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5章 東の地
第212話 領都
しおりを挟むセンザの街から数日をかけて俺達はグラニダの領都に来ていた。
領都はセンザの街よりもさらに大きく人口もかなり多そうだ。
センザの街と同様に活気があり、衛兵も普通に巡回しているようだし......トールキン衛士長が抜けたせいで衛兵がちゃんと仕事をしていないと言うこともなさそうだね。
宿の部屋から見下ろす風景にもおかしなところはなく、遠くから子供の遊んでいる声が聞こえてくる。
「なんかついこの前も言った気がしますけど、平和ですね。」
「そうだな。まぁ領都が平和なのはある程度把握していたことだがな。」
「領都は食事も結構充実しているみたいだねー。流石に龍王国や都市国家方面程豊富とは言えないけど。」
リィリさんが屋台で買ってきた串焼きを頬張りながら嬉しそうに話す。
相変わらずおいしそうなものを見つける速度が速すぎる。
「食事云々はさておき、混乱が感じられないのは話に聞いている貴族が頑張っている証拠だろうな。つい最近、内乱が起きた国の首都とは思えない風景だ。」
レギさんの言葉を聞いてふと思ったけど......グラニダって国じゃないんだよね?
国と何が違うのだろうか?
領土の広さで言えばグラニダは結構広いし、俺が知っているだけでも大きな街が二つ、他にも多分あるのだろうし......開拓村もあるはずだ。
そもそも軍がいくつかに分かれるほどの規模があるのだから相当な兵力もあるわけで......国との違いはなんなのだろう?
「安定しているのはいいことなのじゃがな。領内の平和を願うカザン達には申し訳ないとは思うが......カザン達が動き出せば流石にこの街もこのまま平穏というわけにはいかぬじゃろうな。」
「そうでしょうが......このままと言う訳にはいかないと思いますけど。」
「それは......難しいところじゃな。今の安定を崩してまで、カザン達が権力を取り戻すことが本当に正しいかどうかは......後世にならないと分からないじゃろうな。」
歴史の問題とかそういうことですかね......?
今話しをしているのは現状を変えるべきか否かって話のはずだ。
「そういう問題じゃない......というかわざと言っていますよね......?」
「ほほ、では逆に問うのじゃ。現状の問題点はなんじゃ?」
ナレアさんは軽く笑った後、正面から俺を見据えて問いかけてくる。
ここからは真剣な話ってことですね......。
「......アザル兵士長が個人の武力で他者を支配しようとしていることだと思います。」
「それの何が問題なのじゃ?国の代表が誰にも負けぬ程強いと言うのはそこに住む者にとっては安心感があると思うのじゃ。」
「確かにそうかもしれませんが......。」
特に争いの絶えない東方の地ではトップが強い方が安心できるか。
いや、でもな......。
「不正な方法でのし上がった人が一番偉いというのは組織として問題だと思います。」
「別に問題ないじゃろ。そもそも領民からすれば非道な領主を倒した正義の兵士長じゃ。寧ろ人気があるのではないかのう?それに、現状それが不正かどうかは分からんじゃろ?」
「うぐ......それはそうですが......。」
それを調べに来たのだから......確かにまだ分かりませんけど......。
「ケイよ、調査に来たなら先入観は禁物じゃ。最初から疑惑を持って見れば灰色も黒になるのじゃ。」
「はい......すみません。」
何を言っても論破されてしまう......いや、ナレアさんに口で勝てるとは思ってないのだけど......これはそういう問題じゃない。
「しかし、自ら政治を執り行うことが出来ない人間に代表は......。」
「勤まるじゃろうな。一人で全てが出来る必要は無いのじゃ。寧ろ出来ないのに出しゃばって引っ掻き回すものよりも、仕事の出来る人間に的確に任せられるなら資格は十分じゃろ。」
遂に最後まで台詞を言わせてもらえなくなったよ......。
よし......一度落ち着こう。
ナレアさんが聞いて来ているのは現状の問題点だ。
アザル兵士長自体の話ではない。
一つ一つ考えて行こう。
まず現状上手くいっているのはなんでだ?
これは分かる。
コルキス卿がアザル兵士長の手綱を上手く取って政治を担っているからだ。
さらにコルキス卿がアザル兵士長の威を借りて今後に向けて邪魔な勢力を処分していっている。
ということは時間が経てば経つほどカザン君達には有利になるってことか......?
いや、それはないな。
地盤固めが出来るのはコルキス卿だけじゃない、アザル兵士長にだって有利になっていくかもしれない。
......次だ、問題はどこだ......?
政治的混乱はコルキス卿のお陰で特に問題として浮上はしていない。
トールキン衛士長が領都の警備から抜けたことで治安の面で問題が起こっているかと思ったが、治安に問題はなさそうだ。
経済とか流通に問題は......出ていたとしても正直俺には分からない......。
でも街を見る限りじゃ活気はあったし、品揃えも十分に見えた。
ってことは一般人の目線からはここも問題無しってことだろう。
......問題......あるのか?
俺はカザン君達と友誼を結んでいるからアザル兵士長を認められないだけなのか?
......政治はコルキス卿がいればなんとかなる。
経済も問題無さそうだ、恐らくコルキス卿が上手く回しているのだろう。
武力もあるから領民は安心できる......というかグラニダは元々周辺勢力とは比較にならない程戦力があるからここは問題ないだろう。
いや、コルキス卿は現政権の要ではあるけど......カザン君の味方だ。
......ん?
コルキス卿がいれば何とかなるってことは......コルキス卿がいなくなったら大変なことになるってことだよね?
コルキス卿はカザン君達にとって欠かせない人物ではあるけど、アザル兵士長にとっても欠かせない人物なのか。
現政権側の問題としては......要の人物が敵側の人物と言うこと?
いや......違う。
コルキス卿は現政権にとっての敵ではあるけどグラニダにとっての敵ではない。
あぁ、そうか......。
「今のグラニダの問題は......コルキス卿一人で支えているってことです。」
「ふむ?」
「コルキス卿は現在のグラニダの政治や経済の要です。コルキス卿に何かがあった場合その穴を埋められる人物がいません。」
いや、実際一人もいないのかどうかは分からない......もしかしたら俺が知らないだけでそういう人物がいるのかもしれないけど。
「一人の人物に支えられている状態は......正常とは言い難いです。」
「そうじゃな......今現在手に入れている情報だと......もしコルキス卿が周辺勢力に暗殺でもされたら、恐らくグラニダは崩壊するじゃろうな。」
それは......大問題ですね......。
「そうでなくとも、今コルキス卿が行っているのはぎりぎりの所での対処療法といった所じゃ。問題が噴出しない様に必死で抑え込んでいるに過ぎぬ。長くはもたぬのじゃ。」
さっき時間をかけた方が有利になるとか一瞬考えました、すみません。
そりゃそうだよね......広い領内で起こった問題を一手に引き受けて処理しているのだからいずれコルキス卿の処理能力を越えてしまう時が来るだろう。
そうなる前にカザン君達はここに辿り着かなきゃいけないのか。
そして俺達はそれまでに黒幕を見つけないといけないわけだ......。
「カザン君のお父さん......カラリトさんの汚名を雪ぐにはあまり時間がないのですね。」
「うむ、セラン卿やエルファン卿も何とかしたいとは考えているのじゃろうが......背に腹は代えられぬと割り切っている部分もある。為政者じゃからな、優先するべきは領地の安定であり故人の名誉ではないということじゃな。」
名より実ってことか......でも自らを犠牲にしてまで領地に住む人達の為に生きた人に不名誉......それも飛び切りの悪名を被せるなんて、とてもじゃないが気分のいいものじゃないし......カザン君の心に影を落とすことになるだろう。
それは非常に避けたい事態だ......。
ファラがどのくらい情報を集めてくれているか......いや......ファラならもう全て調べつくしているかもしれないよね?
宿について一息ついた頃に合流するって聞いているからそろそろ来てもいい頃かな?
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