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6章 黒土の森
第276話 食材は豊富
しおりを挟む黒土の森の探索を始めてから十日程が経過した。
ファラが事前に調べてくれていた森の範囲から考えると、土が黒い範囲の三分の一くらいは調べたと思う。
それにしても......。
「遅々として調査が進みませんね。」
「そうだな。幻惑魔法を警戒しているってのもあるが、森の険しさが尋常じゃないな。」
「どこも同じ景色にしか見えぬしのう。目印を設置しながら調べてはいるが......今の所何の変哲もない森でしかないのう。」
「グルフちゃん達がいるから魔物は殆ど寄ってこないけど......遠目に見える魔物はあまり見たことが無い子ばっかりだね。」
リィリさんが遠くの方で息をひそめている魔物を見ながら言う。
あれは......二足歩行の魔物かな?
「そう言えば、グラニダ領内では殆ど魔物は見ませんでしたね。」
「まぁ、そうじゃな。兵が巡回を結構力を入れてやっておったしのう。龍王国は山が多いから騎士団が巡回しても限界があったが、グラニダは平地が多く、森もあまり大きなものがなかったからのう。」
「この森は魔物の宝庫って感じですね。母さんのいた森とはかなり違います。」
「確かにそうじゃな。シャル達がいなかったら探索どころではなかったかも知れぬのじゃ。」
シャル達のお陰で魔物がびびって近寄ってくることが無い。
もし探索中に現在もそこかしこからこちらを窺っている魔物が押し寄せて来ていたら、いまだに殆ど探索は進んでいなかっただろうことは想像に難くない。
「しかし、この調子だと一通り調べ終えるのにはまだまだかかりそうだな。」
「もう食材もグラニダで仕入れた分は尽きましたね。」
「そうだな......まぁ食材には困らないが......。」
そう言って顔を上げたレギさんの視線を追いかけると、何やら果物が生っているのが見える。
「あれは初めて見る果物だね。」
同じくレギさんの視線の先を確認したリィリさんが呟くと、次の瞬間ひょいと言った感じで果物のなっている枝まで跳び上がったリィリさんが果物を手にして降りて来た。
「匂いは......ちょっとスッとした感じかな?」
そう言って手で皮を剝き、中身を自分の手の甲に乗せる。
リィリさんはそのまま暫く果物を手の甲に乗せていたがやがて口に含んだ。
俺達が見守る中、舌の上にのせていた果物を吐き出したリィリさんが少し残念そうな声を出す。
「とりあえず毒は無さそうだけど、あまりおいしくはないかなぁ。えぐみが強い......そのまま食べるのは向いてないから持って帰ってみようかな。」
そう言って腰に下げた袋に丁寧に果物を入れるリィリさん。
一応持って帰って食べようとするのは相変わらず......まぁ確かに森の恵みは豊富とは言え、新しい食材を得るのは大事なことだからね。
そんな風に細々と採取もしつつ探索を続けていると、俺達とは少し離れた位置を調べていたファラが近づいてきた。
『ケイ様。向こうに洞窟を発見しました。調べてこようと思いますが、よろしいでしょうか?』
「洞窟か......ここまで怪しいと思えるような場所もなかったし、レギさん僕達も洞窟に行ってみませんか?」
「そうだな。気分転換がてら洞窟探索をするのもいいかもしれないな。」
「うむ、妾も賛成じゃ。」
「洞窟かー果物は無理だろうけど......蛇とか獲れるかな?」
リィリさんはともかく、他の皆も賛成のようだね。
まぁこの十日間の探索で初めての変化といってもいいからな.....行けども行けども風景は変わらず木々が生い茂る暗い森の中。
肉体的な疲労は殆ど無いにしても、精神的には皆疲れていたのだろう。
付き合ってもらっている身としては心苦しいばかりだけど......。
「じゃぁ、ファラ。その洞窟まで案内してもらえるかな?」
「承知いたしました。こちらです。」
ファラの先導に従って俺達は洞窟を目指す。
それにしてもさっきリィリさんが言った蛇って......食用だよね?
まだ食べたことはないけど......なんかよく鶏肉みたいだって聞くね。
でもそれなら鳥を頂きたいな......。
木の上に止まっている鳥を見上げながら、蛇が出てこなければいいなぁと祈らずにはいられなかった。
ファラの案内で辿り着いた洞窟は俺が想像していたよりもかなり大きな口を開けていた。
俺達四人が横並びで進んでもとりあえずは問題なさそうだね。
俺は手に持った松明に火をつけて洞窟の中に放り込む。
松明の火が消えないところを見ると空気はあるみたいだ。
「流石に中に魔物がいたら戦闘は避けられぬじゃろうな。」
仮に入り口が複数個所あったとしても、自由に逃げられる野外と違って襲い掛かってくる可能性の方が高いだろう。
どんな魔物がいるか分からないけど......よっぽどの事がない限り大丈夫なはずだ。
「寧ろ中に魔物がいる方が安心できますけど......神域には遠ざかりそうですね。」
母さんの神域も応龍様の神域も、付近に普通の魔物は生息していなかった。
仙狐様も同じであるならば、寧ろ魔物のいない方に行った方がいいのかもしれないな......。
そう考えた俺はファラに提案をしてみる。
「ファラ、ネズミ君達を使ってこの森の魔物の分布を調べられないかな?母さんや応龍様の神域の事を考えると、例え結界があったとしても神域の傍には普通の魔物はあまりいなかったと思うんだ。」
『承知いたしました。最優先で調べさせます。』
「ふむ......魔物の分布か......悪くないかもしれぬのう。」
俺がファラに出した指示を聞いてナレアさんが言ってくる。
「まぁ、そううまくはいかないかもしれませんが。母さん達の神域と違って仙狐様の魔法が魔物の感覚を狂わせている可能性は高いですし。」
「駄目元であれ、やっておいて損はしないのじゃ。もし調べた分布図が神域を見つけるのに役に立たなかったとしても、グラニダに戻った後カザンにでも売りつけてやれば感謝されるじゃろ。無駄にはならんのじゃ。」
......なるほど、それは考えていなかったな。
「そうだな。今は隣接していないとは言え、俺達が通ってきた土地の様子を見る限り......そう遠くない内にあそこもグラニダの領内になるだろうよ。そうならなかったとしても魔物の情報は嬉しい筈だ。」
レギさんも悪くない話だと言ってくれる。
ただの思い付きで出した指示だったけど......皆色んなことをパッと考えつけて凄いなぁ......。
「食材分布地図もしっかり作ってるよ。」
リィリさんはいつもブレなくて凄いなぁ。
「よし、そろそろ洞窟探索を始めるとするか。入り口付近は広いみたいだが、一応隊列は組むぞ。先頭は俺が、その後はケイ、ナレア、リィリの順で。グルフは入り口で待機だ。」
「了解です。」
レギさんの指示に全員が頷く。
入り口は大きいからグルフも中に入れそうだけど、奥の方が狭くなっている可能性は高いからね。
少し寂しそうにしているグルフだったが、背伸びをして耳の後ろを撫でてあげると気持ちよさそうにした後、洞窟の入り口の横でお座り状態になった。
「レギにぃ、蛇がいたら教えてねー。」
やはり蛇を食すことを諦めていないのか......。
今の所食料の確保には苦労していないので、是非ともこの洞窟にいる蛇君は巣穴の奥で震えながら眠っていて欲しいものです。
レギさんがリィリさんに適当な感じで返事をした後、洞窟へと足を踏み入れる。
さて、鬼が出るか蛇が......いや蛇は出たらダメだな。
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