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5章 東の地

第271話 お風呂いれます

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「ただいま戻ったのじゃ。」

「おかえりなさいませ。ナレア姉様!」

「おかえりなさい、ナレアさん。」

龍王国から帰ってきたナレアさんを、領主館の玄関先で迎えた俺とノーラちゃん。
俺の家でもないのにおかえりって言うのも違和感を感じないでもないけど、まぁ大目に見てもらいたい。
一応ナレアさんとは毎日連絡を取っていたから少しは話を聞いていたけど、流石に結構疲れたみたいだね。
どことなくやつれて見える気がする。

「ふぅ、流石に疲れたのじゃ。やはりフロートボードよりも魔力消費は激しいのう。」

「お疲れ様です。お風呂とか用意しましょうか?」

毎日お風呂を用意してもらうのはかなりの重労働なので、最近は俺がお風呂を入れさせてもらっているのだ。
ナレアさんの作ってくれたお風呂用魔道具を貸し出すことも考えたのだけど、神域産の魔晶石をほいほい貸し出す訳にもいかなかったのでやめておいたのだ。
因みにもう少し練習すれば、ナレアさんの魔道具を使わなくても天地魔法でいい温度のお湯を作ることが出来そうなんだよね......。
物凄く温いか物凄く熱いお湯は作れるようになったのだけど、細かい調整が難しいのだ。
一回突沸したことがあって、大やけどをする羽目になったのはいい思い出......ではないな。
泡が出ていないから温度が低いのかと油断したのだけど......回復魔法があって良かったよ......。

「そうじゃなぁ......頼んでもいいかの?妾は少しカザンの所に行ってくるのじゃ。」

「分かりました。じゃぁ、お風呂が入ったらカザン君の所に声掛けに行きますね。」

「すまぬのう。よろしく頼むのじゃ。」

ナレアさんとノーラちゃんが、手を繋いでカザン君の執務室のある二階へと階段を登っていく。
浴場は一階だけど、浴場に行く前に侍女さんにでも断りを入れておかないとね。
俺は誰かいないかと館内を当てもなくうろつくことにした。



「カザン君。ケイだけど、今いいかな?」

俺が執務室の扉をノックしながら部屋の中に声を掛けると、すぐにカザン君から返事があった。
扉を開いて中に入ると、応接テーブルに向かい合わせで座っているナレアさんとカザン君がこちらを見ていた。
ノーラちゃんはいないようだな......。

「ナレアさん、準備出来ましたよ。」

「うむ、ケイすまぬのう。感謝するのじゃ。」

「お風呂を用意されていたのですよね?すみません、お客様であるケイさんにわざわざそんなことをさせて。」

「いやいや、図々しくお風呂を毎日使わせてもらっているんだし、このくらいは用意させてよ。」

「ケイさんのお陰というか、ケイさんのせいというか......今我が家では皆お風呂にはまりつつ......いや完全にはまっていますね。」

良いことじゃないか......このままグラニダにお風呂文化を浸透させよう。

「まぁ、使用人達が......ケイさんがグラニダを発った後の事を考えて戦々恐々としているようですが......。」

「あー......。」

それが問題だ......お風呂を入れるのはかなりの重労働なんだよね。
やはり蛇口と給湯器が必要か......。
蛇口はともかく給湯器だな......魔道具でいけそうだけど......問題はナレアさんに作ってもらった魔道具は神域産の魔晶石を使っているところだよね。
一般的な魔晶石で作れないものだろうか......?
俺はちらりとナレアさんの方を見てしまう。

「まぁ、すぐにとはいかぬが......その内着手してもいいかものう。風呂と言う文化を広げた第一人者として名を遺すのも悪くないじゃろ。」

目が合ったナレアさんがすぐに俺の言いたい事を汲んで、そんな風に言ってくれる。

「手軽に一般の方も入れるようにするのが目標ですね。一般に流通している魔晶石で長いこと使うことが出来ることが大事だと思います。」

「簡単に言うが、かなり難しいのじゃぞ?そう簡単に効率化が出来てたまるものか。」

ナレアさんが無茶ばかり言いおってと文句を言う。

「その技術を良く知らない人は簡単に、無責任にそう言うことを言う物です。」

しかもそれも無茶を言っている自覚無しに言うからたちが悪いんだよね。
ぶつくさとナレアさんが文句を言っているのを見ながらそんなことを思っていると、カザン君がにこにこしながらこちらを見ていることに気付いた。

「どうしたのカザン君?」

「いや、お二人は仲がいいなぁと思いまして。」

「「......?」」

突然どうしたのだろうか?
俺とナレアさんは二人そろって疑問符を浮かべているのだが、その様子もカザン君にとっては面白かったようで笑みを深くする。

「なんで急にそんな話に?」

俺はカザン君の向かい側、ナレアさんの横に座りながら問いかける。
何故かナレアさんが俺の方を見てぎょっとした様子を見せたのが気になったけど、今はとりあえずカザン君だ。

「いえ、ケイさんはナレアさんが戻ってきて早速お風呂を用意してあげていますし......ナレアさんは疲労を押して、ケイさんの望みに応えようと文句を言いながらも一生懸命考えていますし。」

「いや、お風呂入れるのはそんな大層な作業じゃないし?」

「うむ、魔道具を考えるのは妾の趣味みたいなものじゃし?」

俺とナレアさんはうがち過ぎだと言う様に揃って否定する。
否定しつつ、ナレアさんが俺から距離を取るようにソファーの上で横に移動していく。
近すぎただろうか......?

「旅の埃は早々に落としたいだろうし、疲れている時はお風呂に入って体を温めてから寝ると疲れがとれやすいからね。他意はないよ?」

「僕の時は魔法で回復しただけでお風呂は用意してくれませんでしたが......。」

「いや、カザン君の場合は今にも死にそうな顔をしていたから即効性のある回復魔法を使ったんじゃないか......。ナレアさんの場合は......疲れてはいるだろうけど、そこまでじゃないというか......。」

そもそもナレアさんは疲労回復くらいは自分で出来るしね。

「へぇ......。」

何やら含みを感じさせる相槌を打つカザン君。
横にいるナレアさんは......何やら不満そうにしているし何が何やら......。

「それはそうと、ノーラちゃんは?」

とりあえず、困ったら話題を変えるに越したことはない。
ナレアさんと一緒にこの部屋に来たはずのノーラちゃんの姿が無いのは最初から気になっていたしね。

「......龍王国からナレアさんが書簡を運んで下さったので席を外してもらったのですよ。」

「龍王国から......?あ、じゃぁ邪魔しちゃったかな?」

ナレアさんが運んだってことは正式な外交って感じではないのだろうけど、もしかしたらナレアさんに何か相談をしていた可能性も零ではないよね。

「いえ、ナレアさんから書簡を受け取って読んだだけですし。返事をどうやって送ればいいか悩んではいますが......。」

「今回は私的な物として運んだからのう。黒土の森での用事が終われば向こうに戻るから、その時に運んでやるのじゃ。それとも公に使者を立てて返事するかの?」

ナレアさんの言葉に少しカザン君は考えたようだが、すぐに首を横に振る。

「いえ、今は使者として立てられるような人材はグラニダから離れてもらっては困ります。往復にどれだけ時間が掛かるか分かった物ではないですし......というか無事にたどり着くにはそれなりの兵を率いていく必要がありますし......途中にある勢力を刺激せずに龍王国まで行くのは不可能ですね。」

まぁ、それはそうだろうね。
例え戦時下でなくても、無断で兵が他勢力圏を通過できるわけがないし、許可を求めてもそうそう許可は出ないよね。

「まぁ、そうじゃろうのう。では......。」

「はい。お手数おかけしますが、依頼させていただいてもよろしいでしょうか?」

「うむ。確実に届けるのじゃ。」

「よろしくお願いします。皆さんが黒土の森より戻ってくるまでにしたためておきます。」

「うむ......では、妾は風呂に行くとするかのう。ケイも一緒にどうじゃ?」

ナレアさんが立ち上がりながら無茶苦茶言ってくる。

「......遠慮しておきます。」

「ほほ、つれぬのう。」

そんな台詞を残してナレアさんが部屋から出ていく。
気のせいかなんかナレアさん不機嫌だったような......。
何故......?

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