上 下
225 / 528
5章 東の地

第224話 作戦立案

しおりを挟む


「カザン君聞こえる?」

『......はい、ケイさん。聞こえています。』

俺が通信用魔道具に声を掛けるとすぐにカザン君から反応が返ってくる。
宿に戻ってきた俺達は、あらかじめマナスに頼んでカザン君に通信の準備をしてもらっておき打ち合わせを始めた。

『定時外の連絡と言うことは何かあったのですか?』

「うん、俺達もまだ詳しくは聞いていないのだけど......カザン君とノーラちゃんの居場所がアザル兵士長達にバレたみたいだ。」

『......そうでしたか。』

魔道具越しなのでカザン君がどのような表情をしているかは分からない。
だがその落ち着いた声からは慌てたような印象は受けない。

「詳細はこれからファラに確認するところだけど、カザン君にも中継するから聞いておいて。」

『分かりました。よろしくお願いします。』

「それじゃぁファラ。アザル兵士長側の話を聞かせてくれるかな?」

『承知いたしました。先ほどもお伝えしましたが、カザン様とノーラ様がセンザの街にいるという情報が今日アザル兵士長の元に届きました。ですがセラン卿の元にいるとは分かっていないようです。いえ、疑ってはいるようですがコルキス卿の手の者が封鎖している以上その線は薄いと考えているようです。』

コルキス卿凄いな......疑われていない所か、相当信頼されているみたいだな。

『コルキス卿の手腕に薄ら寒い物を感じますね......。』

俺がカザン君に話を伝えると俺と似たような感想を抱いたようだ。

「セラン卿についてはコルキス卿が完全に封じ込めているっていう認識みたいだね。次のアザル兵士長の動きはどうするか分かる?」

『部下を数人センザに送り込むようです。街に潜伏していると考えているようですが......確実な目撃情報と言う訳ではないようです。』

「なるほど......誰かが裏切ったとかいう話ではなさそうだね。懸賞金目当てのガセ情報って可能性も高そうだね。」

残念ながら、適当に言ったかもしれないけど......真実にかすっているからな......こっちとしてはありがたくない偶然だ。

『アザル兵士長もその線を疑っているようでしたが、関係の深い街と言うこともあり部下を使って調べることにしたようです。』

嘘から出た実ではあるけど......カザン君の事を調べていればセンザは一番怪しい場所ではあるし、密告者も当たればラッキーくらいの気持ちで密告したのかもな。

「......とりあえず調べるって感じか。ならセラン卿との関係を薄めたいな。」

ファラの話を聞いたレギさんが少し考えるようにしながら言う。

「どういうことですか?」

「セラン卿の元からカザン達が逃げ出したことは確定情報として伝わっている。だからこそセラン卿の家と貴族区を封鎖するだけでアザル兵士長は納得しているが......セラン卿とカザンがまだ繋がっていると分かれば、直接乗り込んでくるか警戒をもっと厳重にするはずだ。今の時点でそれはかなりまずい。」

確かに......今はセラン卿とエルファン卿が色々と反抗作戦の準備をしている最中だ。
今はなるべく波風を立たせずにセンザの街の印象を薄めておきたいはずだ。

「なるほど......では他の場所でカザン君を目撃させるとかですか?」

「それも悪くないが......。」

「ふむ、どうせなら誘導ついでにこの前セラン卿達との話の中に出てきた手を試すのはどうじゃ?」

レギさんが少し考えるような素振りを見せた所で、ナレアさんが提案してくる。

「この前の話に出てきた手と言うと......部下を捕らえるってやつですか?」

「うむ、カザン達を探しに来た奴らを逆に捕らえるのじゃ。」

「ですが、それをすると警戒が上がって他の者達に逃げられる可能性がってことで保留になりましたよね?ファラ達に追跡させるのですか?」

「それも悪くない方法だと思うのじゃが......今回は偽装するのじゃ。」

「偽装ですか?」

「うむ、まずはセンザの街でカザンを目撃させるのじゃ。その後どこか適当な場所でノーラと合流して別の街を目指すのじゃ。勿論妾達が傭兵として護衛に着いていることを装う。相手の人数は分からぬが、こちらの方が人数が多かった場合襲い掛かってこない可能性もあるから、護衛に着くのは二人にするのじゃ。勿論遠巻きに残りの二人も監視するがの。」

カザン君達がセンザの街から別の街に移動を始めたってことにするのか?
でもそれだとセンザから注目は外すことが出来るだろうけど、あまり意味が無いような?

「それでカザン達を襲わせるのじゃが......ここで一人を残して全員を殺すのじゃ。」

......え?

「こ、殺すのですか?」

「正確には残した一人に仲間は全員死んだと思わせる、じゃ。」

あぁ、なるほど。
そういうことか......びっくりした。

「ケイなら死んだと思わせられるじゃろ?勿論残した一人は逃がすのでアザル兵士長の元には部下の死とカザン達が別の街を目指してい移動していることが伝わるじゃろ?さらに妾達は組織の手の者を捕獲できて一石三鳥といった所じゃな。」

「なるほど......そうですね、死んだように見せかけるのは問題ないと思います。」

「突然部下が姿をくらましたりすれば、捕らえられたり裏切りを警戒する必要がある......じゃが、目の前で死んでいれば......それ以降その者の事を気にすることはないじゃろ?」

「ってことは分かりやすく死んでもらう必要がありますね......。」

流石に首を落とすようなことは無理だけど......ぱっと見で分かるような大怪我をさせる必要があるな......。

「僕が援護するのでレギさんに仕留めてもらっていいですか?」

「仕留めたら不味いだろ......だが、了解だ。派手にやればいいんだろ?」

「死なない程度に死体に見えるようにって......かなり難しいこと言っていると思いますけど。」

「治療は早めにしてやってくれ。」

「了解です。」

魔道具の向こうにいるカザン君に聞こえない様に小声でレギさんが俺に告げてくる。
回復系の魔法はカザン君にも秘密だからな......これはかなりの大怪我をさせるって宣言だよな。
しかし......カザン君には色々と俺達の事で周りに秘密を作らせている。
そこまでしてくれているカザン君にまだ秘密にするって言うのは非常に不義理な感じがするな......ちょっと後で皆に相談しよう。

「では、カザン達の護衛をするのはレギ殿とケイじゃな......っと、その前にカザンよ。」

『はい、なんでしょうか?』

「妾の計画ではお主と......ノーラを囮にする必要がある。勿論レギ殿とケイが必ず二人を守ってくれるし、妾達も少し離れた位置からではあるが全力で守るのじゃ。」

『妹を囮にすることには少し抵抗がありますが......安全については心配していません。私はナレアさんの作戦に乗ろうと思います。』

「感謝するのじゃ。絶対に怪我一つ負わせないと誓うのじゃ。」

ナレアさんが神妙な面持ちで誓う。
今作戦において、一番近くでノーラちゃんとカザン君の護衛をするのは俺とレギさんだ。
どんなことがあろうと二人を守ってみせる。
レギさんの方をみると神妙な面持ちになっているが......俺も同じような表情をしているのだろうか?

「では、計画を詰めていくのじゃ。まずはファラに何人センザに派遣されるかを確認してもらうのじゃ。後はそやつらがセンザにきてからカザンを囮に森にでも連れて行くのじゃ。カザンの護衛は......。」

「僕がやります。監視しているネズミ君の言葉をシャルに中継してもらえば相手の動きも完全に把握出来るので。」

「ではケイに頼むのじゃ。」

カザン君の護衛はともかく、囮なんだから不自然にならない様に行動しないとな。
相手は生粋の密偵ってわけじゃないみたいだけど油断は出来ない......自然、自然にやらないとな。

「森ってのは、以前俺達がいた所か?」

「前拠点にしていた場所は流石に遠すぎるのじゃ。ファラ達であれば半日もかからぬが普通に移動するとなると数日かかるからのう。」

「確かにそうだな。なら初めてセンザの街に行った時に、リィリ達が待機していた丘のあたりはどうだ?裏には森が広がっているし下からは死角になっていて隠れて過ごすにはいい場所だろう。」

「相手も襲撃を仕掛けやすいじゃろうし、おびき出すのはそこにするかの。」

俺達はお互いに意見を出してアザル兵士長の部下を捕獲するための計画の詳細を一つ一つ詰めていった。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...