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6章 黒土の森

第279話 思い返せば規格外

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「今の所分かっているのは、奥に大型の魔物が一匹だよね?」

『はい、私の関知範囲内にいる魔物はその一匹だけです。』

ケイブバットを倒した後、もう一度この先にいる魔物について確認しておく。
その大型の魔物がいるのが洞窟の最奥かどうかはまだ分からないけど......シャルに頼めば洞窟内部がどんな感じになっているか把握できるかな?

「そう言えば、ファラはシャルみたいに魔力を使って洞窟内の構造把握とかは出来るのかな?」

『申し訳ありません。私はそこまで魔力の扱いに長けてはいないので、探知範囲もそこまで広くはありませんし。ですので自らの足と目で確認する以上の事は......。』

「そうなんだ。」

シャルみたいにするのは無理なのか。
何でも出来そうなファラが出来ないって言うのだから、思っていた以上に高等な技術なのかな?
そういえばナレアさんもそういうことは出来ないって言っていたし、シャルが凄いのだな。
俺が傍を歩いているシャルを見ると、どこか得意げにシャルが尻尾を揺らしていた。
俺は手を伸ばしてシャルを軽く撫でる。
撫でられたシャルは少し驚いたようだったがすぐに嬉しそうに尻尾を振りだす。
シャルは今少し大きめな成犬サイズに体を変化させていた。
この大きさだと可愛いより格好いいって感じが強いな。
洞窟の暗闇の中でも視覚強化のお陰でシャルの姿もはっきり見えるけど、暗視が出来ない状態だったらシャルの事を見つけるのは不可能だろうね。
シャルは基本的に音を殆ど立てることがないし、闇に完全に同化している感じだ。
かくれんぼをするとシャルはハンデとして体を大きい状態にして隠れてくれるのだけど......俺は一度も制限時間内にシャルを見つけた事がない。
というかグルフ以外を見つけるのは非常に難しい。
マナスは木のうろの中に入っていたりするし、ファラは落ち葉に紛れたりと一筋縄ではいかない。
グルフは......最初の頃、はしゃぎすぎてどこに隠れていても尻尾をブンブン振っていたからね......。
しかしシャルの場合、そこにいても全く気付くことが出来ないのだ。
目に映っているにも拘らずシャルに気付けないと言うのは不思議な感じだけど、あれはどういった技術なのだろうか......?
シャルにはどうやるのか聞いてみたけど......感覚的に出来てしまうらしく説明が難しいとのことだった。

「その大型の魔物はどのくらい距離があるのかの?」

『そこそこ離れています。入り口からここまでの距離の倍程度でしょうか?』

ナレアさんの問いかけにシャルが答えてくれる。
まぁ、俺にだけど......。

「結構離れているみたいですね。洞窟自体もかなり広いみたいで、まだ半分も来ていないようです。」

「ふむ。想像していたよりも広い洞窟の様じゃな。」

ナレアさんが洞窟の奥に目を向けながら呟く。

「何か手がかりが見つかるといいけどな。」

「そうですね。ここまで何もありませんでしたし......ここらで一つくらい何かを見つけたいものです。」

とはいう物の、下手をすればこの辺は既に仙狐様の幻術の範囲という可能性もある。
俺が隠す側なら隠したいものは何もない場所に紛れ込ませる。
幻惑魔法にはそれが出来るはずだ。
そしてこの洞窟は、黒土の森に来て初めての変化だ。
俺なら絶対ここに罠を仕掛ける。
皆も同じことを考えているだろう。
雑談を続けつつも隊列は崩さず、周囲への注意を切らしていない。
突入時のレギさんを先頭にする隊列を維持しながら俺達は洞窟を進んでいく。
例え罠であっても何か手がかりが欲しいと考えながら。



何の変哲もない洞窟......いや、違いが分かるほど洞窟には精通していないけど......少し幅は狭くなったものの入口から特に雰囲気は変わることなく洞窟は続いていた。
今の所罠はない......けど幻術によって騙されている可能性は否定できない。
幻術があるかも知れないという情報だけでこちらを消耗させることが出来るし、色々な状況に対して疑心暗鬼に出来る......いや、仙狐様にはそんなつもりはないかもしれないけどね。
一応母さんに教えてもらった、幻を見破るコツってのを偶に試しているのだけど......反応が何もないので上手くいっているのかどうかすら分からない......。

「結構奥まで来たと思うけど、そろそろかな?」

『そうですね。もう少しいった所でしょうか?かなり近くはなっています。』

俺の問いかけにシャルが答える。

「ありがとうシャル。ファラ、また偵察をお願いしてもいいかな?」

『承知いたしました。こちらでお待ちください、すぐに調べてまいります。』

「よろしくお願いね。」

ファラが先ほどと同じように一人洞窟の奥へと駆け出していく。

「次は大型か。今回はどのくらいの大きさなんだ?」

ファラを見送った後、レギさんが俺に問いかけてくる。
まぁ、俺を通してファラに聞いているのだろうけど。

「シャル、分かる?」

『そうですね。グルフよりも大きいようです。』

「グルフより大きいの!?」

相当大きいな......これは結構手強い魔物かも知れないな。

「グルフより大きいのか......そういえばファラが先行で偵察に来た時に、グルフと同程度の強さの魔物がいたと言っていたな。」

思わず口から出た言葉を聞いたレギさんが難しい表情をする。

「体の大きさが、必ずしも強さに直結するわけでは無いが......普通に考えて強力な魔物じゃろうなぁ。」

「ダンジョンでもないのにそんな大型の魔物がいるのは珍しいよね。」

「でも、母さんの神域も応龍様の神域も傍には大型の魔物がいたと思いますけど。」

応龍様の神域の方は眷属だから魔物とは違うか?

「そういえばそうだね。やっぱり人の手の届かない領域には強力な魔物が多くいるのかな?」

「元々人間よりも遥かに魔物の方が強いからな。強力な魔物を避けて俺達は生息圏を広げていったわけで、こういった場所に強力な魔物がいるのは必然かもな。」

レギさんとリィリさんが魔物について話をしている。
グルフサイズの魔物......というか、グルフのお爺さんが街近くの森にいた時はかなりの大騒動だったみたいだし......そもそもそこまで強力と言われていない魔物であっても普通に生活している人達にとってはかなりの脅威なんだよね。
戦闘のプロに討伐を依頼する程度には危険なんだから、グルフサイズの魔物なんて悪夢以外の何物でもないだろう。

「まぁ、どのくらいの魔物かは分からぬが......グルフと同程度であれば妾達なら何とかなるかのう。」

「......俺はケイの強化魔法と魔道具頼りとは言え......とんでもない話だな。」

「まぁ妾も強化魔法が無いと少し厳しいが、遠距離であれば何とかなるかのう。」

「私は多分そのままで大丈夫かなぁ?」

レギさんも自分に強化魔法を掛ける魔道具とデリータさんに魔術式を組んでもらった魔道具の組み合わせを使えば、グルフに勝つのは難しくないと思う。
レギさんは俺の魔法と言い続けるけど、魔道具自体はレギさんに渡している物だし気にしなくてもいいと思うけど......俺がいないと神域産魔晶石の魔力補充とかが出来ないから、自分の能力として数えたくないってことだろうか?
まぁ、考えてみれば......もし逆の立場であれば自分の力とは言えないかな?

「まぁ戦うことになるかは分からんが、相手は大型の魔物だ。わざわざ個人で戦う必要はないだろう。さっきはナレアとケイの連携だったが、今回は俺たち全員で連携の練習をさせてもらおう。」

「うーん、グルフちゃん一人相手に私達四人ってかなりきついんじゃないかな?」

グルフ一人に四人がかり......結構虐めにしか見えない感じだな。
俺の想像の中で四人に囲まれたグルフが尻尾を垂れ下げ、耳も寝かせてきゅんきゅん鳴いている。
皆も似たような想像をしたのか、ちょっと困ったような表情になっている。

「レギにぃ......グルフちゃんが可哀想......。」

「いや、お前らグルフで想像するなよ。相手はグルフより大きな魔物であってグルフは関係ないぞ。」

「まぁ、確かにそうなのですけど......グルフを物差しにして皆話すのでどうしても......。」

想像する時の相手はグルフになっちゃうのだよね。
洞窟の入り口で待っているグルフも、自分が皆の想像の中で大変な目に合わされているなんて考えてもいないだろうけどね。

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