにぃ!」

「まて!リィリ!」

突然消えたレギさんに慌てたリィリさんが飛び出そうとするも、ナレアさんが慌てて抑える。

「ナレアさん、リィリさんを止めておいてください!」

そう叫んだ俺はレギさんが消えた場所に飛び込む!

「ケイ!待つ......!」

ナレアさんの声が途中で聞こえなくなった。
制止が聞こえたが、今は一瞬が命取りの状況のはずだ。
俺の体は地面をすり抜け、全身が浮遊感に包まれる。
レギさんが消えた一瞬、俺の目はレギさんが地面の中に落ちていくのを捕らえていた。

『ケイ様!』

俺より一瞬早く地面に飛び込んだシャルに並んだ俺は、魔法を発動して落下を加速させる。
目の前に広がっているのは底なしにも見える深い谷。
そして前を落下していくレギさんの姿。

「レギさん!」

「ケイ!」

急接近する俺に気付いたレギさんが手を伸ばしてくる。
俺は更に落下速度を上げて、手を掴み引き寄せるようにレギさんの体をしっかりと抱きしめると同時に急いで落下速度を緩めるが......物凄い力が下方向に掛かった。
きっつぃなこれ!?
俺は体を半回転させて仰向け状態になり、レギさんを手放さない様にしっかりと腕に力を込め減速をしていく。
速度が緩んできた為シャルが追い付いてきた。
俺はシャルを受け止められる位置に移動する。

「シャル!体を小さく!俺達の上に乗って!」

『も、申し訳ありません!』

俺の指示に従いシャルが子犬サイズに変化する。
気合を入れて減速するとシャルがレギさんの背中に着地した。
よし、これで全員だ。

「ケイ、まずい!地面が見えてきたぞ!」

やばい!
レギさんに追いつくために思いっきり加速したからまだ減速しきれていない!
でもシャルよりも遅くなったと言うことはもうそろそろ止まれる!

「このおおおおおおおお!」

雄叫びを上げながら、俺達は背中に広がる衝撃と共に地面へとたどり着いた。

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