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5章 東の地
第258話 本棚と言えば
しおりを挟むナレアさんとリィリさんが己の趣味に耽る中、男勢は黙々と調査を続けていた。
因みにカザン君は首を傾げながらぱらぱらと本をめくっている。
恐らく記憶を遡りながら本を確認しているのだろう。
それにしても物凄い蔵書量だよな。
グラニダは東方では珍しく歴史の長い勢力と聞いてはいたけど、何代くらい続いてきたのだろう?
考えてみると......今回のグラニダに仕掛けられた陰謀は、下手したら何代も続いてきたその歴史が途絶えていたかもしれないのだよね。
センザの街からカザン君達を逃がした時、セラン卿やネーアさんは自分達の命を賭けていたし......逃げるカザン君達もかなりの覚悟を持っていた。
エルファン卿やコルキス卿の動きのお陰で、セラン卿達はグラニダを取り戻す方向に方針を変えることが出来たけど......カザン君達を探すのには苦労していたらしい。
何も決めずに急いで逃がしたって感じだったみたいだからね。
当てもなく逃げる相手を探すのは相当大変だったはずだ。
しかもカザン君達は懸賞金を掛けられていたから人目をさけるはずだしね。
まぁ俺達と出会ったことでカザン君達はセンザの街に戻ることになり、上手いことセラン卿達と再会を果たすことが出来た。
本当に偶然ではあったけど、あの時カザン君達に逢うことが出来て本当に良かったと思う。
「ケイさん?どうしました?」
そんなことを考えながらカザン君の方を見ていたら、本から視線を上げたカザン君と目が合った。
「あぁ、いや。何でもないよ。偶々顔を上げた先にカザン君がいただけ。」
わざわざあの時の事を思い出させて恐縮させる必要もないしね。
「そうでしたか。すみません、私がちゃんと思い出せていればお手数おかけすることもなかったのですが。」
しまった......結局恐縮させてしまった。
「いや、大丈夫だよ。こうして思い出そうとしてくれているし......あっちの二人は完全に趣味に走っちゃっているけど。」
非常に楽しそうに本を読んでいるナレアさんとリィリさんを視線で示すと、カザン君は苦笑する。
「これからは私もここの蔵書で勉強しないといけませんね。」
「そう言えば、こっちに昔の政策とかで使った書類とかがあったな。」
「そちらにもありましたか......少し書庫の整理をしたいですね。」
「ふむ......それはいい案じゃな。良ければ整理を手伝ってもいいが......目録はないのかの?」
入り口付近で手に取った本を読んでいたナレアさんが顔を上げてこちらを見ていた。
「目録は......聞いた覚えがないですね。」
「これだけの蔵書数で目録がないのは不便じゃな。ではまず目録を作る所から始めるかのう。」
ナレアさんが嬉しそうに本棚を眺めながら整理を始める算段を始めたようだ。
「流石に目録を作るとなると人手が必要ですね。時間も必要でしょうし......。」
「この量じゃからな。少し状況が落ち着いたら取り掛かるとするかのう。」
「その時は是非お力をお貸しください。」
「ほほ、寧ろこちらから参加させてほしいと願い出たいくらいじゃ。よろしく頼むの。」
偶に見せる無邪気な笑顔をナレアさんが浮かべながらカザン君に語り掛ける。
ナレアさんは知識や未知の探求とかが本当に好きだよね。
嬉しそうに本を読むナレアさんを見ると和む......いや、今は読書タイムじゃなくって調査中ですからね?
しかしそんな俺の心の声は届いていないのか、ナレアさんは楽し気にページをめくっている。
......まぁ、幸せそうだしいいか。
少し離れた棚ではレギさんが黙々と調査を続けている。
レギさんはこういう黙々と作業を続けるのが本当に好きだよな......最近こういった作業が出来なかったせいか、いつもより生き生きとやっている気がするし。
三者三様だけど今まで色々と張りつめていた分、皆いい気分転換になっているようだね。
「カザン君は本とか結構読むの?」
俺と同様に皆の様子を見ていたカザン君に話しかける。
「あー、あまり今まで読んで来ませんでしたね......ケイさんはどうですか?」
若干苦笑しつつ頭を掻きながらカザン君が聞いてくる。
「ん-俺もそこまで読んでいたわけじゃないかなぁ。嫌いってわけじゃないけど、他の事を優先しちゃうかな?」
「なるほど......私も似たような感じでしょうか。これからはもう少し勉学に力を入れる必要がありますね......。」
「大変だね......。」
流石にそれは手伝える気がしないな......。
「やらなきゃいけないことが多すぎて目が回りそうですよ。」
「手伝ってあげたいのはやまやまだけど......俺じゃそっち方面は戦力にならないだろうなぁ。」
若干気の毒に思わないでもないけど......手伝うというよりも足を引っ張るのが関の山だろう。
そう思いながら本棚から本を一冊手に取った所、本棚の奥に穴のようなものを見つけた。
「あれ?本棚に穴が......虫に食われたのかな?」
この辺は年代物の本が置いてあるしな......ってかこっちの本は大丈夫か?
気になって手に取った本を調べてみたがどこにも破損は見当たらなかった。
手に持っていた本から目を離し本棚の方をよく見てみる。
これは、虫食いや自然に壊れたと言うよりも......鍵穴......か?
「カザン君、これ見て。」
「何ですか?」
俺がカザン君に呼び掛けると、本から顔を上げたカザン君が傍に来る。
「この本棚の奥......穴が開いているんだけど、あれって鍵穴じゃないかな?」
「......確かにそれっぽく見えますね。」
「ちょっとこの棚の本を全部出してみようか......あ、その前にこの本が穴の前に立っていたんだけど......。」
一応内容も確認しておこう......謎解き要素の可能性も......って日本のゲームとか物語に毒された考えかな?
そんなことを考えながら開いてみた本の内容は......また料理関係の本か......多分謎解きとは関係なさそうだな。
念の為すぐ分かる位置にこの本は置いておいて......カザン君と二人でこの本棚に収まっている本を丁寧に外に出していく。
「どうしたんだ?」
俺達の様子に気付いたらしいレギさんが、羊皮紙の詰まった箱を棚に戻しながら問いかけてくる。
「この本棚の奥に鍵穴のようなものを見つけまして......他にもないか、確認してみようと。」
「鍵穴らしきものか......確かに気になるな。」
そう言ってレギさんが俺達の作業している本棚に近づいてきた。
ナレアさん達も俺達の様子に気付いたのか興味深そうにこちらを見ている。
とりあえず三人で本棚の本や羊皮紙の収められた箱を全て出してみたが、俺が見つけた一つ以外に穴は開いていなかった。
「仕掛けまでは見えないが、鍵穴に間違いなさそうだな。」
穴を調べていたレギさんがこちらを見ながら言ってくる。
次いでナレアさんが鍵穴を調べる。
「本棚に鍵穴かー、他の本棚にもないか調べてみる?」
「そうですね。今ナレアさんがここを見てくれているので、他の本棚も調べてみましょうか。」
俺とリィリさんが一つ隣の棚に移動して本を抜いていく。
レギさんとカザン君も別の棚の所に行って作業を開始した。
ナレアさんは魔道具を使いながら鍵穴を調べているようだ。
この本棚も年代の古い物のようだね、本や羊皮紙の変色が激しい。
俺は丁寧に本棚から本を退けていくが......どうやらこの本棚には鍵穴はないようだ。
「この本棚にはなさそうですね。」
「そうみたいだねー、この本棚にもあったら本棚が倒れてくるのを防止する留め具の掛け金の可能性もあったけど。」
「それは切ないです......。」
リィリさんはアハハと笑っている。
「レギさん、そちらはどうですか?」
「あー、こっちの本棚にも無さそうだな。一応他の本棚も調べてみるが、そこだけの可能性は高そうだな。」
レギさんが本棚の奥に手を伸ばしながら言う。
やはり転倒防止用の留め具の可能性は低そうだ。
リィリさんが切ない可能性を呟いたのでちょっと心配になったよ。
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