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6章 黒土の森
第274話 遠きに見ゆる
しおりを挟む「やはり、グラニダはすげぇな。」
「......そうですね。まさかグラニダの領境を越えたと思ったらすぐに荒廃した土地が広がっているとは思いませんでしたよ。」
グラニダを出発して三日目の夜。
俺達は予定していた地点まで移動し、野営をしていた。
ここに来るまで人との遭遇は無かったのだが......当然のように魔物は闊歩していたし、廃村も二か所目にした。
「難民がグラニダを目指して移動するのも頷けるよね。」
「まぁ、そうじゃな。廃村の様子を見るに生活水準が天と地ほどの差があると言っても大げさではないのじゃ。正直、あの辺りを領地と主張している勢力は殆ど盗賊と変わらぬのではないかのう?」
「盗賊ですか?」
ナレアさんの表現があまりピンと来なかったので聞き返す。
盗賊が治める領地?
アウトローな人たちが管理するって意味ではないと思うけど......。
「うむ。税というのは見返りがあるからこそ納めるものじゃ。多くの場合は安全と引き換えじゃな。納める方も納められる方も勘違いしていることが多々あるのじゃが、税とは私腹を肥やす為のものではなく、集めた税を使ってその土地に住まう者達をより豊かにするために使う物じゃ。私腹を肥やすために税を払わせるならそれは略取であり、武力をちらつかせるならそれはただの略奪じゃ。」
税を持って行くだけの奴はただの盗賊ということか。
「政治とは詰まるところ金じゃ。どうやって金を稼ぐか。どうやって金を使うか。それに尽きる。」
「世知辛いですね......。」
「還元することを放棄してため込む、もしくは自分の欲の為に使う者は上に立つ資格はない。じゃが、規模が大きくなれば大きくなるほど、税の使い道は透明性を無くしていき、何に使われているのか分からなくなる。それを如何にして目に見える形に持って行くかが重要ということじゃ。如何に優れた統治をしていたとしても、目に見えぬ所ばかりに力を入れると不満が爆発するのじゃ。人間とは利己的な生き物じゃからな。」
「世知辛いですね......。」
何と言うか、同じ台詞しか出てこない......。
どの世界でも、世の中金か......。
「優れた為政者は民のガス抜きも上手いということじゃ。とはいえ、今日抜けて来た場所はそれ以前の問題じゃ。およそ統治機構がまともに機能しているとは思えぬのう。」
廃村が二つ、殆ど廃墟と言った感じだったけど争いがあって逃げ出したと言う感じではなかった。
どちらかというと持てる物を持って逃げたって雰囲気だったように思う。
もしかしたらグラニダに難民として逃げて行ったのかもしれない。
それにしてもナレアさんはこういった話題に熱くなる傾向があるね、何か思う所があるのだろうけど......。
「まぁ、ない物は他所から奪えって考えをするような人間が、まともな統治をするはずがないわな。」
レギさんがたき火に薪を放り込みながら言う。
「カザン君はこれからも苦労しそうだねぇ。」
グラニダの中だけではなく、これからは領主として外の勢力との戦いもあるのだろう。
「何か手助けを頼まれるようなら助けるが、基本的にグラニダの事に関して俺達は関わるべきじゃないからな。」
「うむ。苦労はするじゃろうが、カザンなら大丈夫じゃろう。周りに支える人間もおるしのう。さて、妾が始めたようなものじゃが、とりあえず通り過ぎた場所の話はもういいじゃろ。それよりこの先じゃな。」
そう言ってナレアさんは少し離れた位置に見える森に目を向ける。
「あれが黒土の森ってことでいいのか?」
「はい、先行したファラが言うには地図に描かれていた森で間違いないとのことです。ファラからはマナスを通じて連絡がありましたが......まだ森のほうに......あ、来ましたね。」
まさに噂をすればというタイミングでファラがやってくる。
『皆様、申し訳ありません、遅くなりました。道中問題はありませんでしたか?』
「うん、特に問題はなくここまで来ることが出来たよ。ファラの方はどうだった?」
『残念ながらといいますか......今日まで特に何もありませんでした。ケイ様、マナスが描いた地図があると思うのですが、そちらを見ながら説明させていただいてもよろしいでしょうか?。』
「うん、ちょっと待ってね。持ってくるよ」
先程、野営の準備をしていた時にマナスが描いていた地図をテントから持ってきて地面に広げた。
『現在、我々がいるのがこの位置です。』
ファラが尻尾で地図の一点を示す。
黒土の森の北西......と言ってもまだ北上する形で森は広がっている......まぁ、南の方はそれよりももっと広いけど。
「カザン君の所で見た地図よりも森がデカそうだね......。」
「そうだな......下手したらグラニダより広くないか?」
レギさん達が言う様に、確かにかなりデカい。
縮尺が同じか分からないけど、カザン君の所で写させてもらったグラニダ領内の地図がすっぽりとおさまってしまいそうだ。
『森自体はかなりの広さがありますが、今回私は森の中央部から調査を開始しました。森の外周に関しては配下の者に調べさせましたが、地図の精度は問題ありません。』
まぁ、四千年前の時点で森と呼ばれていたからには今ではその頃以上に広がっている可能性は高いよね。
この辺は開拓も進んでい無さそうだし、火事とかで燃えていない限りは......。
『中心に近づくと生えている木も樹齢が上がっていきました。特に中央部は非常に巨大な樹木が並んでおりました。また外周部はそうでもなかったのですが、森深くまで入ると地面が黒くなり、黒土の森と当時呼ばれていた所以だと思われます。』
樹齢か......屋久島杉みたいなでっかい木がごろごろしているのだろうか?
そう言えば屋久島の杉の木って樹齢どのくらいなんだっけ......?
っと今はそんなことを考えている場合じゃないな。
「ファラよ、人の入った痕跡は見つかったかの?」
俺が余計な事を考えている間にナレアさんから質問が飛ぶ。
『こちらとは反対側の外周部。東の端の方にいくつか人の痕跡を見つけることが出来ました。ですが森のかなり浅い部分までですね。少し奥まで行くと魔物も多数生息しているのであまり奥まではいかない様にしているのだと思われます。』
「なるほど......では木を切り崩したりはしていないと言うことじゃな?」
『はい、恐らく薬草の採取程度でしょう。罠の痕跡も見当たらなかったので狩り等もしていないと考えられます。』
「東側に行っても森に関する情報は取れなさそうじゃのう。」
『一応周辺に集落がないか確認させていますが、東から南に掛けて多少人の出入りがあると言った程度のようです。森の魔物は比較的強力なものが多いようなので不可侵としているようです。』
「強力な魔物か......どのくらいの強さか分かるか?」
レギさんが地図から顔を上げ、難しい顔をしながらファラに問いかける。
『私が確認したもので、一番強いのはグルフと同程度でしょうか?』
「それは大問題だな......。」
軍隊が出動するレベルか......しかもそれでも勝てる保証はないって感じだよね。
『力のわりに知能が低く、こちらの話も聞かなかったので既に討伐しておきました。』
「......そ、そうか。」
グルフと同程度は事も無げに倒したって言われる程度か......。
レギさんが若干引いてるけど......強化魔法ありならレギさんでも余裕だと思うけどな。
特にファラの言う様に頭が悪い魔物だったら、レギさんなら強化無しでも勝ち筋を見つけられるんじゃないだろうか?
「何か珍しい食材はあったかな?」
......リィリさんはブレないな。
『はい。野草や木の実、果物も多少。後で地図に大体の採取位置を書いておきます。』
「ありがとー。楽しみだな。」
「......まぁ、食料も大事だが......水場はどうだ?」
『はい、何カ所か見つけてあります。川や湧き水がありました。』
「なるほど......ケイ達の魔法があるとは言え、水を確保する手段は多いに越したことはないしな。」
「水を飲みに来る動物を狩れるしね。」
リィリさんの言うことは間違ってはいないのだけど......いや、間違ってないです、はい。
リィリさんがにっこりとほほ笑みながらこちらを向いたので全力で肯定しておく。
食料は当然大事ですよね、お肉も食べたいですしね!
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