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5章 東の地

第218話 命拾い

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View of ナレア

ファラの視界を覗いていたケイはどうやらアザル兵士長の顔を見ることが出来たようじゃな。
妾が見た感じ、アザル兵士長は歴戦の戦士というには若すぎるように思えた。
まぁレギ殿のように歴戦の戦士といった風貌で以外と若いと言うこともあるからのう......その逆があってもおかしくはないが......話を聞く限り精神的にも未熟な人物と言った印象を受けたからのう、見た目通りの年齢じゃろうな。
そういう意味でいえば、ケイは年齢の割に老成しておる感じはするがのう。
というか、ケイにしろレギ殿にしろ......うちの男連中は精神的に落ち着き過ぎじゃな。
特にケイは......もう少し年相応な感じを見せてくれるといいのじゃがのう。
まぁ内心が駄々洩れなところは年相応と言った感じじゃが......そうでもないと可愛げが無さすぎるから丁度いいのじゃ。
それはそうと......ケイの様子が少しおかしいような?
先程まではファラの視界を見ながら結構喋っておったと思うのじゃが......アザル兵士長の顔が見えたと言ったきりじゃな。
ファラの視界に集中している感じではあるが......何かに驚いているというか......少し険しい表情をしているようじゃ。
どこかで見た覚えのある顔なのじゃろうか?
妾に見覚えは無かったが......。
強く目を瞑っていたケイであったが、やがて目元を抑えるように手を動かす。

「ケイよ。無理をしてはいかんのじゃ。違和感があるようならすぐに魔道具を停止させるのじゃぞ?」

「......はい。」

返事をするも......上の空と言った感じじゃな。
生返事とは......随分ケイにしては珍しい反応だのう。
ケイは魔道具の使用を止めることなく、目元を覆う様に手で顔を覆っていたのだが......やがて口に笑みが浮かぶ。
声を上げず目元を隠し、歯をむき出して嗤うケイらしからぬ表情に底冷えのするような感覚を覚える。

「ケイ。どうした?」

妾と同じようにケイの様子に気づいたレギ殿が声を掛ける。

「......いえ、すみません。大丈夫です。」

そう言ったケイは視覚共有の魔道具を停止する。
目元を抑えていた手を今度は口元に持って行ったケイは、ゆっくりと目を開けて魔道具をテーブルの上に置く。
普段とは違う目の光を湛えたケイは、肩に掴まっているシャルに手を伸ばすと胸に抱き直す。
胸に抱かれたシャルも心配そうな表情を見せながらケイに何やら語り掛けているようじゃな。

「うん、大丈夫だよ。シャル。」

目に宿した光を消し、普段のような柔らかい笑みを浮かべてシャルに返事をするケイ。
だが、シャルもリィリも不安そうな表情でケイを見る
もしかしたら妾も同じような表情をしているかもしれぬが......レギ殿も気遣わしげだ。
妾達の表情に気付いたらしいケイが慌てたような表情を見せる。

「す、すみません。」

慌てた様子のケイは......普段通りと言った感じじゃな。

「大丈夫かの?魔道具に何か不具合でもあったのかの?」

「いえ、ナレアさん。魔道具はしっかりと作動していました。目にも違和感はありません。ただ少しファラの視界に集中し過ぎたみたいです。」

「見ていたのはアザル兵士長だろ?何があった?」

レギ殿がアザル兵士長の名前を出すと、一瞬だけケイの口元に笑みが浮かぶ。
やはり少しおかしいようじゃが......その原因はアザル兵士長で間違いなさそうじゃな。

「いえ、彼は特に何もしていません。ファラの報告に遭ったように書斎で本を読んでいました。」

ふむ、何か刃傷沙汰でも起こったかと思ったが......いや、そうであればケイが嗤う筈はないか......。
まぁ、随分と似合わぬ表情ではあったがのう。

「「......。」」

皆の気遣わし気な視線を受けてケイが困ったような笑みを浮かべる。
そして少しだけ考えるような素振りを見せた後ゆっくりと口を開く。

「......アザル兵士長ですが......僕の知っている人物でした。」

......まぁ、それは予想通りじゃ。
リィリ達も同じようで軽く頷いている。

「僕がこの世界に来てまだ間もない頃、神域に侵入して母に攻撃を仕掛けてきた連中......あの頃は言葉が分からなかったので何を言っているか分かりませんでしたが、唯一姿を僕達の前に出して正面から母に攻撃を放った人物。あの時の男に間違いないですね。」

ケイがそう口に出した次の瞬間、途轍もない殺気が辺りを包み込んだ。



View of ケイ

「シャル。」

俺は腕に力を込めて、今にも飛び出していきそうな程の怒りを見せるシャルに声を掛ける。

『ケイ様......!』

珍しくシャルが不満げな声を上げる。
俺は胸に抱いているシャルの頭を撫で、落ち着かせようとしたのだが......。
左肩に乗っていたマナスが俺から飛び降りてすごい勢いで窓から外に出て行こうとする。

「マナス!ストップ!止まって!」

慌ててマナスに声を掛けると窓から外に飛び出す直前のマナスが動きを止める。
......まさかマナスまで飛び出そうとするとは思わなかったな。
ファラにはこちらの声が聞こえていないから大丈夫だろうけど......もしマナスの分体をファラに同行させていたらアザル兵士長はもう死んでいたかもしれないな......。

「シャルもマナスも落ち着いて。まだアザル兵士長をどうこうするのは早いよ。」

折角見つけた相手だ......しっかりと調べた上でぶっ飛ばさないとね。

『しかしケイ様!彼の者のせいでケイ様が命を落とすところだったと聞いております!それは私達にとって絶対に許すことが出来ない所業です!殺すだけでは飽き足りません!』

シャルは俺の事でムッとすることはよくあるけど、ここまで俺に対して怒りを見せることはなかったな。
そしてマナスが俺に指示されたわけでもないのに飛び出そうとするのも予想外だった。
シャルは話を聞いた瞬間俺が声を上げる間もなく飛び出していきそうだったから胸に抱いていたのだけど......いつも冷静......大人しい......マナスまでもとは思わなかったよ。
二人がそれだけ俺の事を思ってくれるのは嬉しいけど......少し落ち着いてもらわないとね。
まぁ二人のお陰で俺も少し落ち着いたけどさ。

「うん、二人の気持ちは嬉しいけどね。」

窓際にいるマナスに手を伸ばすとマナスが俺の手を登っていつもの位置に収まった。
シャルとマナスの事をそれぞれ撫でてから言葉を続ける。

「シャルの言う様に殺すだけじゃダメなんだ。」

いや......すっごいムカついているけど、殺すほどかというと......ちょっと疑問だな。
向こうは殺す気満々で攻撃を仕掛けてきたし、母さんが助けに来てくれなければ確実に死んでいたのだからやり返す分には何も問題ないと思うけど......それでも殺すっていうのはな......。

「アザル兵士長の裏にはなんらかの組織がいる。そしてあの時の襲撃は間違いなくその組織が関わっているはずだ。我ながら短気なことだとは思うけど......そいつらにも報いを受けさせないといけないからね。ここでアザル兵士長を殺してしまっては偶然とは言え、折角見つけた手がかりが途絶えてしまう。それはダメだ。」

シャルを撫でながら俺が言うと、辺りを覆っていた重い雰囲気が霧散したようだ。
緊張した面持ちだったレギさん達がほっとしたような様子を見せる。
俺はあまり感じられていなかったけれど......シャル達が殺気を放っていたのかもしれないな。

「報いを受けさせるって......数年前の事だし、随分と陰湿だとは思うけど......。」

「......そんなことはないと思うがの。ケイから聞いていた神域の襲撃、そして今回グラニダに仕掛けた陰謀。どう聞いても平和的な連中ではないのじゃ。しかも御母堂から奪った魔力を持っておるのじゃろ?けして野放しにしていい相手ではないのじゃ。」

「......まだ残っているなら母の魔力は取り戻したいと思っています。流石の僕でも今のこの世界で母さんの魔力が使われると言うのはとんでもないことだと分かります。母は大した量を奪われたわけじゃないって言っていましたが......保有している魔力量の桁が違い過ぎて参考になりませんね。」

俺がそう言うとナレアさん達が頷く。

「先ほどもアザル兵士長の背後を調べることで話はついていたが......最上位の優先度で調べる必要がありそうじゃな。」

「はい......カザン君達の事もありますが......僕が神域の外に出た理由の一つでもありますし、申し訳ないとは思いますが、ファラ達には無茶なことを言いますが頑張ってもらいたいですね。」

折角見つけた手がかりだ。
絶対に逃がさない!

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