上 下
259 / 528
5章 東の地

第258話 本棚と言えば

しおりを挟む


ナレアさんとリィリさんが己の趣味に耽る中、男勢は黙々と調査を続けていた。
因みにカザン君は首を傾げながらぱらぱらと本をめくっている。
恐らく記憶を遡りながら本を確認しているのだろう。
それにしても物凄い蔵書量だよな。
グラニダは東方では珍しく歴史の長い勢力と聞いてはいたけど、何代くらい続いてきたのだろう?
考えてみると......今回のグラニダに仕掛けられた陰謀は、下手したら何代も続いてきたその歴史が途絶えていたかもしれないのだよね。
センザの街からカザン君達を逃がした時、セラン卿やネーアさんは自分達の命を賭けていたし......逃げるカザン君達もかなりの覚悟を持っていた。
エルファン卿やコルキス卿の動きのお陰で、セラン卿達はグラニダを取り戻す方向に方針を変えることが出来たけど......カザン君達を探すのには苦労していたらしい。
何も決めずに急いで逃がしたって感じだったみたいだからね。
当てもなく逃げる相手を探すのは相当大変だったはずだ。
しかもカザン君達は懸賞金を掛けられていたから人目をさけるはずだしね。
まぁ俺達と出会ったことでカザン君達はセンザの街に戻ることになり、上手いことセラン卿達と再会を果たすことが出来た。
本当に偶然ではあったけど、あの時カザン君達に逢うことが出来て本当に良かったと思う。

「ケイさん?どうしました?」

そんなことを考えながらカザン君の方を見ていたら、本から視線を上げたカザン君と目が合った。

「あぁ、いや。何でもないよ。偶々顔を上げた先にカザン君がいただけ。」

わざわざあの時の事を思い出させて恐縮させる必要もないしね。

「そうでしたか。すみません、私がちゃんと思い出せていればお手数おかけすることもなかったのですが。」

しまった......結局恐縮させてしまった。

「いや、大丈夫だよ。こうして思い出そうとしてくれているし......あっちの二人は完全に趣味に走っちゃっているけど。」

非常に楽しそうに本を読んでいるナレアさんとリィリさんを視線で示すと、カザン君は苦笑する。

「これからは私もここの蔵書で勉強しないといけませんね。」

「そう言えば、こっちに昔の政策とかで使った書類とかがあったな。」

「そちらにもありましたか......少し書庫の整理をしたいですね。」

「ふむ......それはいい案じゃな。良ければ整理を手伝ってもいいが......目録はないのかの?」

入り口付近で手に取った本を読んでいたナレアさんが顔を上げてこちらを見ていた。

「目録は......聞いた覚えがないですね。」

「これだけの蔵書数で目録がないのは不便じゃな。ではまず目録を作る所から始めるかのう。」

ナレアさんが嬉しそうに本棚を眺めながら整理を始める算段を始めたようだ。

「流石に目録を作るとなると人手が必要ですね。時間も必要でしょうし......。」

「この量じゃからな。少し状況が落ち着いたら取り掛かるとするかのう。」

「その時は是非お力をお貸しください。」

「ほほ、寧ろこちらから参加させてほしいと願い出たいくらいじゃ。よろしく頼むの。」

偶に見せる無邪気な笑顔をナレアさんが浮かべながらカザン君に語り掛ける。
ナレアさんは知識や未知の探求とかが本当に好きだよね。
嬉しそうに本を読むナレアさんを見ると和む......いや、今は読書タイムじゃなくって調査中ですからね?
しかしそんな俺の心の声は届いていないのか、ナレアさんは楽し気にページをめくっている。
......まぁ、幸せそうだしいいか。
少し離れた棚ではレギさんが黙々と調査を続けている。
レギさんはこういう黙々と作業を続けるのが本当に好きだよな......最近こういった作業が出来なかったせいか、いつもより生き生きとやっている気がするし。
三者三様だけど今まで色々と張りつめていた分、皆いい気分転換になっているようだね。

「カザン君は本とか結構読むの?」

俺と同様に皆の様子を見ていたカザン君に話しかける。

「あー、あまり今まで読んで来ませんでしたね......ケイさんはどうですか?」

若干苦笑しつつ頭を掻きながらカザン君が聞いてくる。

「ん-俺もそこまで読んでいたわけじゃないかなぁ。嫌いってわけじゃないけど、他の事を優先しちゃうかな?」

「なるほど......私も似たような感じでしょうか。これからはもう少し勉学に力を入れる必要がありますね......。」

「大変だね......。」

流石にそれは手伝える気がしないな......。

「やらなきゃいけないことが多すぎて目が回りそうですよ。」

「手伝ってあげたいのはやまやまだけど......俺じゃそっち方面は戦力にならないだろうなぁ。」

若干気の毒に思わないでもないけど......手伝うというよりも足を引っ張るのが関の山だろう。
そう思いながら本棚から本を一冊手に取った所、本棚の奥に穴のようなものを見つけた。

「あれ?本棚に穴が......虫に食われたのかな?」

この辺は年代物の本が置いてあるしな......ってかこっちの本は大丈夫か?
気になって手に取った本を調べてみたがどこにも破損は見当たらなかった。
手に持っていた本から目を離し本棚の方をよく見てみる。
これは、虫食いや自然に壊れたと言うよりも......鍵穴......か?

「カザン君、これ見て。」

「何ですか?」

俺がカザン君に呼び掛けると、本から顔を上げたカザン君が傍に来る。

「この本棚の奥......穴が開いているんだけど、あれって鍵穴じゃないかな?」

「......確かにそれっぽく見えますね。」

「ちょっとこの棚の本を全部出してみようか......あ、その前にこの本が穴の前に立っていたんだけど......。」

一応内容も確認しておこう......謎解き要素の可能性も......って日本のゲームとか物語に毒された考えかな?
そんなことを考えながら開いてみた本の内容は......また料理関係の本か......多分謎解きとは関係なさそうだな。
念の為すぐ分かる位置にこの本は置いておいて......カザン君と二人でこの本棚に収まっている本を丁寧に外に出していく。

「どうしたんだ?」

俺達の様子に気付いたらしいレギさんが、羊皮紙の詰まった箱を棚に戻しながら問いかけてくる。

「この本棚の奥に鍵穴のようなものを見つけまして......他にもないか、確認してみようと。」

「鍵穴らしきものか......確かに気になるな。」

そう言ってレギさんが俺達の作業している本棚に近づいてきた。
ナレアさん達も俺達の様子に気付いたのか興味深そうにこちらを見ている。
とりあえず三人で本棚の本や羊皮紙の収められた箱を全て出してみたが、俺が見つけた一つ以外に穴は開いていなかった。

「仕掛けまでは見えないが、鍵穴に間違いなさそうだな。」

穴を調べていたレギさんがこちらを見ながら言ってくる。
次いでナレアさんが鍵穴を調べる。

「本棚に鍵穴かー、他の本棚にもないか調べてみる?」

「そうですね。今ナレアさんがここを見てくれているので、他の本棚も調べてみましょうか。」

俺とリィリさんが一つ隣の棚に移動して本を抜いていく。
レギさんとカザン君も別の棚の所に行って作業を開始した。
ナレアさんは魔道具を使いながら鍵穴を調べているようだ。
この本棚も年代の古い物のようだね、本や羊皮紙の変色が激しい。
俺は丁寧に本棚から本を退けていくが......どうやらこの本棚には鍵穴はないようだ。

「この本棚にはなさそうですね。」

「そうみたいだねー、この本棚にもあったら本棚が倒れてくるのを防止する留め具の掛け金の可能性もあったけど。」

「それは切ないです......。」

リィリさんはアハハと笑っている。

「レギさん、そちらはどうですか?」

「あー、こっちの本棚にも無さそうだな。一応他の本棚も調べてみるが、そこだけの可能性は高そうだな。」

レギさんが本棚の奥に手を伸ばしながら言う。
やはり転倒防止用の留め具の可能性は低そうだ。
リィリさんが切ない可能性を呟いたのでちょっと心配になったよ。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...